黙ってayuを聞け

浜崎あゆみさんの歌 とりわけ歌詞の魅力を語るブログ

42ndシングル『talkin’ 2 myself』

talkin’ 2 myself

作曲:中野雄太

編曲:HΛL

 

低く重量感のある響きを持ったハードロック。ソリッドなギターと、危機感を煽るかのようなストリングスが特徴。ジャケットは赤を背景に黒い衣装をまとったあゆで、CDのみ盤はほぼ上半身、DVD付属盤はバストアップの、いずれも強烈な印象だ。

「何を求めて 彷徨うのか」「旅路の果てに 何が見たい?」と、人生の大きな目的を問う歌詞が冒頭から登場する。そして怯えている「君」に「心の声を聞くんだ」と力強い言葉を掛ける。「僕達」を振り回す現実の中にも、「君だけの答えがそう隠れてる」のだと。

情報や誘惑が溢れている時代に、自分の選択をしていく大切さを説く姿勢は、『everywhere nowhere』で「自由過ぎて何処へも行けない」という心情を描いていたことを思い出させる。膨大な選択肢は身を竦ませ、正解は誰も教えてくれない。だからこそ、現実に振り回されるのではなく、自分の答えを現実に見出す、自分の選択を現実にしていくのだ。

タイトルから分かるように、主人公が「君」と呼ぶのは内なる自分自身。「to」ではなく「2」としたのは、進もうとする自分と躊躇する自分の二面性をも表しているのかも知れない。もちろん聞き手は、あゆが励ましてくれていると受け取ってもいいだろう。「破壊する事により 創造は生まれる」という歌詞に、アーティストの創作にかけるエネルギー、あゆがひとところに立ち止まらずに前進してきたことを実感する。

PVでは、ダンサーと共に集団で踊るあゆが見られる。泥まみれになりながら強い視線を投げかけてくるのが印象的だ。時折出てくる子供たちの様子も興味深い。

 

 

歌詞リンク:浜崎あゆみ talkin' 2 myself 歌詞 - 歌ネット

 

 

decision

作曲・編曲:中野雄太

 

カップリングもシングルタイトルに負けず劣らず、激しいロックナンバーとなった。不穏に響くピアノの音や、動と静の起伏の激しさは『Because of You』に曲調が似ている。PVはバンドと共に演奏するあゆが映され、激しく頭を振りながら歌う姿が目に焼き付く。

「僕」が呼びかける「君」とは、大切な人、周りの人、ファンや聞き手……様々な人が当てはまるかもしれない。とはいえ、「言葉は時にとても無力」との歌詞の通り、実は多くは語っていない。「そう僕は行く この先がたとえ どんなにも 理不尽な 場所だったとしても」という強い「決意」を示すのみで、「君」に対しては「いつか 解ってくれるだろう」と淡い期待はあるものの、積極的にあれこれ説明はしないのだ。他人に語ることで、自分に言い聞かせ奮い立たせている面もあるのだろうか。

かつて「二度とは引き返せない道」を「最初で最後の覚悟」をもって選んだ「僕」。「僕はもう僕で あり続けるしかない」と悲壮さを滲ませる。あゆは様々な挑戦を選び乗り越えてきたが、良くも悪くも自分の考えとは違う結果を生むこともあっただろう。「強い向かい風」「冷たさ」が表すように、決して温かく安定した道ではない。それでもアーティストとしての道を「僕は行く」と言い切るのである。アルバム『Secret』では『until that Day...』で「まだまだ終われない 止まってられない」と前向きな意志を見せる一方、『Secret』で「飛ぶ事に疲れても 羽下ろす勇気もない」と自分の道から逃れられない悲哀も描いていたが、この曲は言わばその両方だ。この道を進みたいと思う勇敢さも、この道を行くほかになくなってしまった悲しみも、「僕であり続ける」ために引き受けていくのである。

 

 

