黙ってayuを聞け

浜崎あゆみさんの歌 とりわけ歌詞の魅力を語るブログ

8thアルバム『Secret』(後編)

 〔『Secret』の記事 【前編】 【中編】 【後編】

 

taskinst

作曲・編曲:tasuku

 

tasukuさんによるインストゥルメンタル。オルゴールのような音から始まり、カッコいいロックサウンドを重ねて展開し、またオルゴールの音で締める。しんみりとしていたアルバムの雰囲気は、次の曲からまた表情を変える。

 

 

Born To Be...

39thシングル。当該記事を参照。

 

 

Beautiful Fighters

40thシングルのカップリング。当該記事を参照。

 

 

BLUE BIRD

40thシングル。当該記事を参照。

 

 

kiss o’ kill

作曲:湯汲哲也

編曲:田辺恵二

 

前曲で明るく爽やかな気分になったのだが、そのままで終わらないのがこの『Secret』というアルバムである。ここで登場するのは激情を露わにしたハードロック。出だしの子供達の歌声は無邪気さがかえって不気味であり、何処か儀式めいて聞こえる。パイプオルガンの荘厳な音も不安を煽るように響く。

歌に描かれた「私」と「あなた」の関係は、痛々しく、どこか危うい。「あなた」の人物像自体がとても不安定なのだ。「まるで笑うように涙を流して まるで泣くように笑うあなた」という、サビの描写がそれを端的に表している。

タイトルの「o’」は何を省略したものか?それによって、タイトルの意味も変わるだろう。例えば『(miss)understood』のような歌を思い出すと、あゆに「キスする(=好意的である)」ふりをして、「殺す(=攻撃する、害を与える)」ような人もたくさんいたはずだ。この歌の「あなた」がその一人かどうかは分からないが、あまり穏やかでない場面が描かれているのは確かである。ただ、この歌での「私」は「あなた」を批判しないし、無視するわけでもない。むしろ「あなた」の強がる態度に弱さを見て、「受け止めてくから」「分かっているから」と理解を示す。「結局寄り添ってる」という姿はあまりにも献身的で、かえって空恐ろしいものすら感じる。

 

 

歌詞リンク:浜崎あゆみ kiss o'kill 歌詞 - 歌ネット

 

 

Secret

作曲:湯汲哲也

編曲:HIKARI

 

最後を飾るのはアルバムタイトル曲だ。美しいロックバラードだが、物悲しく、うら寂しい印象を与える。あゆのヴォーカルも全体として抑制的で、掠れたように歌っている。

「すれ違う少女達」の「自由な羽」の眩しさから、「私」は目をそらしてしまう。「私」の翼はひとつしか残っておらず、「真実にだけ届かない」のに、かと言って「羽下ろす勇気もない」。あゆの“翼”や“飛ぶ”という表現は、『Depend on you』『Endless sorrow』『Moments』など、何処か余裕のなさを感じることの方が多い。この歌では、こんな不自由な飛び方しかできないこともあるのだと気付かされる。

繰り返すが、これはアルバムタイトルを冠した曲である。そのタイトルは「秘密」を意味する。アルバムを通して辿り着く最後の「秘密」がこの歌に込められているとするなら、何と胸を締め付ける告白なのだろう。序盤で「いつかのその日まで」は「まだまだ終われない」と意気込んでいたのに、この歌では「いっそここから連れ出して」と願う。2曲前では「居場所はいつもここにあった」と歌っていたのに、この歌では「私は変わらず 居場所をずっと探しています」と孤独に立ち戻ってしまう。「答えなんてない」中、「自分の手で選択」してきたはずなのに、「いつわりだらけの日々」とまで言ってしまう……。

この歌で呼びかけている相手は、我々聞き手だろうか?だとすれば、「まだまだ終われない」と歌うあゆも、「いっそここから連れ出して」と歌うあゆも、両方を心に刻もう。相反して見えても、どちらも歌として綴りたい本心であり、伝えたい「秘密」であるはずだから。

後に41stシングル『glitter/fated』に再録。

 

 

歌詞リンク:浜崎あゆみ Secret 歌詞 - 歌ネット

8thアルバム『Secret』(中編)

〔『Secret』の記事 【前編】 【中編】 【後編】

 

It was

作曲:伊橋成哉

編曲:tasuku

 

ここまでの力強く熱のこもった空気を一旦覚ますように、おとなしいナンバーが登場する。

もう側にいるはずのない「君」の気配を、あちこちで感じてしまう「僕」。いないと分かっていながら「君」を探してしまう。2番になると「前を向いて歩き続けた」と変わるが、未練が消えたわけではない。あまりにも「君」を感じることが多いために、構う余裕すらなくなったのだろうか?

