黙ってayuを聞け

浜崎あゆみさんの歌 とりわけ歌詞の魅力を語るブログ

16thアルバム『A ONE』(前編)

アルバムタイトルは「エー・ワン」と読む。『A Song for ××』以来で「A」がロゴ表記でないが、これはロゴが登場してからでは初めて。

Colours』のノリのいいEDM路線から一転、噛み締めるような歌詞を載せたバラードを中心にまとめられたアルバムである。前述のロゴの件や、歌詞カードに部屋の中で静かに過ごしているあゆが映されている点など、『A Song for ××』を彷彿とさせる部分が見受けられる。もちろん作曲家陣も違うし、歌詞の内容を見ても年月を経てこそのものであるのだが、それにしても全体からそこはかとなく感じる、よく似た雰囲気は一体何であろうか。こと歌詞の言葉選びにおいては、胸の奥をさらけ出すようなヒリヒリ感、孤独感が『A Song for ××』のように突出している。新しいものを取り入れても、描く題材が増えても、あゆのたった一つの感性は歌詞を描き始めた頃と変わらないのだと実感する。

Blu-ray付属盤、DVD付属盤、CDのみ盤の3形態で発売。Blu-ray及びDVDには、4曲分のPVとメイキングを収録。また、Blu-ray付属盤とDVD付属盤にはファンクラブ限定盤もあり、『Tell All(2015 mix)』を収録、「ayumi hamasaki COUNTDOWN LIVE 2014-2015 A Cirque de Minuit」のBlu-rayまたはDVDとグッズなどをセットにしたものとなっている。ジャケットはBlu-ray付属盤とCDのみ盤がそれぞれ違うあゆの顔のアップ、DVD付属盤が寝そべるあゆのバストアップで、歌詞カードと共通で白いシンプルな肌着を身に着けている。

 

 

〔『A ONE』の記事 【前編】 【中編】 【後編】

 

 

a bell

作曲・編曲:中野雄太

 

インストゥルメンタル。静かなピアノから始まり、やがて一気に視界が開けるような広がりを持って美しく響き、アルバムの始まりを告げる。

 

 

WARNING

作曲:原一博

編曲:tasuku

 

インストゥルメンタルの次には、叩きつけるような激しさで奏でられるエレクトロニックロックに乗せ、切れ味鋭く警告を突き付けるこの作品でボルテージを上げる。

「これやりゃあれがよかった あれやりゃこれがよかった」と、その時々で勝手な要求をしてくる「あなた」に、「アタシ」はうんざりしている。しかもその相手は、「“出会った頃の君を たまには思い出して”」などと、こちらをコントロールしようとするのだ。「アタシ」はその言動を、「はけ口係は ごめんだわ」と唾棄する。「当たり前が増えてって 求めすぎるようになって」しまった「あなた」には、「近付きすぎたわ さよならね」ときっぱり別れを告げるだけだ。

どんなに距離の近い関係であっても、「アタシはアタシだけのものなの」という歌詞の通り、個人には守るべき領域がある。「本当のアタシをあなたは知らない」とあるが、「本当のアタシ」を大切にする気がないから、自分に都合のいい理想像を押し付けるのだろう。「黙ってなんかない お人形さんじゃない」と、「アタシ」はその身勝手さをはねのける。自分らしく生きる故の「変化」を恐れず、変化を許さない者の方こそ切り捨てる。あゆ作品には、この人にだけは分かってほしいとか、理解者は一人でもいればいいというスタンスがよく見えるが、この歌では「分け合う気なんてない 伝えるつもりもない」と、求めない相手には徹底して求めない表裏一体さが強烈に表れている。

あるいは、アーティストとしてのあゆが経験した事も反映されているのだろうか。知らぬ間に出来上がったイメージがまとわりつき、何かすれば「昔の方が良かった」などと言われがちなのがスターである。これは元々意地悪な人達よりも寧ろ、我々のようにファンを自覚する者こそが気を付けるべきかも知れない。熱心になるあまり全てを知った気になり、こっちの理想に合わせろと口出しする事を、あたかも善意かのように錯覚していないだろうか?