歌詞リンク:浜崎あゆみ decision 歌詞 - 歌ネット

41stシングル『glitter/fated』

両A面シングル。カップリングとして、8thアルバム『Secret』収録の『Secret』を再録。

ジャケットは、夜の都市を背景に水に足を浸して立つあゆで、DVD付属盤ではバストアップで映っている。DVDには、『glitter』と『fated』の両方を使用したショートフィルム『距愛 ~Distance Love~』を収録。撮影は香港で行われ、あゆと香港の俳優の余文楽さんが共演した。

 

glitter

作曲:原一博

編曲:HΛL

 

「この夏 僕達は より強く輝きを増す」……ワクワクするサビから始まる今回の“夏歌”は、スパークリングのようにキラキラと弾ける、華やかさに満ちたパーティーチューン。

「去年の今頃」、そして「遠い昔の 今頃」を振り返る主人公の「僕」は、「結局 欲しいものは 変わってない」と思い当たる。「涙してた夜」があっても「後悔」せずに進んできた「僕」には、信じる愛があるのだ。「君の笑顔」が大切で、大人になるごとに例え変わったものがあったとしても、側にいたいと願う。「僕達の未来が どこへ向かってるとしても 今をただ 大事にして」という歌詞に、見えない先を怖がらず、今を積み重ねて夢見た未来にしていこうという意志が見える。

過ぎてきた夏を思い返す歌詞から、これまでの夏歌も思い出してみよう。「輝きを増す」様子は、「輝きだした 僕達(ぼくら)」と歌っていた『Boys & Girls』から進化している。「大人になった?」という問いかけには、「大人になって行く事の意味」を考えていた『fariyland』が思い浮かぶ。「泣けなくなった事」と「泣かなくなった事」の対比は、『HANABI』の「泣けない弱い心も 泣かない強さも」という歌詞に似ている。「君の笑顔」が大事で、「そのためには空も 飛べるはず」と言う主人公に、「去年の今頃」歌っていた『BLUE BIRD』の「青い空を共に行こうよ」「君が笑ってくれればいい」という歌詞が重なる。サビから入る構成の夏歌は『UNITE!』以来で、皆で集まるのにぴったりな雰囲気は『Greatful days』のようだ。直近のアルバム『Secret』でこれからも歩み続けるという姿勢が示されたように、過去を踏まえてより前へ、加速をつけて進んでいく意気込みが感じられ、その意味でもファンは高揚せずにいられない。

ショートフィルムの前半は、この曲と共に、歌姫あゆとボディーガードが次第に惹かれ合う様子が描かれる。

 

 

歌詞リンク:浜崎あゆみ glitter 歌詞 - 歌ネット

 

 

fated

作曲:萩原慎太郎松浦晃久

編曲:CMJK

 

あゆ作品の「運命の恋」の描き方は独特だ。タイトルに「運命」を冠した『LOVE ~Destiny~』は破局の歌だし、「どんな結末が待っていても 運命と呼ぶ以外他にはない」と歌う『HEAVEN』は死別を描いている。「運命の恋」と聞くとロマンティックなハッピーエンドを想像しがちだが、あゆは厳しい現実も含めて「運命」と呼ぶのだ。

もっとも、これら2曲はその悲しい最後より、二人が確かに想い合っていたことを讃える視点で書かれたものだった。比較して今作は、中盤まで上手くいっているかのような描写だったのが、最後に悲しい終わりを迎えたと分かる構成で、未練を引き立たせている。元より「fate」は「不幸な運命」を表す言葉であり、「fated」は避けようのない不幸を「運命づけられた」という意味である。静かな夜のようにひんやりとした、ひずんだロックバラードは、『HANABI ~episode Ⅱ~』を思わせる曲調だ。

主人公の「僕」は、「それまでの何もかも全て 変えていってしまう様な 一瞬の出会い」を「運命」と呼ぶ。そして目の前の「君」に、確かにそれを感じた。だが「足がすく」み、どこに続くか分からない道を前に、「強くありたいと思う程に心は 反比例する様に弱くなっていく 気がして」……。「今をただ 大事にして」未来に向かっていく『glitter』とは逆の心境だ。最終的に「僕」は、二人の愛を諦めてしまう。