「何よりも眩しくて」「輝きに満ちていた」という季節を思い出しては、「僕達はいつの日から 求めすぎてしまったの」「何を残し 何を失ったのかな」と考える姿に胸が痛む。どれほど振り返って確かめても、既にそれは過去なのだ。しかし主人公は、その過去を「受け止められる」時がいつになるのか分からない。「これで良かったのかな なんてとてもあきらめの悪い 考え事をしているんだ」と、出口の見えないまま歌は終わる。「求めすぎてしまったの」「何を失ったのかな」「しているんだ」のような口調が、いかにも独り言がそのまま出たようで、後ろ髪を引かれるもの淋しさを演出している。

 

 

歌詞リンク:浜崎あゆみ It was 歌詞 - 歌ネット

 

 

LABYRINTH

作曲・編曲:HΛL

 

インストゥルメンタル。『MY STORY』収録の、同じくHΛLさんによるインスト『Kaleidoscope』に雰囲気が似ているが、「迷宮」のタイトルに相応しく、聞き手の意識を惑わすかのようだ。きらめく音がふわふわと漂うように、不可思議なメロディーを紡ぐ。

 

 

JEWEL

作曲:湯汲哲也

編曲:小林信吾

 

ほぼピアノだけが響くシンプルなサウンドの中に、美しい輝きを織り込んだ、まさに珠玉のバラード。しんとした冬をそっと温めうる楽曲である。アルバム曲ではあるがテレビなどで頻繁に披露され、遂には紅白歌合戦の演目ともなった。

「灰色の四角い空」、「あらゆる欲望が埋め尽くす」街。「僕」が生きる世界は、決して美しいばかりではない、むしろそうではないものの方が溢れている。けれど「君」の存在が、光を見失わないようにしてくれているのだ。「君」はやがて「僕」に変化をもたらし、「僕」は陽射しと優しい風の中でそれを感じる。「僕」は「君」の悲しみを分かち合いたいと願うようになり、「その笑顔のためなら何だってできるだろう」とまで言う。

曲調と同じくらいシンプルで、かつ真っすぐなメッセージが、十二分に伝わる歌詞だろう。直球であからさまな表現や、情熱的な言葉とはまた違う。「無防備」な顔をして眠りにつき、「僕の胸の奥のキズ跡」を「優しさ」に変えるほどの想いを向ける「君」の人物像。そんな「君」を「僕の大切な宝物」と繰り返し呼んで歌を締め括る「僕」の、溢れ出るような愛しい想い。それらが優しく丁寧に描写されている。

PVはきらめくダイヤモンドがふんだんに使われ、その中にこの上なく映えるあゆが登場する。あゆの眼差しを彩る特殊なアイメイクも印象に残るだろう。本来とても豪華な内容だが、白い光だけが溢れる世界はやはり楽曲のシンプルさに沿っており、静謐な空気さえ漂っている。

 

 

歌詞リンク:浜崎あゆみ JEWEL 歌詞 - 歌ネット

 

 

momentum

作曲:湯汲哲也

編曲:HΛL

 

前曲から引き続き、冬に聴きたい楽曲。直接冬に関する単語が出てくる分、こちらの方がより冬の要素は強いと言える。寒さの中で涙が潤むような、哀しいほど透き通るHΛLさんのアレンジが映える。

冬を「あたたかさと冷たさを 連れてやって来た」と表現しているのが、まず見事だ。冬の寒さは、愛し合う者達のあたたかさを引き立たせる分、孤独な人間にはいっそう冷たいだろう。「僕」も独り、冷たさの中で、「君」と共にあった日々を思い出している。かつては「笑い合って しがみついて歩いていた」という仲だったふたり。「幼すぎた」「何も知らず」とあるのを見ると、無邪気だったふたりの関係に、徐々に現実が襲ってきたのだろうか?「僕」は「愚かすぎるのかな」と思いつつも、「いつかきっと 許される」と信じようとしており、何か罪悪感があるようだ。