PVでは、レザーファッションやボンデージファッションの集団に囲まれながら、あゆが激しく歌いまくる。もみくちゃになりながらのパフォーマンスはかなり強烈で、『Lady Dynamite』のPVのようなギラギラ感を味わえる。

 

 

歌詞リンク:浜崎あゆみ WARNING 歌詞 - 歌ネット

 

 

NO FUTURE

作曲:小室哲哉

編曲:中野雄太

 

最初から最後まで切迫した空気を保ち続ける1曲。泣き叫ぶようなサビが耳に残る。

あゆ作品で道ならぬ恋の歌と言えば、『A Song for ××』の『As if...』がまず思い浮かぶ。深読みすれば『Missing』などもそうかも知れないが、そもそもあゆ作品には「共には生きられない相手を想い続けている」という複雑な状況を、あれこれ具体的にし過ぎず描写しているものが多く、聞き手の想像に委ねられる傾向にある。そんな中で、ぼかしながらも道ならぬ恋だと感じるような生々しい歌詞が、最初のアルバムにあるのは振り返れば衝撃的であった。

それでも『As if...』には「いつの日か きっと 一緒にいられるよね…」と一縷の望みに懸ける純真さがあったが、『NO FUTURE』はいっそ終わらせてくれと懇願する、悲痛な歌である。出だしから「出会うのが遅すぎた だなんて言わないで」「いつだったら出会ってよかったのか」という苦しみを吐き出す。会える日までを数えたり、携帯の音に期待したり、そんな楽しみは結局刹那的なものでしかなく、会えた後には「また明日じゃないまたねって 言葉冷たくて」という現実が待っている。

二人の関係の先に、思い描ける未来などない。分かっているのに、「横顔に落ちていった」自分をどうする事も出来ない。だから「私」は、「あなたから せめて言って欲しい 愛なんて存在しないよと」と望む。終盤の大サビの繰り返しはいよいよ追い詰められていくかのようで、ダメ押しで転調し、答えのない問いを残す。引き裂かれていく心情が痛々しいまでに伝わる言葉選びが、あまりにも巧みなのだ。

 

 

歌詞リンク:浜崎あゆみ NO FUTURE 歌詞 - 歌ネット

 

 

Anything for You

作曲:小室哲哉

編曲:中野雄太

 

優しさと壮大さを併せ持つバラード。歌詞も温かみを持って始まるが、サビではやや悲壮なメロディーに乗せて、意外なほど重みのある決意が述べられている。

「僕」はこれまで「君」と歩んできた道程を思い返している。「涙も隠せないほど」傷付いた事や、「ごめんねの悔しい笑顔」があった事。それでも、「おんなじ場所に今誰かが立っていて おんなじ戸惑いを抱えているんだろう」「痛みはいつでも 時間だけが和らげてくれる」と思える程度には、それらは過去になっている。不安がないわけではなく、「君」がまっすぐすぎて「上手くは立ち回れない」事は予想がつくが、「僕」の眼差しは「その君のままでいい」「無邪気なその笑顔 永遠に失わないでいて」と優しい。

「分け合い支え合う」関係の二人ではあるが、「僕」が「君」に「その手をもう少し伸ばして」と言っているのを見ると、僅かな距離も感じる。「僕」はもう一歩近付いて、手と手を取り合う、より深い絆を求めているのだろうか。「ねぇ僕の持っているものなら全部君にあげる」「大丈夫僕がその君の手を必ず掴むから」と、力強い愛を向ける。「晴れの日は僕が君の風になろう花が香るように」「こわいものなんてないよ 僕が全て先に見ておくから」という歌詞からは、『Moments』にも似た自己犠牲の精神すら見え隠れする。

この歌はあゆ作品としては演奏時間が長く、ゆったりと流れるように続き、最後のサビの連続では二度も転調して音が高くなる。全てを差し出すほどの「僕」の愛が、やわらかい口調のまま徐々に積み重なり、困難があっても「君」と少しずつ前に進んでいく様子が伝わってくるようだ。

 

 

歌詞リンク:浜崎あゆみ Anything for You 歌詞 - 歌ネット

 

 

 

 

今日は浜崎あゆみさんのデビュー日です。

26周年、おめでとうございます🎊🎉

25周年の1年間は、47都道府県ツアーという初の試みの元、最高潮で駆け抜けていきましたね。

26周年も、あゆが満足のゆく1年になるよう、祈っています。

 

さて……以前『A ONE』の記事を楽しみにしているとコメントして下さった「えり」さん、遂に辿り着きました。読んで頂けているでしょうか。

あれから随分時が経ってしまいました。ものすごく長く休んでしまった事もありました。読んでもらえなくてもそれは私の自業自得ですが、もし届いていたなら嬉しいです。

 