「頬を打つ風」で「リアルさ」を感じる場面が、前半と終盤の2回登場する。運命を感じたこと、そして幻であってほしい悲劇が起きたこと、どちらも現実だ。「君」との出会いは運命だった。けれど「僕」はその運命を信じ切ることができなかった。「僕」は運命を逃したのか? それともこの結末こそ、強くはなれない自身に運命づけられたものだったのか?「ねぇ僕の目の前にいたのは 本当の君だったのに」という終わりが、拭えない悲しみを余韻に残す。

ショートフィルムでは後半をこの曲が彩る。想いを深める二人に待っていた運命は……。

 

 

歌詞リンク:浜崎あゆみ fated 歌詞 - 歌ネット

再考:『絶望三部作』

参照:絶望三部作 14thシングル『vogue』、15thシングル『Far away』、16thシングル『SEASONS』

 

vogue

 

自らを敢えて「君」と呼び、いずれ散る事を思いながらも「君」を美しく咲き誇らせようとする心境は、やはり並大抵のものではない。そして、まぎれもないトップの地位にある時に「絶望」と正面から向き合い、こうして散って行く事を考えていたあゆが、その後もキャリアを重ね歌い続けたことは誰もが知る通りだ。

先日記事にした『Secret』収録の『1 LOVE』では、いかにして「花」を咲かせ続けてきたかが描かれ、『until that Day...』では「この場所を飛び出してった時」に「満足そうな顔をしている」だろうということが示唆されつつ、「その日」までは「まだまだ終われない」と言い切ってみせた。もしもこの『絶望三部作』の時点で早々に「散る」事を選んでいたら、当然その後の数々の作品は生まれるはずもなく、去りゆくあゆは「満足そうな顔」などしなかったかもしれない。あゆが歌い続ける道を進んだ事を我々聞き手は感謝すべきだろう。「絶望」と呼ばれた三部作ではあるが、絶望に立ち止まらずその先へと歩んでいく「決意」や「覚悟」を示した三部作とも言えるのではないか。

 

 

Far away

 

人は「通過駅」と呼ぶが、「ふたりには始発駅で 終着駅でもあった」というのは、恐らくこの恋だけではない、どんな恋もそうだろう。その時の相手とは、その時限りの恋をしている。ただ通り過ぎただけだと割り切るのは、そう簡単ではない。

かつて「あなた」と訪れた海を今は一人見つめながら、遠い「あなた」の元にも海はつながっているだろう、「同じ景色」を見ているだろうと思う描写は感傷的ではあるが、「新しく」「生まれ変わる」ための準備でもあるだろう。完全に吹っ切れたわけではないが、いつかの海をそれぞれの場所で眺めながら、お互いに前へと進んでいこうとしている。「駅」を使ったメタファーからは、海を求めて遠出をするイメージも感じられ、その旅は未練を辿るだけのものに留まらないはずだ。「もうすぐで夏が来るよ あなたなしの…」という終わりは、「あなた」のいない切なさと、それでも新しい季節を感じている複雑な感情を表した、絶妙な表現である。

 

 

SEASONS

 

楽曲のモチーフを、『vogue』が「花」、『Far away』が「海」とすれば、『SEASONS』はやはり「季節」がだろうか。ジャケットのイメージで言えば「空」でも良いかもしれない。季節や天候を人々は空で見ている。

ところで36thシングル『fairyland』のAメロは、『SEASONS』のAメロと少しだけ似ている。どちらの曲も無邪気な頃を過ぎて年月を重ねていく心情を描いているし、『SEASONS』は『Far away』で夏の訪れを示した後の作品で、『fairyland』も夏歌だ。夏という季節が持つ高揚感は、刹那的な衝動と紙一重であり、だから秋にはしんみりとした音楽がよく似合うのだが、あゆ作品には夏の時点で既にその感傷まで描いているものも多い。『vogue』のように「花」を描く時にも、咲き誇る様子を見ながら散るところまで見据えているので、この無常観が作品を形作る要素の一つと言える。

fairyland』が『SEASONS』と少し違うのは、思い出の中に出てくる人の数が『SEASONS』よりも多いこと、「そして何を見つけるだろう」と終わった『SEASONS』からより踏み込んで、「最も永遠に近い場所にいる」と一つの答えが出ていることだ。季節が巡れば思い出は遠くなるが、時を経る中で得てきたものが、世界を更に豊かにしていくのである。