絆は切れかけていて、戻るかどうかは分からない。だが「僕」は、「君を愛してるのは 僕の最後の勇気」と、一縷の望みを何とか捨てずに堪えている。歌の最後に、「君に出会えた事は 僕の最初の奇跡」と、初めにあった気持ちに立ち返っているのも切ない。「最初の奇跡」を、「最後の勇気」でつなぎとめられるだろうか?「冬」、そして「恋愛の瀬戸際」という場面設定から、『』において聖母マリアに祈るのは「僕」のような人だろう、という想像も出来るかもしれない。

PVでは、雪の降り積もる街であゆが涙ぐみながら佇んでいる。誰かを待っているのだろうか?街の住人は皆、あゆを無視しているかのように見えるが、やがてその哀しい理由が明らかになる。合間に登場するろうそくの部屋のシーンも幻想的だ。

 

 

歌詞リンク:浜崎あゆみ momentum 歌詞 - 歌ネット

8thアルバム『Secret』(前編)

前のアルバム『(miss)understood』のイレギュラーな作りを思えば、あゆ作品としてなじみ深い路線ではあるだろう。キャッチーで美しいメロディーや、カッコいいハードロック、繊細な言葉……我々がよく知るあゆの魅力である。だが、それは “あゆっぽい”仕上がりだった2つ前の『MY STORY』に「戻った」ということを、決して意味しない。『(miss)understood』あってこその『Secret』であり、『MY STORY』から『Secret』に直接繋がることはあり得なかった。「戻った」のではなく、「進んだ」のである。『Secret』に収められた楽曲を聴いてゆけば、そのことがきっと分かるはずだ。

「Secret」というタイトルであるからには、このアルバムには「秘密」が込められているのだろう。1曲1曲、隠されたメッセージを読み解くように聴きたい1枚である。

ジャケットは黒をバックに、きらめきをまとうあゆ。CDのみ盤では全身が映っているが、DVD付属盤ではほぼ横向きのバストアップで、髪を豪奢にそよがせる姿が肩に描かれたユニコーンとイメージを重ねている。歌詞カードもジャケットから一貫した雰囲気で、闇の中で光が差すように、「秘密」が浮かび上がってくる期待が持てるだろう。DVDにはシングルで発表した作品を含む7曲分のPVとメイキングを収録。

 

〔『Secret』の記事 【前編】 【中編】 【後編】

 

Not yet

作曲・編曲:CMJK

 

ワンコーラス分の長さで、歌詞カードには載せられていないが、歌詞のある作品。「秘密を教えよう」と囁くところから、解放されたようにダンサブルな曲調となる。さてこの先、あゆはどんな秘密を打ち明けるのだろうか?

 

 

until that Day...

作曲・編曲:CMJK

 

前曲からつなぎ、更に次の『Startin’』へとつながる、エレクトロニックの強いロック。サビのメロディーはあまり音が動かず直線的で、きっぱりとした言葉を息つく間もなく畳みかけてくる。時折入る気怠く渋いギターがアクセントだ。

「まだまだ終われない 止まってられない」で始まるこの歌は、聞き手に対する力強いメッセージと取れる。体は切り売りしてかまわないが、「心だけは 他の誰にも 明け渡さない」という意志、「自分のためだけに生きるなんてつまらない」という信条。迷いが生じたとしても「あなたが見ててくれるから」進み続ける。こんなことを言われたら、ファンは喜んであゆについて行く外はない。

一方で、「まるで全て わかったような気になってるそこの人」に対する、はねつけるような言葉も並べられている。「伝わってるわけない」「伝えたいとも思わない」。あゆ作品にこれまで綴られてきた、伝わらないもどかしさ、理解し合えない哀しさ、孤独感といったものを思えば、この割り切りは新鮮だ。「ある人だけ理解してくれればいい」という描写が登場する作品もあったが、「伝えたいとも思わない」まで今回は踏み込んでいる。