デジタル・アルバム『A THEME SONGS -Drama edition-』

あゆ作品のうち、テレビドラマの主題歌や挿入歌になったものを集めたアルバム。デジタルダウンロード限定でリリースされた。“ジャケット写真”は、収録曲のジャケットが形作る立体の「A」のロゴ。

LOVE ~since 1999~』『ever free』はアルバム初収録となる。聴き応えのあるバラードが多く、じっくり味わえるアルバムになっている。

 

 

LOVE ~since 1999~

LOVE ~Destiny~

SEASONS

ever free

Endless sorrow

Voyage

forgiveness

Sunrise ~LOVE is ALL~

BALLAD

how beautiful you are

Ivy

Hello new me

 

 

 

 

※「14thアルバム『LOVE again』(前編)」と「(中編)」にわずかな修正を加えました。

また、『MY STORY Classical』を「コラボレーション」のカテゴリーにも入れました。

リミックス・アルバム『LOVE CLASSICS』

タイトルの「A」はロゴ表記。クラシカル・アレンジのアルバムとしては『A Classical』以来ということになるが、今作はこれまでのものとは一味違う。あゆの楽曲に、クラシックの名曲の旋律がマッシュアップされているのだ。

あゆ作品とクラシックのメロディーの組み合わせは、意外性がありつつも、不思議と溶け合って良い雰囲気を醸し出している。また、必ずしも壮大なオーケストラサウンドというわけではなく、どちらかと言えば親しみやすさや可愛らしさを感じるアレンジが多い。あゆ作品と、クラシックの楽曲、双方に新しい魅力を発見出来るだろう。

ジャケットは『Zutto... / Last minute / Walk』のジャケットをイラストにしたもの。全体は白黒だがピンク色の花も描き足されている。

なお今回の記事では、あゆの楽曲のタイトルの次に、クラシックのタイトルも表記した。

 

Voyage

パッヘルベル:カノン

編曲:信澤宣明

 

人を感動させるコード進行と言われる『カノン』。そのコード進行を生かしながら、『Voyage』のメロディーが重ねられた。愛する人との人生を描く『Voyage』と組み合わせた事で、また新たな感動を味わえる。二人の旅路に待つ幸福な未来が見えるかのよう。

 

 

SEASONS

ドヴォルザーク交響曲第9番新世界より」第2楽章

編曲:吉川慶

 

ドヴォルザークの『新世界より』の第2楽章は、『家路』という歌になっている事でも有名で、懐かしさを感じさせる楽曲である。『SEASONS』とのアレンジは、軽やかに跳ねる音が可愛らしく、希望に満ちた明日を夢見るようなポップなイメージだ。

 

 

Days

ヴィヴァルディ:ヴァイオリン協奏曲「四季」“冬”第2楽章

編曲:福島祐子

 

季節ごとの情景が思い浮かぶ、ヴィヴァルディの『四季』。今回採用されたのは『冬』の第2楽章で、厳しい寒さに震えるような第1楽章からがらりと変わり、暖かな部屋で過ごすイメージの楽曲である。元はヴァイオリン協奏曲だが、金管木管でもモチーフが奏でられ、冬歌としてリリースされた『Days』に更なる優しさと温かさを加えている。

 

 

TO BE

バッハ:平均律クラヴィーア曲集 第1巻 第1曲 プレリュード

編曲:堤博明

 

さざ波のような繰り返しが特徴の『プレリュード』。『TO BE』は転調の多い曲だが、『プレリュード』のメロディーも様々に調を変え、メジャーにもマイナーにもなってそっと『TO BE』に寄り添う。最後のサビやアウトロでは『TO BE』の伴奏のメロディーも重ねられる。

 

 

YOU

ペツォールト:メヌエット

編曲:Clark Bishop

 

ペツォールトの『メヌエット』は、耳にする機会は多いが、長らくJ.S.バッハの作品と考えられていた経緯がある。元は3拍子の『メヌエット』が4拍子に置き換えられ、『YOU』の優しい雰囲気をゆったりと彩っている。

 

 

Virgin Road

ショパン24の前奏曲作品28 第15番 変ニ短調「雨だれ」

編曲:信澤宣明

 

滴り落ちる雨粒のような旋律が特徴の『雨だれ』は、穏やかな中にも繊細な陰影が見え隠れする。『Virgin Road』で描かれる、大切な人と歩んでいくという決意が、静かに、しかし確かに降り注ぐようなアレンジとなっている。