 

 

ever free

 

「三部作」と言うからには3曲で終わって良いはずだし、『vogue』『Far away』『SEASONS』のつながりに不足はないのだが、それでも尚存在するこの楽曲が、「絶望」に含みを持たせている。『vogue』のカップリング、歌詞の非公開という形が意味深だ。流行が過ぎる『vogue』、恋人と別れた『Far away』、思い出が遠ざかる『SEASONS』と、思えばどの作品でも何かを失ってきたが、『ever free』における「死」という喪失はやはり大きい。『絶望三部作』の「絶望」の部分は、この歌こそが強調している部分なのかもしれないとさえ感じられる。

この時あゆが葬ったのが何であれ、それが後のあゆの道に必要な過程だったのなら、『ever free』が三部作に与えた重苦しい深淵さえ、聞き手にとっては幸運だった。「歌手・浜崎あゆみ」そのものは葬らずに済んだのだから。

 

 

 

 

いずれ載せるつもりだった、初期作品の再考記事を書いてみました。

今のところ考えている書き方はアルバム単位であり、当初は順当に『A Song for ××』から再考していくつもりだったのですが、敢えて『絶望三部作』を最初に持ってきました。

と言うのも、アクセス解析で見ると、今に至るまで『絶望三部作』へのアクセスが圧倒的に多いのです。

様々な理由が考えられますが、あゆがスターダムへ駆け上がった頃の衝撃的な作品である事、『絶望三部作』という呼び名がある事などが大きなところだと思います。

 

久しぶりの投稿になったので、全くの新しい記事を期待していた方がいらっしゃったら、申し訳ありません。

次の記事を楽しみにしていて下さい。

ベストアルバム『A BEST 2 -BLACK-』『A BEST 2 -WHITE-』

2枚同時にリリースされたベストアルバム。最初の「A」はロゴ表記。

最初のベストアルバム『A BEST』は、リリース当時のまさしくベストな内容だった一方、あゆの意向にそぐわないものだったという事情もあった。今作はあゆ自身の意思があり、『A BEST』より後に発表した作品から、それぞれ『BLACK』は切ない系の楽曲、『WHITE』は明るい系の楽曲を中心に選んだという(「中心に」なので、中にはイメージと違うものもあるだろう)。シングル曲を全て入れたわけではなく、直近のアルバム『Secret』からも選出がない一方で、カップリング曲やアルバム曲から多くの楽曲が選ばれている。『A BEST』のときのような、ヴォーカルの再録やリアレンジはないが、全曲リマスタリングが施された。こうした過程に、並々ならぬあゆの信念が見て取れる。

ジャケットはあゆの顔のアップ。タイトルの通り、全体として『BLACK』は黒、『WHITE』は白が基調。共にCDのみとDVD付属盤がある。DVD付属盤はDVDが2枚付き、1枚目はそれぞれのCDに収録された楽曲のPVと、PVのない楽曲についてはCM映像を収録。2枚目はライブ「ayumi Hamasaki BEST of COUNTDOWN LIVE 2006-2007」を題材に、『BLACK』にはドキュメンタリーを、『WHITE』にはライブ本編の映像を収録した。CDのみの初回盤はカラートレイ仕様、DVD付属盤の初回盤はスリーブケースとカラーケース仕様となった。

 

『BLACK』

 

Dearest

CAROLS

No way to say

HANABI

walking proud

Free & Easy

Endless sorrow

Because of You

About You

GAME
is this LOVE?