そして何より衝撃的なのは、「私がこの場所を飛び出してった時」に言及したことだろう。アルバム序盤にして既に、秘めた想いが炸裂したらしい。ファンにとっては仮定ですら考えたくない話だが、その時は「満足そうな顔」をしているはずだとあゆは歌う。逆に言えば、失望や絶望を理由にその時を迎えることはない、とも取れる。「あなたは見守っていてね いつかの その日まで...」。2019年現在、まだその日は訪れていない。

 

 

歌詞リンク:浜崎あゆみ until that Day… 歌詞 - 歌ネット

 

  

Startin’

39thシングル。当該記事を参照。

 

 

1 LOVE

作曲:野井洋児

編曲:HΛL

 

ヘヴィーなハードロック。ここまで重心を低くして鳴り響くロックナンバーは、久しぶりかもしれない。

「あたし」の元にある「花」を見て、それが何の苦労もなく美しく咲き続けるものだと思う人がいる。いちいち構ったり反論したりせずに、「あたし」はただ「JUST 1 LOVE(ただ一つの愛)」を追い求めていく。「花」とは何の例えで、「愛」がどんな愛なのかを考えてみれば、これもスターの立場と覚悟が垣間見える歌と言えるだろう。

この作品もサビのメロディーが直線的だが、『until that Day...』のような早口の畳み掛けではなく、ゆっくりはっきり噛み締めるように突き付ける。「生きるってのは常に自分の手で選択をし続ける事」と言い切り、「列からはみ出しちゃう」自分の性分を貫く主人公。誰かがとがった言葉でさすことも、口をはさむことも「ご自由に」と気にしない。こうして並々ならぬ信念を持ち、何を言われても乗り越えてきたからこそ、「花」は咲いているのである。

PVは、お金の飛び交う舞台で様々な「見世物」が繰り広げられるという内容。退廃的かつ露悪的な世界観とストーリーはなかなか刺激が強い。その内容から、やはりスターが抱える心境を思わずにはいられないが、同時にあゆがいかに強い矜持を持って信じる道を歩んできたかも伝わってくる。あゆが披露するポールダンスは迫力満点で目が離せない。

 

 

歌詞リンク:浜崎あゆみ 1 LOVE 歌詞 - 歌ネット

40thシングル『BLUE BIRD』

BLUE BIRD

作曲:D・A・I

編曲:HΛL

 

爽やかさ、明るさ、そして一抹の切なさを込めた、“夏歌”の名作である。ダンサブルなポップスの曲調は同じく夏を歌った『fairyland』にも通じるが、『fairyland』が過去と現在の歌なら、『BLUE BIRD』は行く先をより見据えた歌だ。

「グレーな雲が流れたら この空が泣き止んだら」という冒頭の歌詞は、恐らく言葉通りの意味に留まらない。「ちょっと長めの眠り」から目を覚まし、「君」が見守ってくれた「翼」を広げようとしている「僕」は、ようやく何かを乗り越えたのだろう。「居場所はいつもここにあった」という一文は、例えば「居場所がなかった」と歌った『A Song for ××』や、数々の作品に漂っていた孤独感を思うと感慨深いものがある。

「君」は「僕」に「君が笑ってくれればいい」と言い、「僕」が傷を負えば自分の翼をあげるつもりでいる。翼を差し出す描写は『Endless sorrow』や『Moments』にもあったが、この2曲のような悲劇性はあまり感じられない。「青い空を共に行こうよ」と歌う胸躍るサビは、「君」が「僕」に語った言葉で出来ている。

笑う描写と泣く描写があるが、どちらかと言えば泣く方の比重が大きい。主人公本人に関しては泣く場面しかなく、中盤でこらえていた涙を最後には流してしまう。そうして「僕」も「君」も泣いてしまったところで歌が終わる。ほとんど影のない曲調に乗せて描かれた涙は、簡単に言い表せるものではない、お互いを想う感情が溢れたものなのだろう。「青い鳥」は言うまでもなく幸せの象徴である。二人の行く先には幸福な未来が待っているに違いない。

なお、 “僕”という一人称の使用は既にあゆ作品に定着した特徴だが、この歌は実は「君」も“僕”と使っており、二人とも「僕」という初めてのパターンである。

PVでは、船の上や海辺で仲間と楽しむあゆと、対照的に砂浜でひとり佇むあゆが入り混じる。後者は潮の満ち引きでわずかな時間しか現れないという島で撮影され、「青い空」と「白い砂浜」、そして青い海という絶景が広がる。歌の爽快感をそのまま体感しているかのようだ。

