黙ってayuを聞け

浜崎あゆみさんの歌 とりわけ歌詞の魅力を語るブログ

8thアルバム『Secret』(中編)

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It was

作曲:伊橋成哉

編曲:tasuku

 

ここまでの力強く熱のこもった空気を一旦覚ますように、おとなしいナンバーが登場する。

もう側にいるはずのない「君」の気配を、あちこちで感じてしまう「僕」。いないと分かっていながら「君」を探してしまう。2番になると「前を向いて歩き続けた」と変わるが、未練が消えたわけではない。あまりにも「君」を感じることが多いために、構う余裕すらなくなったのだろうか?

「何よりも眩しくて」「輝きに満ちていた」という季節を思い出しては、「僕達はいつの日から 求めすぎてしまったの」「何を残し 何を失ったのかな」と考える姿に胸が痛む。どれほど振り返って確かめても、既にそれは過去なのだ。しかし主人公は、その過去を「受け止められる」時がいつになるのか分からない。「これで良かったのかな なんてとてもあきらめの悪い 考え事をしているんだ」と、出口の見えないまま歌は終わる。「求めすぎてしまったの」「何を失ったのかな」「しているんだ」のような口調が、いかにも独り言がそのまま出たようで、後ろ髪を引かれるもの淋しさを演出している。

 

 

歌詞リンク:浜崎あゆみ It was 歌詞 - 歌ネット

 

 

LABYRINTH

作曲・編曲:HΛL

 

インストゥルメンタル。『MY STORY』収録の、同じくHΛLさんによるインスト『Kaleidoscope』に雰囲気が似ているが、「迷宮」のタイトルに相応しく、聞き手の意識を惑わすかのようだ。きらめく音がふわふわと漂うように、不可思議なメロディーを紡ぐ。

 

 

JEWEL

作曲:湯汲哲也

編曲:小林信吾

 

ほぼピアノだけが響くシンプルなサウンドの中に、美しい輝きを織り込んだ、まさに珠玉のバラード。しんとした冬をそっと温めうる楽曲である。アルバム曲ではあるがテレビなどで頻繁に披露され、遂には紅白歌合戦の演目ともなった。

「灰色の四角い空」、「あらゆる欲望が埋め尽くす」街。「僕」が生きる世界は、決して美しいばかりではない、むしろそうではないものの方が溢れている。けれど「君」の存在が、光を見失わないようにしてくれているのだ。「君」はやがて「僕」に変化をもたらし、「僕」は陽射しと優しい風の中でそれを感じる。「僕」は「君」の悲しみを分かち合いたいと願うようになり、「その笑顔のためなら何だってできるだろう」とまで言う。

曲調と同じくらいシンプルで、かつ真っすぐなメッセージが、十二分に伝わる歌詞だろう。直球であからさまな表現や、情熱的な言葉とはまた違う。「無防備」な顔をして眠りにつき、「僕の胸の奥のキズ跡」を「優しさ」に変えるほどの想いを向ける「君」の人物像。そんな「君」を「僕の大切な宝物」と繰り返し呼んで歌を締め括る「僕」の、溢れ出るような愛しい想い。それらが優しく丁寧に描写されている。

PVはきらめくダイヤモンドがふんだんに使われ、その中にこの上なく映えるあゆが登場する。あゆの眼差しを彩る特殊なアイメイクも印象に残るだろう。本来とても豪華な内容だが、白い光だけが溢れる世界はやはり楽曲のシンプルさに沿っており、静謐な空気さえ漂っている。

 

 

歌詞リンク:浜崎あゆみ JEWEL 歌詞 - 歌ネット

 

 

momentum

作曲:湯汲哲也

編曲:HΛL

 

前曲から引き続き、冬に聴きたい楽曲。直接冬に関する単語が出てくる分、こちらの方がより冬の要素は強いと言える。寒さの中で涙が潤むような、哀しいほど透き通るHΛLさんのアレンジが映える。

冬を「あたたかさと冷たさを 連れてやって来た」と表現しているのが、まず見事だ。冬の寒さは、愛し合う者達のあたたかさを引き立たせる分、孤独な人間にはいっそう冷たいだろう。「僕」も独り、冷たさの中で、「君」と共にあった日々を思い出している。かつては「笑い合って しがみついて歩いていた」という仲だったふたり。「幼すぎた」「何も知らず」とあるのを見ると、無邪気だったふたりの関係に、徐々に現実が襲ってきたのだろうか?「僕」は「愚かすぎるのかな」と思いつつも、「いつかきっと 許される」と信じようとしており、何か罪悪感があるようだ。

絆は切れかけていて、戻るかどうかは分からない。だが「僕」は、「君を愛してるのは 僕の最後の勇気」と、一縷の望みを何とか捨てずに堪えている。歌の最後に、「君に出会えた事は 僕の最初の奇跡」と、初めにあった気持ちに立ち返っているのも切ない。「最初の奇跡」を、「最後の勇気」でつなぎとめられるだろうか?「冬」、そして「恋愛の瀬戸際」という場面設定から、『』において聖母マリアに祈るのは「僕」のような人だろう、という想像も出来るかもしれない。

PVでは、雪の降り積もる街であゆが涙ぐみながら佇んでいる。誰かを待っているのだろうか?街の住人は皆、あゆを無視しているかのように見えるが、やがてその哀しい理由が明らかになる。合間に登場するろうそくの部屋のシーンも幻想的だ。

 

 

歌詞リンク:浜崎あゆみ momentum 歌詞 - 歌ネット