HANABI ~episode Ⅱ~

NEVER EVER

HEAVEN

part of Me

作曲:湯汲哲也

編曲:HΛL

 

唯一の新曲。湯汲さんの楽曲は『Memorial address』、『Moments』、『JEWEL』など、以前から和声音階を使ったものが見られたが、今作もキラキラとしたロックバラードの中に色濃い「和」の世界を感じることが出来る。

「僕」は「君」に「生まれるずっと前 ひとつの命分け合って 生きていたんじゃないか」という想いを抱いている。それが別々に生まれてしまったことで、「自分を不完全に 思ってしまうんだろう」とも。陰陽説やソウルメイトのように、深い結びつきを感じる相手とは本来一つだったという思想は数多くある。この作品では更に輪廻転生に踏み込むことで、ロマンティックで神秘的な物語を描き出した。

「時々僕は思うんだ」「どうかもう 泣かないで」「いつまでも いつまでも 君を想うよ」という呼びかけが切々と響き、想いの深さを表現する。「生まれ変わったら ひとつの命分け合って 生きて行くんじゃないか」とまで主人公は考えた。こんな境地に達するのはどんな時だろう? 何気ない日常か、愛を確かめた時か。今わの際か、まさに生まれ変わる瞬間か。

PVはやはり「和」の美しさが際立ち、命の尊さや生まれ変わりに想いを馳せたくなる内容である。解かれたあゆの髪が広がっていく場面は圧巻だ。

 

 

歌詞リンク:浜崎あゆみ part of me 歌詞 - 歌ネット

 

 

Memorial address

元はミニアルバム『Memorial address』にボーナストラックとして収録されていた楽曲で、今回は『part of Me』から再生を続けていると始まるシークレットトラックとなった。やはり歌詞は掲載されていない。

 

 

 

『WHITE』

 

evolution

Greatful days

independent

Humming 7/4

UNITE!

Real me

my name’s WOMEN

ourselves

INSPIRE

STEP you

July 1st

fairyland

Voyage

Moments

A Song is born

あゆの歌詞、あゆの言葉

あゆりあです。

 

 

最近、急にアクセス数が自分比で跳ね上がり、桁が間違っているんじゃないかと目を疑いました。訪れて下さった皆さん、ありがとうございます。

 

 

初めに書いた通り、このブログではあゆ作品を、あゆの歌詞中心に紹介しています。

その際、私自身の個人的な解釈、好みや思い入れ等はなるべく入れず、言葉の意味を勝手に決めない事を心掛けています。

 

一方、あゆ自身が作品について語っている事があれば、記事を書いている時点で確実性のあるものに限り、言及する事もありました。

それが「公式見解」だから、という単純な理由ではなく、やはりご本人がどんな想いでいたのかは興味深いですし、それもまたあゆの言葉を読み解く上でヒントになると思ったからです。一方、あくまでもヒントはヒントであり、聞き手が自由に解釈する余地は消えたりしないとも思っています。

 

全てのアーティストは、作品に自分の人生を、魂を込めているものでしょう。作品の数だけ、作者のエピソードがあるのです。何が込められているのかを知ったり想像してみたりするのは、聞き手にとってワクワクする事ですし、それとは別に自分の経験や心情を重ねて聞く事で、アーティスト自身の想いだけに留まらない世界が生まれるのもまた、素晴らしいですよね。

 

 

あゆの歌詞、あゆの言葉に何を見るか?

引き続き、探っていきたいと思います。

8thアルバム『Secret』(後編)

 〔『Secret』の記事 【前編】 【中編】 【後編】

 

taskinst

作曲・編曲:tasuku

 

tasukuさんによるインストゥルメンタル。オルゴールのような音から始まり、カッコいいロックサウンドを重ねて展開し、またオルゴールの音で締める。しんみりとしていたアルバムの雰囲気は、次の曲からまた表情を変える。

 

 

Born To Be...

39thシングル。当該記事を参照。

 

 

Beautiful Fighters

40thシングルのカップリング。当該記事を参照。

 

 

BLUE BIRD

40thシングル。当該記事を参照。

 

 

kiss o’ kill

作曲:湯汲哲也

編曲:田辺恵二

 

前曲で明るく爽やかな気分になったのだが、そのままで終わらないのがこの『Secret』というアルバムである。ここで登場するのは激情を露わにしたハードロック。出だしの子供達の歌声は無邪気さがかえって不気味であり、何処か儀式めいて聞こえる。パイプオルガンの荘厳な音も不安を煽るように響く。

歌に描かれた「私」と「あなた」の関係は、痛々しく、どこか危うい。「あなた」の人物像自体がとても不安定なのだ。「まるで笑うように涙を流して まるで泣くように笑うあなた」という、サビの描写がそれを端的に表している。