 

 

歌詞リンク:浜崎あゆみ BLUE BIRD 歌詞 - 歌ネット

 

 

Beautiful Fighters

作曲:菊池一仁

編曲:CMJK

 

チアリーディングの元気いっぱいな掛け声と足音、ホイッスルが鳴り響く、「乙女達」への応援歌。“女性”を描いたあゆ作品も、テーマは多様化しているようだ。

「おとぎ話はおとぎ話でしかない」「白い馬に乗ってなんかないあなた」というように、おとぎ話をモチーフにした表現は『monochrome』でも見られた。『monochrome』では悲しい現実を噛み締めていたが、今回は現実の中で頑張ろうとする意志が見られる。「ガラスの靴はきっと繊細すぎて この時代を駆け抜けるには ちょっと向いてない気がする」というウィットに富んだ言い回しも、おとぎ話の中で生きられないことを嘆くのではなく、強く生きていくためのヒントを示しているのだろう。

「癒されない傷口」や「欲望達は完全には満たされない」という、一見繊細な言葉も、この歌においては影や悲しみなどをそれほど感じない。「やってられないって日」があっても諦めない、「ほんの少し泣いたり」しても戦い続ける、自分を含めたそんな「乙女達」を、「we are Beautiful Fighters」とこの歌は讃えるのだ。

PVでは、あゆを含む女性達がそれぞれの仕事で奮闘する様子を描いている。上手く行くばかりではない現実を乗り切る彼女達は、夜、レーシングカーの華やかなショーで自らを解放させる。迷惑をかけてしまった相手との関係も微笑ましい。

 

 

歌詞リンク:浜崎あゆみ Beautiful Fighters 歌詞 - 歌ネット

39thシングル『Startin’/Born To Be...』

両A面シングル。ジャケットは黒をバックに座り込むあゆで、脚線美を強調するポーズ。DVD付属盤のDVDには両曲のPVを収録。

 

Startin’

作曲:原一博

編曲:CMJK

 

クラッチ音やサイレンのように唸る音が飛び交う、エレクトロニックを強調したロック。鋭いリズムが聞き手の心をアグレッシヴに刺激する。

歌詞に綴られているのは、主人公の「僕」から「君」への激励だ。「まっすぐすぎてすぐにぶつかる」という「君」の歩き方を「とても好き」と言い、「君の代わりはいない」と存在価値を認めている。だからこそ、「答えなんてない 誰も教えてくれない」と、厳しい言葉も放つ。始めるも終わるも「君次第」、二度と戻らないこの瞬間にどんな決断をするか? もちろん「理想と違う答え」が待っているかもしれない。けれどこの世にひとりしかいない自分が決めたことなら、「思いきり胸張って 顔を上げ」ればいいのだ。突き放すと言うよりは強く背を押すような言葉に、自然と背筋が伸びる。

この歌の歌詞を見るに、やはり1つ前のシングル『Bold & Delicious/Pride』や、直近のアルバム『(miss)understood』での挑戦は大きな転換点だったのかもしれない。始める前に悩んでも「答えなんてない」し、その挑戦への反応は様々で、「理想と違う答えも 受け止める事」が必要になる。それでも自分で選んだことだから、「思いきり胸張って 顔を上げる」。「僕」から「君」へ呼びかける構図そのままに、あゆはいつもこうして自分を奮い立たせているのだろうか。

PVでは、踊りまくったりバイクを飛ばしたり、とにかく攻めの姿勢を貫くあゆがどこかコミカルに描かれる。

 

 

歌詞リンク:浜崎あゆみ Startin' 歌詞 - 歌ネット

 

 

Born To Be...

