黙ってayuを聞け

浜崎あゆみさんの歌 とりわけ歌詞の魅力を語るブログ

37thシングル『HEAVEN』

HEAVEN

作曲:菊池一仁

編曲:中野雄太 + KZB

 

ever free』『Memorial address』に続く、死別の歌である。前の2曲が歌詞を公表せず、カップリングやボーナストラックとしての扱いだったので、このテーマでシングルタイトルになるのは初めてだ。

静かな出だしから、「Lalala」で感傷的な展開を見せて徐々に音量を上げ、サビを感動的に表現するバラード。サビは終盤に繰り返し出てくるのみという構成である。

これまでの死別の曲と一線を画しているのは、悲しみや苦しさが前面に出ていないことだろう。もちろん悲しいことなのだが、主人公の「私」はその出来事を「あの日きっとふたりは愛に触れた」と、愛を再確認する言い方で表現しているのだ。「どんな結末が待っていても 運命と呼ぶ以外他にはない」という歌詞からも、死に抗えない諦観よりは、ふたりで過ごした時間を肯定する意思が伝わってくる。「君」の死が「運命」なのではない。ふたりが出会い、愛し合ったことが「運命」なのだ。

極めつきはサビの「ふたりまだ見ぬ未来」という歌詞である。「君」の死をもって「決して見ることのない未来」になった、とは、主人公は言わないのだ。死別を受け止める悲しいまでの覚悟と、死に別れてなお愛し続ける矜持とが、聞き手の心に刻まれる。「サヨナラなんて言わない」という決意は、「サヨナラね」と悲嘆に暮れていた『Memorial address』とはやはり違う心境だろう。主人公の強く深い愛を、「天国」に捧げる歌である。

ジャケットは白を背景に、ほとんどシルエットのようなあゆの横顔を映している。PVはあゆの顔の正面をアップで映すスタートから、ワンカットのまま徐々にカメラが引いていく構成となっており、シンプルであると同時に挑戦的である。モノクロの画面と人影、電車の往来が、曲の世界を表現している。

 

 

歌詞リンク:浜崎あゆみ HEAVEN 歌詞 - 歌ネット

 

 

Will

作曲:CREA + D・A・I

編曲:tasuku

 

ミディアムテンポのロックナンバー。Bメロとサビ、間奏の一部が4拍子で、後は3拍子という独特のリズムを持つ。『HEAVEN』はサウンドに和の要素があったが、このカップリングは和声音階に流麗なストリングスを乗せて、凜とした「意志」を感じる楽曲となった。

歌詞も和風の曲調に相応しく、「訪る岐路」「悲しき事」といった古語の言い回しが登場する。端整かつ簡潔な言葉遣いも多く、「誇り高くあれと」「光放て」と迷いなく言い切る様が清々しい。その上で、サビにある「ひらひら」や「きらきら」といった擬態語が絶妙な彩りを加えている。

人生の上で分かれ道はいくつもある。その分かれ道に気付けるか? 自分の「心の声」を聴いて道を選べるか? 自分のためと言いながら自分を見失わないか? 誰も知らないその先を拓いてくのは自分の「意志」である。「明日という闇」に対し「光放て」と言えるのが主人公の強さだろう。何があるか分からない明日は「闇」。だから自ら光を照らし歩んでいくのである。

なお、2019年現在、あゆは今作を最後に「CREA」名義での作曲をしていない。初めて作曲した『M』が代表作となり、『I am...』の頃には“ロックなあゆ”を確立させるに至った活動が区切りを迎えた。今後は一切「CREA」の名前を使うことがないのか、それともまた作曲を手掛けることがあるのかは分からないが、ひとまずは作曲家としてのあゆと、その挑戦を支えてきた方々に感謝を捧げよう。

 

 

歌詞リンク:浜崎あゆみ Will 歌詞 - 歌ネット