タイトルの「o’」は何を省略したものか?それによって、タイトルの意味も変わるだろう。例えば『(miss)understood』のような歌を思い出すと、あゆに「キスする(=好意的である)」ふりをして、「殺す(=攻撃する、害を与える)」ような人もたくさんいたはずだ。この歌の「あなた」がその一人かどうかは分からないが、あまり穏やかでない場面が描かれているのは確かである。ただ、この歌での「私」は「あなた」を批判しないし、無視するわけでもない。むしろ「あなた」の強がる態度に弱さを見て、「受け止めてくから」「分かっているから」と理解を示す。「結局寄り添ってる」という姿はあまりにも献身的で、かえって空恐ろしいものすら感じる。

 

 

歌詞リンク:浜崎あゆみ kiss o'kill 歌詞 - 歌ネット

 

 

Secret

作曲:湯汲哲也

編曲:HIKARI

 

最後を飾るのはアルバムタイトル曲だ。美しいロックバラードだが、物悲しく、うら寂しい印象を与える。あゆのヴォーカルも全体として抑制的で、掠れたように歌っている。

「すれ違う少女達」の「自由な羽」の眩しさから、「私」は目をそらしてしまう。「私」の翼はひとつしか残っておらず、「真実にだけ届かない」のに、かと言って「羽下ろす勇気もない」。あゆの“翼”や“飛ぶ”という表現は、『Depend on you』『Endless sorrow』『Moments』など、何処か余裕のなさを感じることの方が多い。この歌では、こんな不自由な飛び方しかできないこともあるのだと気付かされる。

繰り返すが、これはアルバムタイトルを冠した曲である。そのタイトルは「秘密」を意味する。アルバムを通して辿り着く最後の「秘密」がこの歌に込められているとするなら、何と胸を締め付ける告白なのだろう。序盤で「いつかのその日まで」は「まだまだ終われない」と意気込んでいたのに、この歌では「いっそここから連れ出して」と願う。2曲前では「居場所はいつもここにあった」と歌っていたのに、この歌では「私は変わらず 居場所をずっと探しています」と孤独に立ち戻ってしまう。「答えなんてない」中、「自分の手で選択」してきたはずなのに、「いつわりだらけの日々」とまで言ってしまう……。

この歌で呼びかけている相手は、我々聞き手だろうか?だとすれば、「まだまだ終われない」と歌うあゆも、「いっそここから連れ出して」と歌うあゆも、両方を心に刻もう。相反して見えても、どちらも歌として綴りたい本心であり、伝えたい「秘密」であるはずだから。

後に41stシングル『glitter/fated』に再録。

 

 

歌詞リンク:浜崎あゆみ Secret 歌詞 - 歌ネット

8thアルバム『Secret』(中編)

〔『Secret』の記事 【前編】 【中編】 【後編】

 

It was

作曲:伊橋成哉

編曲:tasuku

 

ここまでの力強く熱のこもった空気を一旦覚ますように、おとなしいナンバーが登場する。

もう側にいるはずのない「君」の気配を、あちこちで感じてしまう「僕」。いないと分かっていながら「君」を探してしまう。2番になると「前を向いて歩き続けた」と変わるが、未練が消えたわけではない。あまりにも「君」を感じることが多いために、構う余裕すらなくなったのだろうか?

「何よりも眩しくて」「輝きに満ちていた」という季節を思い出しては、「僕達はいつの日から 求めすぎてしまったの」「何を残し 何を失ったのかな」と考える姿に胸が痛む。どれほど振り返って確かめても、既にそれは過去なのだ。しかし主人公は、その過去を「受け止められる」時がいつになるのか分からない。「これで良かったのかな なんてとてもあきらめの悪い 考え事をしているんだ」と、出口の見えないまま歌は終わる。「求めすぎてしまったの」「何を失ったのかな」「しているんだ」のような口調が、いかにも独り言がそのまま出たようで、後ろ髪を引かれるもの淋しさを演出している。

 

 

歌詞リンク:浜崎あゆみ It was 歌詞 - 歌ネット

 

 