 

 

Dearest

ドヴォルザーク:8つのユーモレスク 第7番

編曲:堤博明

 

ユーモレスク』は愉快な雰囲気の楽曲だが、中盤にシリアスな展開がある。『Dearest』とのマッシュアップでは、このシリアスな部分が一番多く使われている。それでいて愉快な旋律もすっと入ってくる場面があり、その意外さも楽しい。

 

 

HONEY

ヘンデル:オラトリオ「メサイア

編曲:信澤宣明

 

メサイア』の中でも特に有名な、「ハレルヤ」のコーラスのメロディーがふんだんに使われている。『HONEY』は大切な人に「いつだって側にいて」と願う可憐な歌だが、「ハレルヤ」のメロディーが聞こえる事により、その愛を神に祝福されているかのようだ。EDMのリズムも取り入れられており、高揚感がある。

HONEY』と次の『winding road』の2曲は『MY STORY』のアルバム曲であり、『MY STORY Classical』でもクラシカルアレンジされている。また、ここからの3曲は全てアルバム曲である。

 

 

winding road

ドビュッシー前奏曲第1巻 第8曲「亜麻色の髪の乙女

編曲:信澤宣明

 

歩いて来た道とこれから行く道を悠々と歌い上げる『winding road』が、『亜麻色の髪の乙女』によってロマンティックにほんのりと色付いている。『亜麻色の髪の乙女』には何処か儚げな雰囲気も漂うが、そんな乙女も胸に一つの決意を秘めているのだろう。

 

 

Who...

エルガー:愛の挨拶

編曲:信澤宣明

 

甘美なメロディーで、タイトル通り愛に満ち溢れた『愛の挨拶』。原曲では少し切なさも覗く『Who...』が、『愛の挨拶』とのアレンジで幸福感のあるイメージに変わっている。『Who...』はライブの最後でよく歌われるが、あゆからファンへの「愛の挨拶」ということだろうか。

53rdシングル『Zutto... / Last minute / Walk』

冬にぴったりのバラードを集めた、3曲A面シングル。2024年現在、あゆは今作を最後にCDでのシングルのリリースはしていない。また、PVは『A ONE』のDVD及びBlu-rayに収録。

作曲は多くの楽曲をあゆに提供してきた多胡邦夫さん、湯汲哲也さん、小室哲哉さん、そして編曲も中野雄太さん、tasukuさんという強力な布陣。これで3曲もA面というから豪華そのものである。冬歌のアルバムを配信したばかりで、新たな楽曲を聴けるのも嬉しい。

ジャケットは白いレースのドレスのあゆで、凍てつく窓ガラス越しに映したかのような趣がある。

 

 

Zutto...

作曲:多胡邦夫

編曲:中野雄太

 

冬歌では『Together When...』『Days』の提供がある多胡邦夫さん作曲。この2曲は明確に冬を表す言葉が登場しないが、今回は寧ろ、シングルの3曲中で唯一冬に関する言葉が使われた歌でもある。優しさの中にもどこか切なく繊細さを感じる曲調に、一体どんな言葉が寄り添ったのか。

まずは冒頭の、美しい情景に注目してほしい。「舞い落ちる粉雪が 君のまつげに降りて 泣いているような笑顔に 愛しさ募った」。まつげの先の粉雪まで見えるような距離で、どれほどの想いを「君」に向けているかがありありと伝わってこないだろうか。純白の雪の清らかさとも相まって、胸が締め付けられるような心地がする。それでいて、主人公にはまず「誰よりも幸せになってほしい」と「君」に願う気持ちがあり、「それがもし例えばもし 一緒に叶えられるなら」とやや遠慮がちな様子も見せる。

美しさを湛えながら、しかし「ずっとずっと私だけの 恋でいて欲しい」「君が僕の最後の たったひとりの 人だから」「世界中が私達を残して どこか消えてしまったみたい」という歌詞からは、閉ざされた世界にいるような印象も受ける。「時々ふと どこか物悲しい」のは何故だろう? 主人公は「この雪と季節のせいに」してごまかしているけれど……。静かに白く染まってゆく景色の中で孤立しているような、危うげで儚い心情とも取れる絶妙な歌詞が、見事に曲の雰囲気と重なっている作品だ。

 

 