作曲:原一博

編曲:原一博+CMJK

 

『Startin’』とはアプローチが違うが、こちらも聞き手を励まし応援する歌だ。力強いリズムと華やかな曲調、そして高らかな鐘の音が、歓喜に湧くスタジアムを思い起こさせる。

旅立った頃、「君や僕」はまだあどけなく、無防備な笑顔だった。もう今は無邪気ではいられない。だが「今ならわかる事がある」と主人公は言う。多くの失敗があっても、「後悔だけはないように やってきた」。「いつかは 許せる事がある」と、未来を見据えている。無邪気でなくなったから夢も忘れてしまうのではなく、様々な出来事を経た今の自分が夢を追うのだ。「簡単には諦めない」という、「君」との約束を思い出しながら。『fairyland』のテーマとも似ている内容だが、こちらは懐かしさや切なさよりも、夢に向かう希望に重きを置いている。

「あの頃の僕らに もしもどこかで出会ったら」という想像は、これまでの「僕ら」の道程を肯定し自らを勇気づけているだけでなく、「僕ら」と同じように夢を追いかける人への呼びかけとも取れるだろう。まだまだ無邪気な人もいれば、既に失敗を味わった人も、諦めかけている人もいるかもしれない。「人知れず膝を抱えながら 涙していた夜を 乗り越えた小さな背中が 教えてる」という健気な歌詞が、夢を持つ者の胸に迫る。

歌の中では「Born To Be free」と歌われるが、タイトルを見て分かるように、「どうなるために生まれたのか」という問いへの答えは一人一人違うはずだ。PVでは、黄金の光に溢れたまばゆいステージの場面の他、それぞれ自分の夢を抱いた子供達が登場する。その中にあゆも混じっている。「今日がもし 夢に遠くても」で終わる歌詞は、輝かしい未来に向かって道が続いて行くことを示すかのようだ。

 

 

歌詞リンク:浜崎あゆみ Born To Be... 歌詞 - 歌ネット

 

 

teens “Acoustic Version”

作詞:前田たかひろ

作曲:小室哲哉&久保こーじ

編曲:中野雄太

 

TRFさんの楽曲をカバーしカップリングとして収録した。A面2曲とは打って変わって、静かでやわらかいイメージ。たゆたう夜風のようなストリングスが印象的である。あゆのヴォーカルも、そっと聞き手に寄り添うかのようだ。

 

 

歌詞リンク:浜崎あゆみ teens(acoustic version) 歌詞 - 歌ネット

7thアルバム『(miss)understood』(後編)

〔『(miss)understood』の記事 【前編】 【中編】 【後編】

 

Will

37thシングルのカップリング。当該記事を参照。

 

 

 

HEAVEN

37thシングル。当該記事を参照。

 

 

Are You Wake Up?

作曲・編曲:CMJK

 

インストゥルメンタル。ギターのクールな音が印象的で、更に電子音が軽快さを与えている。爽やかな「目覚め」を演出した後、アルバムは明るい曲が続く。

 

 

fairyland

36thシングル。当該記事を参照。

 

 

Beautiful Day

作曲:GEO of SWEETBOX

編曲:tasuku

 

明るく清々しいポップス。サウンドが可愛らしく、軽やかな気分にさせてくれる。

わかれ道で選ばなかった方は、いつも輝いて見える。だから選択は悩ましい。明日は見えないから不安である。けれど「わかりきった明日」は「つまらない」はずだ。内容は『Will』にも通じるが、こちらはもう少し肩の力を抜いて、より前向きになれる描写である。「選びたいその答えを 選ぶのに躊躇しているだけ」「美しいことだけでは 美しいものは手に出来ない」という歌詞は、聞き手の心を掴む見事な表現だ。選んだことで、選ばなかった方を思い胸を痛めるとしても、それも目標へと向かい進んでいくには必要なこと。汚い真似をしろという話ではなく、美しいものは何の苦労もなしに手には入らないと教えている。

「It’s a Beautiful Day(これが美しい日)」という肯定と、「恐れる事などない」という呼びかけ。人生の教訓とも言うべき、悩める人の背中をそっと押すような励ましに満ちた歌だ。

 

 

歌詞リンク:浜崎あゆみ Beautiful Day 歌詞 - 歌ネット

 

 

rainy day

作曲:GEO of SWEETBOX

編曲:中野雄太

 

アルバムの最後を飾るのは、ほっと心を緩めるバラードだ。時計の針の音やオルゴールの音、ねじを巻く音などが織り交ぜられた、童話のように優しいサウンドは、凍える雨と、その中で感じる人の温もりとを両方思い起こさせる。ふわりと漂うコーラスがあゆのヴォーカルをそっと包む。