LABYRINTH

作曲・編曲:HΛL

 

インストゥルメンタル。『MY STORY』収録の、同じくHΛLさんによるインスト『Kaleidoscope』に雰囲気が似ているが、「迷宮」のタイトルに相応しく、聞き手の意識を惑わすかのようだ。きらめく音がふわふわと漂うように、不可思議なメロディーを紡ぐ。

 

 

JEWEL

作曲:湯汲哲也

編曲:小林信吾

 

ほぼピアノだけが響くシンプルなサウンドの中に、美しい輝きを織り込んだ、まさに珠玉のバラード。しんとした冬をそっと温めうる楽曲である。アルバム曲ではあるがテレビなどで頻繁に披露され、遂には紅白歌合戦の演目ともなった。

「灰色の四角い空」、「あらゆる欲望が埋め尽くす」街。「僕」が生きる世界は、決して美しいばかりではない、むしろそうではないものの方が溢れている。けれど「君」の存在が、光を見失わないようにしてくれているのだ。「君」はやがて「僕」に変化をもたらし、「僕」は陽射しと優しい風の中でそれを感じる。「僕」は「君」の悲しみを分かち合いたいと願うようになり、「その笑顔のためなら何だってできるだろう」とまで言う。

曲調と同じくらいシンプルで、かつ真っすぐなメッセージが、十二分に伝わる歌詞だろう。直球であからさまな表現や、情熱的な言葉とはまた違う。「無防備」な顔をして眠りにつき、「僕の胸の奥のキズ跡」を「優しさ」に変えるほどの想いを向ける「君」の人物像。そんな「君」を「僕の大切な宝物」と繰り返し呼んで歌を締め括る「僕」の、溢れ出るような愛しい想い。それらが優しく丁寧に描写されている。

PVはきらめくダイヤモンドがふんだんに使われ、その中にこの上なく映えるあゆが登場する。あゆの眼差しを彩る特殊なアイメイクも印象に残るだろう。本来とても豪華な内容だが、白い光だけが溢れる世界はやはり楽曲のシンプルさに沿っており、静謐な空気さえ漂っている。

 

 

歌詞リンク:浜崎あゆみ JEWEL 歌詞 - 歌ネット

 

 

momentum

作曲:湯汲哲也

編曲:HΛL

 

前曲から引き続き、冬に聴きたい楽曲。直接冬に関する単語が出てくる分、こちらの方がより冬の要素は強いと言える。寒さの中で涙が潤むような、哀しいほど透き通るHΛLさんのアレンジが映える。

冬を「あたたかさと冷たさを 連れてやって来た」と表現しているのが、まず見事だ。冬の寒さは、愛し合う者達のあたたかさを引き立たせる分、孤独な人間にはいっそう冷たいだろう。「僕」も独り、冷たさの中で、「君」と共にあった日々を思い出している。かつては「笑い合って しがみついて歩いていた」という仲だったふたり。「幼すぎた」「何も知らず」とあるのを見ると、無邪気だったふたりの関係に、徐々に現実が襲ってきたのだろうか?「僕」は「愚かすぎるのかな」と思いつつも、「いつかきっと 許される」と信じようとしており、何か罪悪感があるようだ。

絆は切れかけていて、戻るかどうかは分からない。だが「僕」は、「君を愛してるのは 僕の最後の勇気」と、一縷の望みを何とか捨てずに堪えている。歌の最後に、「君に出会えた事は 僕の最初の奇跡」と、初めにあった気持ちに立ち返っているのも切ない。「最初の奇跡」を、「最後の勇気」でつなぎとめられるだろうか?「冬」、そして「恋愛の瀬戸際」という場面設定から、『』において聖母マリアに祈るのは「僕」のような人だろう、という想像も出来るかもしれない。

PVでは、雪の降り積もる街であゆが涙ぐみながら佇んでいる。誰かを待っているのだろうか?街の住人は皆、あゆを無視しているかのように見えるが、やがてその哀しい理由が明らかになる。合間に登場するろうそくの部屋のシーンも幻想的だ。

 

 

歌詞リンク:浜崎あゆみ momentum 歌詞 - 歌ネット