歌詞リンク:浜崎あゆみ Zutto... 歌詞 - 歌ネット

 

 

Last minute

作曲:湯汲哲也

編曲:tasuku

 

冬歌では『JEWEL』『momentum』の提供がある湯汲哲也さん作曲。シンプルなサウンドで始まり、2番から一気に激しいロックバラードになる構成は、同じく湯汲さん作曲の『Memorial address』も彷彿とさせる。

「あたし」は今まさに「あなた」が別れを告げようとするその1秒を、「あなたのパーツがひとつひとつと 順に離れてく冷たさ感じてる」「まるでこの身体のどこか 一部をもがれたような痛み」と表現する。それだけの計り知れない苦痛を、まだ曲調が静かなうちに歌う事でかえって引き立たせる表現が素晴らしい。逆に2番では、「可愛く微笑み合ってたふたり」の幸せだった過去を既に激しくなった曲調に乗せているので、強烈な対比となっている。そしてサビでは、「最後の言葉だとか考えてるんでしょう」「最後の笑顔なんて覚えてたくないわ」と、悲しい叫びが響き渡る。

また、この作品でも「永遠」という概念の使い方に注目したい。二人の関係については、「永遠がないのはわかっていても」と、やはり「永遠」を信じない事を綴っている。一方、「あなたは思い出になる事で永遠になる」という部分からは、この先変えようのない過去を「永遠」と呼ぶ哲学が読み取れる。二人が永遠に共にある事は出来ないのに、別れ際の思い出こそが永遠になるとは、何と不条理なのだろう。だから「最後の笑顔」は覚えていたくないのである。

そして歌の終わりでは、「愛されたいと願うあたしが誰のことも 愛せないことにあなたはきっと 気付いたのね」と、絶望の底まで突き落とされる。自分の一部がなくなるかのような痛みは、一見愛情の証にも思えるが、その実相手と自分の境界を踏み越えた独り善がりだったのだろうか。「傷つけた傷」という言葉から、相手を傷つけた事がそのまま自分に跳ね返ってきていることも分かる。「あたしが誰のことも 愛せない」と気付いたのは、「あなた」と言うより、「あたし」自身だったのかも知れない。

 

 

歌詞リンク:浜崎あゆみ Last minute 歌詞 - 歌ネット

 

 

Walk

作曲:小室哲哉

編曲:中野雄太

 

冬歌では『snowy kiss』のある小室哲哉さん作曲。ゆったりと広がっていくような曲調に、人生について問い掛けるような歌詞を合わせているのは、同じく小室さん作曲の『Ivy』にも通じるものがある。

主人公の「僕」は一日の終わり、様々な事に思いを巡らせている。「あの人は優しい日を送れたかな」「あの道はどこへ辿り着いたんだろう」と、自分ではない誰か、ここではない何処かについて考えた後、簡単に答えの出ない問い掛けが多く湧き上がる。「どこまでなら 素直になっていいのか」「どこまでを 優しさだと言うのか」「他人は何を指して ワガママだと呼ぶのか」「もしも偽ったなら 許されると言うのか」……。

これらは「僕」のごく私的な人間関係の話だろうか。それともスターであるあゆと仕事で関わる人達との、あるいは我々ファンとの関係の話だろうか。いずれにしても、自分の気持ちを押し込めるのが優しさで、押し通すのがワガママである、というような単純な図式でない事は想像がつく。恐らくは一人で自問自答しているのであろう。それだけに、「君を悲しませたかな」という一節は、急にこちらに問われたようでドキッとする。

歌は「こんな毎日だよ」「だけど胸張って」「生きてるよ」と、シンプルに締めくくられる。『A Song for ××』のような初期からずっと、あゆはそうして悩む姿を見せてきた。答えがはっきりして、順調に歩んでいるから胸を張るのではない。答えの出ない問いに真摯に向き合い、上手くいかない事があっても歩み続けている事に胸を張っている。少なくとも我々は、そんなあゆを見て悲しむより、励まされてきたのではないだろうか。

 

 

歌詞リンク:浜崎あゆみ Walk 歌詞 - 歌ネット

 

 

 

 

