黙ってayuを聞け

浜崎あゆみさんの歌 とりわけ歌詞の魅力を語るブログ

11thアルバム『Rock’n’Roll Circus』(中編)

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作曲:湯汲哲也

編曲:CMJK

 

作曲者と編曲者が共通している『count down』とは、似ているようで違う曲。こちらはもう少しテンポが速く、からりとしたギターの音が特徴で、歌詞も比較的上向きである。

この作品で注目すべきは「蒼い地球(ほし)」という言葉だ。これがあることで、同じく歌詞に登場する「世界」が意味するところがぐっと感慨深くなる。これまでのあゆ作品で「世界」と出てくるときは、例えば自分の周りを取り巻く環境だとか、世間の風潮など、そういうものを指す意味合いの方が強く感じられた。だがこの作品では「地球」というスケールで「世界」は描かれており、「世界」にある「全ての悲しみ」「全ての怒り」に目を向けている。例えば環境問題や、戦争・紛争など、地球規模の問題の解決に取り組んでいる人々のような姿勢を、主人公もまた持っているのかもしれない。

目覚めに見た柔らかく強い光。何かを感じて涙を流す主人公は、空を見て「うまく歩いていける」という気持ちが湧く。一方、時に立ち止まることも否定しない。「進むべきではないという合図なんだろう」と受け止める。そんなとき、空は「高く遠すぎる」ものとなるのだ。自分と世界との間に確かなつながりを見出していることが、「世界」にある「全ての悲しみ」「全ての怒り」へと目を向かわせるのだろう。『immature』には「目の前の悲劇にさえ対応できずに 遠くの悲劇になど 手が届くはずもなく」という歌詞があったが、この歌では明らかに「遠くの悲劇」を意識している。全てが解決するわけではなくても、それでも考えずにはいられないのだ、と。歌は「愛は確かにここに残ってる」と締めくくられるが、そう信じる主人公自身こそ、その「愛」のありかの一つなのではないか。

 

 

歌詞リンク:浜崎あゆみ Last Links 歌詞 - 歌ネット

 

 

montage

作曲・編曲:中野雄太

 

インストゥルメンタル。オルガンとストリングスが織り成すクラシカルな旋律は、荘厳さとスリリングさを持って聞き手を威圧する。堂々たる雰囲気がありながら、どこか退廃的でもある。

 

 

Don’t look back

作曲:中野雄太

編曲:CMJK

 

揺らめく蜃気楼のように妖しい魅力を放つ、アラビアンテイストの楽曲。これまでにも『vogue』『ourselves』『INSPIRE』といった似たようなテイストのものはあったが、今作はシタールやタブラの音が強調され、一層エキゾチックな印象だ。囁くように繰り返す「Don't look back」が呪文めいて響く。

「戻れない戻らない 帰る場所はもうない」という歌詞は、哀しみの影をはらんでいる。「綺麗な足跡に 塗り替えたところで 自分の心だけは 騙せない」「カッコ悪い 所こそが愛おしい」と語っているのを見るに、それは潔い割り切りや希望に満ちた前進と言うよりも、後悔や未練は多々あるけれど、もうやり直せないから受け止めて進むしかない……という痛みを伴う覚悟ではないか。「迷っているって事はもう 迷ってない」というのは、『Beautiful Day』の「選びたいその答えを 選ぶのに躊躇しているだけ」という歌詞にも通じる。未来は結局未来にならないと分からない。後のことを気にして「留まる」よりは「胸を焦がす刺激」の方を求め、実際に後になって悔やんだとしたら、それはそれとして受け止めるしかない。

「誰もが思い出すのは 一番輝いてた頃の自分なんて それは悲しすぎるわ」「どんな風に幕を下ろす?」という歌詞は、美しく花開いたら散るだけだと歌っていた『vogue』のような作品にはなかった心境が覗える。選んだ道で思うようにいかないことがあれば、あの頃は良かったと思ってしまうし、スターの地位にある人は「変わってしまった」とか「昔の方が良かった」と言われがちだ。しかし主人公は美しい時に散ろうとか、まして過去にばかり価値があるとは考えず、まだ前に進もうとしている。『Microphone』の「もう迷ったりしない 後悔なんてない」という力強さとは字面こそ全く違うけれど、この歌もまた「自分があってこその変化」を繰り返してきたあゆの姿なのだろう。

PVでは、静まり返った部屋であゆが物悲しそうに席に着いている。しばらくは、何故か左側の横顔しか映らないが、やがてカメラが正面に回った時にその理由が明らかになる。合間には、めちゃくちゃに汚された『A BEST 2』のジャケット写真の前で、次々と表情を変えるあゆも映される。

 

 

歌詞リンク:浜崎あゆみ Don't look back 歌詞 - 歌ネット

 

 

Jump!

作曲・編曲:CMJK

 

インストゥルメンタル。デジタリックな曲で、鼓動が速くなるかのようにリズムを刻む。あゆのヴォーカルに合わせて掛け声が入り、聴衆を煽る。

 

 

Lady Dynamite

作曲:原一博

編曲:CMJK

 

ひずんだ音を炸裂させるエレクトロニック・ロック。ダンサブルなリズムが小気味よく、歌詞の強烈さとも相まって鮮やかな印象を残す。

歌われるのは、見栄っ張りな男性達に愛想を尽かした女性達の心境だ。尾ひれどころか背びれもついて「もはや原型とどめてない」武勇伝を得意気に披露する男性。女性がおとなしく聞き入り、褒めておだてて自分の支配欲を満たしてくれると、当然のように期待している。「アタシ達」はそんな男性達の話を一応聞いてあげてはいたのだが、ダイナマイトが爆発するように、我慢の限界が来たようだ。「上目使いも疲れたし」「相づちをうつ声もツートーン 下がってきたわ」という言い回しが面白い。

そして目を引くのは「ママに言ってね 坊や達♥」というサビの締めくくり。「坊や達」という言葉のこの上ない鋭さに、ハートマークの痛快さが効いている。頷きながら何でも聞いてくれて、全て肯定的に受けとめすごいすごいと褒めてくれる、そんな「ママ」のような役割を、「ママ」でもない女性にまで当たり前に求めるのは、なるほど「坊や」もいいところである。

「悪いけど黙っててくれる?」「悪いけど道あけてくれる?」と言われれば、口を挟む隙などない。「アタシ達」にだって語りたい意思があり、聞くばかりが仕事じゃない。行きたい場所には自分で行くから、例え同じ行き先でもわざわざ連れ立ったりしない。そう突き付けられた男性達は一体どんな顔をするのだろう? 是非とも自分の中の女性観と虚栄心を改めてほしいものである。

PVでは、ドラァグクイーンやボンデージ姿の男性達が集まる中、なぜかあゆが乗り込み踊り狂う。ミラーボールのように銀色に輝く衣装や、ロリポップを舐めるカラフルなシーンなど、楽曲に負けず劣らずギラギラとした世界観を楽しめる。

 

 

歌詞リンク:浜崎あゆみ Lady Dynamite 歌詞 - 歌ネット