黙ってayuを聞け

浜崎あゆみさんの歌 とりわけ歌詞の魅力を語るブログ

再考:『A Song for ××』(後編)

参照:1stアルバム『A Song for ××』(後編)

 

 

As if...

 

道ならぬ恋の雰囲気を漂わせながらも、あまりドロドロしたものは感じさせず、あくまでピュアな雰囲気でアルバムに溶け込んでいる1曲。

なにか事情のある二人にとって、「これから先の事」は重くのしかかってしまう。「私」は「いつわりの日々」を「それで一緒にいられるのなら 仕方ないね」と受け止めるしかなく、だからこそその一緒にいられる「今」を大切にしているのだろう。しかし普通の恋人らしさでさえままならない関係に、やはり不安は募る。会わなくなる事まで「あなた」が「仕方のない事」と言うのでは、とたずねたくなるのだ。会わなくなる事それ以上に、「あなた」がそれを受け入れることが辛いのではないだろうか。

「いつの日か いつの日か きっと 一緒にいられるよね…」という途切れそうな願いが、切実なのは言うまでもない。先の事を考えるなら、少なくとも二人の目指すところが同じでないといけないだろう。

 

 

POWDER SNOW

 

ネガティヴで哀しげな言葉が並ぶ中で、注目すべきは「後悔などひとつもしてないの」という、妙に清々しい一文だ。「今を生きてきた」結果、主人公は「誰も私を知らぬ場所へ逃げたいの」「心がもうもたない 明日はいらないの」「ろうそくが溶けてこの灯り消えたら」と、存在を消しかねないほどの境地に立っている。燃え尽きた、という言葉がふさわしいだろう。それも恐らく、主人公があまり望んではいなかった形で。

選んだ道を悔やむのではなく、もう一度やり直そうというのでもない。ただ「涙枯れてしまう位」に泣きたい。積もることのない粉雪は冷たいけれど、何も言わずにその純白で流してくれる。風音を響かせながらフェードアウトしてゆくアウトロが、厳しい孤独を表すかのようだ。

 

 

SIGNAL

 

「思い出なんて いつも都合のいい様に蘇るじゃない」という歌詞はきっと、「過去はきっと現在(いま)とは比べものにならない」という歌詞からつながっている。過ぎてしまって変えられない、だから美化もできる過去。一方、未来とは見えるはずのないもの。だから現在に選べるのは「現在」のみであり、未来が現在に「勝てるわけがない」のだろう。

「新しいドア開けて知らない場所へ出て しまっても私は私だと言い切るから」の言葉通り、あゆは個性を確立しながらも「好きなモノは残さず食べ尽くす」ように、様々な挑戦を続けてきた。だからこの1stアルバムと、後に出した作品とでは印象も違う。その都度、信号が青になったと思ったら迷わなかったのだろう。結果、「どんな場所でも生き抜いて」きた。「私には時間がない」と現在を駆け抜ける疾走感。そんなあゆの生き様は、言うまでもなく初めからある。

 

 

from your letter

 

この歌詞が誰かからもらった手紙が元になっているのだとして、どこまでその文面を再現したものかは分からないが、そこにあった温もりはこの作品と同じものなのだろう。

「いろんな障害」を越え、「いくつもの恋を乗り継」いだからこそ、その道のりの先で出会った「君」に対する想いが溢れる。想いが強ければ、いなくなったら……ということもよぎってしまうけれど、「それでも僕は信じてみる事に決めたよ」と素直に綴る。そんな手紙の内容だけで、受け取った側の心情まで推し量れてしまう歌だ。

 

 

Present

 

初めから歌手を目指していたわけではなく、歌詞も人に勧められて書き始めたあゆ。こうして初期から現在に至るまで、周りのあらゆる人に感謝する楽曲をたくさん作り、何度も何度も歌い続けている。実際に、自ら書いて歌った言葉がたくさんの人に届いたとき、導かれたことへの喜びはどれほどだったのだろう。

たくさんの人が支えてくれることがもらったプレゼントであり、それに感謝する心は相手に贈るプレゼント。そして我々聞き手にとっても、あゆの歌はプレゼントである。

 

 

※「M 愛すべき人がいて」のタグは、7月いっぱい続ける予定です。