今日は4年に1度のうるう日です。

特別な何かがある訳ではなくても、4年に1度と考えるだけで何だかワクワクしました。

相変わらず更新頻度が低いので、せめてこのワクワクした日に投稿出来ないかと頑張りました。結局ギリギリでしたが💦

デジタル・アルバム『WINTER BALLAD SELECTION』

あゆにとっては初めての配信限定のアルバム。“ジャケット写真”は雪降る街をバックにした「A」のロゴ。

あゆ作品には、2枚組のベストが出るほど“夏歌”が多いが、“冬歌”もコンスタントに発表しているのを忘れてはいけない。寒さが沁みる歌、温めてくれる歌、別れの歌、愛の歌、様々な冬を噛み締めることができるだろう。あの『M』がリストに入っていないのは意外にも思えるが、既にベストや様々な企画アルバムで選出があるため、ここはむしろ『POWDER SNOW』や『Over』の選出の目新しさを楽しみたい。

 

 

Days

CAROLS

No Way to Say

JEWEL

You were...

Missing

appears

シングルバージョン。

momentum

POWDER SNOW

teddy bear

Together When...

Over

52ndシングル『Terminal』

15thアルバム『Colours』からのリカットシングル。オリジナル音源の他、2つのリミックスバージョンを収録。ジャケットは、ヌーディーカラーのシンプルでゆったりした衣装で、海辺に佇むあゆを横向きに映している。

 

 

Terminal

 

歌詞については当該記事を参照。

Colours』の記事に書いた通り、この楽曲はかなり癖が強い。アルバム曲からのシングル化にあえて『Terminal』を選んだのには、どんな意図があったのだろうか。「終末の」「破滅的な」を意味するタイトルのこの楽曲には、言葉で語られる以上のものがあるのではないか、と深読みしてしまいそうだが、真相はあゆしか分からない。

15thアルバム『Colours』(後編)

〔『Colours』の記事 【前編】 【後編】

 

Terminal

作曲・編曲:Armin van Buuren、Benno de Goeij

 

恐らくだが、あゆ作品の中でもかなりの癖の強さを持つ楽曲であろう。フルコーラス分の長さがありながら、歌詞は少なく、謎めいている。ややもすればトランス調のインストとして踊って終わってしまいそうだが、その短くも衝撃的な言葉は無視できないものだ。

主人公は「君」の様子にひどく心を痛めている。「深い傷を残し」、「絶望見たような顔」の君。そこで主人公は重苦しい決意をする。「もしもキミが望むなら悪魔にもなれるさ」「天使などいらない」と。

「terminal」とは「終末の」「破滅的な」という意味である。そんな時には救いの天使を求めたくなるが、主人公は「君」のためにさえなるのだったら、破滅を決定づけ全てを終わらせる悪魔にもなろうとする。曲自体の短い『everlasting dream』や『Catcher In The Light』もそうだったように、あゆの歌詞は少しの言葉でも強烈な世界を形作っている。

後に52ndシングルとして発売。

 

 

歌詞リンク:浜崎あゆみ Terminal 歌詞 - 歌ネット

 

 

Angel

作曲:Rodney Jerkins、Andy Kautz、Ardita Satka

編曲:Rodney Jerkins、Andy Kautz

 

「君が望むなら悪魔にもなれるさ」「天使などいらない」と言い切った次には、「あなたのために天使になりたい」と願う今作が配置されている。全く違うメッセージのようでいて、相手のためなら何をも叶えうる存在になりたいという想いは同じなのかもしれない。EDM調ではあるが、ゆったりとしたバラードだ。

この歌において、「僕」は寄る辺なく彷徨っているらしい。「同じ質問を繰り返している」「またどこで間違ったのか」と呟くような歌詞から、自分の現在の立ち位置に自信がなさそうな事が伺える。自分の願いを「どうかあの子に届けてよ」というところから、今は独りでいるらしい。「僕」には、ここにはいない「君」にとって自分が「悲しませる原因でいる」という自覚がある。

サビでは「I wanna be an angel for you(あなたのために天使になりたい)」というシンプルなフレーズが、朗々と歌い上げられる。「君」は「翼」をくれた人だと言うが、「僕」の今の有り様は、「君」に誇れるものとは言い切れないのかもしれない。理想から遠い願いであるほど、「天使になりたい」という想いは一層切なるものになるだろう。『ANGEL’S SONG』では天使のような「君」に救われ、『Last angel』では重要な局面を「天使が笑った」ように感じ、そして今作では、自らが天使になりたいと願っている。

PVでは、人気のない通りを黒いドレスのあゆが歌いながら進み、サビの部分で白いドレスのダンサーが登場する。終盤では天使が降りてきてあゆと共にエアリアルのパフォーマンスを披露する。