ある寒い日、強い雨に濡れることもいとわず、「僕」は「君」を待っていた。終わりだとしてもかまわないとさえ思い、微笑みながら。やがて現れた「君」を見て、泣き出しそうになる「僕」。二人を「一瞬の光が照らした」という場面で歌は終わるが、このとき流れるサウンドは「一瞬の光」に留まらず、雨上がりの虹までも予感させるほどに輝かしい。

この雨の日は、二人にとってどんな出来事だったのだろう? たまたま傘もなく雨に降られた待ち合わせ、その不運の中でふと互いの大切さに気付いたのかもしれない。しかし例えば、これが駆け落ちの約束だったとしたら? 冷たい雨は二人の障害になってきたものの比喩かもしれないし、「幸せに笑い合う人々」の描写や、泣き出しそうになったのをわざわざ「悲しみのせいじゃない」と断っていることは俄然、深い意味を持つだろう。

確かなのは、この雨の日が思い出として語られていることであり、「これからの行く道を祝うかの様」だと感じる光があったことだ。二人が描くドラマを想像しながら、雨の日にそっと聴きたい。

PVでも雨の降る日を舞台にしており、昔のハリウッド女優のようなあゆが街並みに映える。

 

 

歌詞リンク:浜崎あゆみ rainy day 歌詞 - 歌ネット

7thアルバム『(miss)understood』(中編)

〔『(miss)understood』の記事 【前編】 【中編】 【後編】

 

alterna

36thシングルのカップリング。当該記事を参照。

 

 

 

In The Corner

作曲:GEO of SWEETBOX

編曲:tasuku

 

ストリングスの音が軋むように、スリリングに響くR&B。「こわがらないで」と始まるのだが、どうにも不穏な空気は拭えない。

「あなた」をひとりにはしないと言う「私」。けれど綺麗すぎる「あなた」を恐ろしくも思っている。自らの愛の言葉を疑い、表に出した感情も「心の奥底と 繋がってるとは限らない」と言う主人公の態度は意味深だ。「私」は自分の本心が分からないのか、それとも気付いていながらつい隠してしまうのか。「綺麗すぎる」という「あなた」とはどのような関係なのか。「覚悟ならもう既に決めたわ」という歌詞の、「覚悟」は何を表すのか?

あゆ作品は「心の奥底」にある想いを丁寧に描き出すものが多く、例え“全て分かり合えるわけではない”とか“誰にでも伝わるわけではない”というスタンスがあっても、届く人には届くようにと言葉を尽くしてきた。この歌では「心の奥底と 繋がってるとは限らない」とだけ断って多くを語らないため、ひたすら不安を煽るような印象だ。

 

 

歌詞リンク:浜崎あゆみ In The Corner 歌詞 - 歌ネット

 

 

tasking

作曲・編曲:tasuku

 

恒例のtasukuさんによるインストゥルメンタル。前曲からの流れを受け継ぐようなR&B調で、焦燥感を煽るストリングスが鳴り響き、やがてギターの音などと絡み合う。

 

 

criminal

作曲・編曲:原一博

 

何か事件が起きそうなほど、張り詰めた空気が重くのしかかるバラード。ピアノのシンプルな響きが恐怖感を煽り、サビではストリングスも取り入れた悲壮なハードロックとなる。ヴォーカルも、低く抑制的なところから、サビで一気に叫びへと変わる。

沈黙している「君」。「私」はその沈黙に「声にならない叫び」を聞いている。「君」が涙、そして「何か」を「私だけの為に」隠したことも感じ取っている。主人公の「君」に対する罪の意識は、何処から来ているのか?「繋いだはずの手さえも守る事が出来ない」という無力さや愚かさ?「君」がひとり戦ったり、「強くありたい」と願ってしまったりするのもそのせい?「許して欲しいとは言わない」と語るところを見るに、主人公は取り返しのつかないことをしたと感じているようだ。

だからこそ、想いは「未来へ」向けるしかない。「私」は「君にとびきりの景色見せたい」と願っている。果たしてそれは叶うのか。二人を待つのは明るい未来だろうか?

 

 

歌詞リンク:浜崎あゆみ criminal 歌詞 - 歌ネット

 

 

Pride

38thシングル。当該記事を参照。