 

 

歌詞リンク:浜崎あゆみ Angel 歌詞 - 歌ネット

 

 

Merry-go-round

 

51stシングル。歌詞については当該記事を参照。

Blu-ray及びDVDには、「Appearance by VERBAL ver.」として、VERBALさんがラップパートで登場するPVが収録されている。あゆの屋上での歌唱シーンは日が出ているのに対して、VERBALさんのシーンは夜のパーティーといった様子である。

 

 

Lelio

作曲:Fedde Le Grand、Robin Morssink

編曲:Fedde Le Grand

 

「lelio lelio leli lelio dj」という繰り返しが耳から離れなくなるEDM。

踊って楽しむ事をひたすら促すような雰囲気は『XOXO』にも似ているが、『XOXO』が現実に立ち向かう前の現実逃避なのに対して、こちらは「今、やりたいことをやればいい」というメッセージを感じられる。「叩くヒマとかあるなら渡っちゃうわ」「てかいつかのための犠牲って そのいつかっていつ来る予定」と、鋭い言い方で聞き手のやる気を煽り立てる。

「今のために今を生きる事で手いっぱい」というのは、ある種余裕のない様子にも見えるが、「委ねてみて何もかも」「You know what you want(自分の欲しいものは知ってるでしょ)」と迫る辺りは、「身体で感じて 心のままに」「ただビートに 身を任せればいい」と歌う『Sparkle』にも近いかも知れない。なるようにしかならないのなら、自分に正直になって結果を待つ。裏を返せば、自分に正直になれば、なるようになるという事だろうか。「lelio lelio......」を聞きながらトリップしていくうち、自らの本音が見えてきそうな気分だ。

PVでは、あゆとダンサー達のダンスパフォーマンスに、ヴィヴィッドでカラフルなアニメーションの模様が重なる。ターンテーブルこそないが、さながらあゆが人々を乗せるDJに思えてくる。

 

 

歌詞リンク:浜崎あゆみ Lelio 歌詞 - 歌ネット

 

 

NOW & 4EVA

作曲:原一博

編曲:中野雄太

 

EDM中心でまとめられたアルバムの最後は、アルバム曲では唯一EDMではない、なじみ深い路線のバラードである。Bメロがないが、終盤に大サビがある構成である。

「私」が距離のある「君」に想いを寄せ続けるのは『Pray』にも似ているが、『Pray』のように「君」の幸せをひたすら祈り、自分の事を忘れていいとさえ言うのではなく、自分にとっていかに「君」がいかに必要な存在だったか、生々しい叫びとして綴られている。「君の夢を見て目が覚めたら泣いてた」「繋いだ手の温もりを忘れそうだった」と、「君」がここにいる実体ではない事の苦しみが伝わってくるようだ。「一秒だけでも多く 側に居たくて帰れない帰らない」とさえ思った「君」は、夢を共有していた人。変わらない想い出と、変わり続ける今の狭間で、それでも「同じ夢だけを今もまだ見てる」と、「私」は泣いたまま叫んでいる。

しかし歌の終盤になると、「君にもう夢でしか会えないと思ってた」という言い回しで、「君」との間に再びのつながりをそこはかとなく匂わせる。そこもまた、二度とは会えない覚悟をした『Pray』とは違うところだ。「叫んだ」が「叫ぶよ」に変わり、「同じ夢を君と見続けたい」とやや前向きな言い方にもなる。ただし、「君」との関係が元に戻ったのかどうかははっきりしない。以前とは違う向き合い方なのかもしれないし、そもそもどの程度近付いたのかも曖昧である。この辺り、絶妙にぼかす言葉選びがなされている。

大サビで「Let me love you forever(君を永遠に愛させてほしい)」と切に歌われる。永遠を信じないあゆ作品において、それでも永遠と出てくるのは、「君」を想う心をこのまま持ち続けたいという願いなのかもしれない。

 

 

歌詞リンク:浜崎あゆみ NOW & 4EVA 歌詞 - 歌ネット

 

 

 

 

遅れましたが、あけましておめでとうございます。

日本は大変な幕開けとなってしまいましたが……皆さんはご無事でしょうか。

私は悲しい時にあゆの歌を聞くと、あゆが傷に寄り添ってくれているような気持ちになります。

今年もあゆの歌で、悲しみも喜びも分かち合いましょう。