黙ってayuを聞け

浜崎あゆみさんの歌 とりわけ歌詞の魅力を語るブログ

2ndミニアルバム『FIVE』

ミニアルバムとしては『Memorial address』から久しぶりのリリース。タイトル通り5曲収録されたその内容は、先行シングルなしの全て新曲であり、フィーチャリングも2曲あるという意欲に溢れたものだ。ジャケット及び歌詞カードのメタルグレーの色味、黒い衣装はシンプルで落ち着いた印象だが、あゆのメイクや表情はよく見ると、荒々しい美しさを湛えている。5曲それぞれに違う個性から、あゆが込めた強い想いを受け取ろう。

CDのみ盤の通常盤とタイアップ盤、DVD付属盤の3形態で発売。2か月ほど経ってからBDM盤でも発売した。DVDには5曲全てのPV及びメイキングを収録。BDM盤には、CDとDVDの内容を収録している。ジャケットは、CDのみ盤が横向きのバストアップ、DVD付属盤は手を添えた顔のアップで、BDM盤はDVD付属盤と同一。タイアップ盤はゲームのイラストである。

 

 

progress

作曲・編曲:中野雄太

 

壮大なファンタジーを思わせるシンフォニックサウンドでゆったりと始まり、1番の終わりからはテンポを速めてハードロックへ。2番の後の間奏はギターとストリングスが暴れ回る、劇的な展開のプログレッシヴ・ロック

「単純な日々をおそれていたのはもう遠い昔 フクザツな日々こそ悲しいのを知ってる」という淡々とした出だしは、あゆが歌手として歩んできた激動の年月を思うとずしりと重たい。しかし主人公は、その悲しみに浸っているわけではない。遠い昔に戻りたいのではなく、「信じたい心」の「間違ってなんかいないよ」という声を聞いているのだ。「全ては現在を選ぶためだったとしたなら」とかつての自分を振り返り、「許したいと思うのは許されたいからなのかな」と自問自答しながらも。

そして主人公には、共に歩む人がいる。「同じ痛みを知って同じ優しさ持ちよった」その人と、「同じ未来」へ前進してゆくという決意は、強く揺るがないものだ。これは過去の積み重ねがあった上での更なる前進を描いた歌である。その積み重ねの間に、「ただ自由でいられたあの頃」は遠くなり、「無邪気な笑顔だけじゃ」過ごせなくなるような出来事が多々あった。そして進み続ける限り、これからも痛みには出会うだろう。けれどそれらを尚、必要な糧として、進んでゆくのである。「何かを信じられる心が残ってるから」と。

PVはあゆの横顔から始まり、曲のテンポが変わるところからはまさにひたすら前に進んでいく映像となる。その道程で様々な人の人生が交錯する。途中では海も渡り、2番の後の間奏では雲まで突き抜けて飛ぶ。そうして最後に辿り着くのは……。

 

 

歌詞リンク:浜崎あゆみ progress 歌詞 - 歌ネット

 

 

ANother song feat. URATA NAOYA

作曲・編曲:中野雄太

 

抑制的なサウンドR&Bだが、「愛していたよ」というシンプルで真っすぐな言葉の繰り返しが、抑えきれない想いを表現する。『Dream ON』で共演した浦田直也さんが、今回はフィーチャリングとして参加している。

「なのになのに」と後悔を二つ重ねながら始まるAメロの歌詞は、それだけで既にやるせなさを滴らせており、その後サビに到るまでの言葉が全て物悲しく響いてしまう。「隣ばかりうらやんだ」「近すぎて見失った」というのは、渦中にいる時は気付かず、「後になって気が付く」ものなのだろう。見るべき相手は見失っているのに、隣の方はうらやんで見ていた。今更分かっても、「時間は巻き戻せない」のである。巻き戻せないから、余計に「また出逢えるかな なんて愚かな夢」を見るほどの未練が迫ってくる。

そしてあの「愛していたよ」の繰り返しがサビで畳み掛ける。「あの夏の日」はもう遠くなってしまったけれど、「愛していた」事は変わらない。昨日も今日も愛していたし、きっと明日も愛しているだろう。終盤にサビは三つあるが、二度転調した上に、最後のサビは現在形の「愛しているよ」と表現され、主人公の気持ちが最大限に協調される構成だ。もうそばにはいない「君」に「届け」と願う「もう一つの歌」は、愛する気持ちの変わらなさ故に、悲しみに満ちている。

PVでは、あゆと浦田さんがダンサーのパフォーマンスと共に歌う姿を映している。黒い衣装と、暗い舞台へ光が差し込む演出が、この歌の淡々とした空気を表現する。

 

 

歌詞リンク:浜崎あゆみ ANother song feat. URATA NAOYA 歌詞 - 歌ネット

 

 

Why...feat.JUNO

作曲:原一博

編曲:中野雄太

 

ピアノの音を効かせたミディアムテンポのロックバラード。韓国のアーティスト、JUNOさんをフィーチャリングに迎えている。

こちらも別れてしまった人への未練を歌う歌だが、当然、『ANother song』とは違う見せ方をしている。『ANother song』は愛する気持ちが変わらないことを届けたいと願い、『Why...』では「どうして」という自問自答を深める。過去の自分が出来なかった事、その理由を問うても答えは出ない。出ないからこそ「どうして」とまた聞きたくなってしまうのだ。

「あれから時は経ち 何が変わったんだろう 距離は何を遠ざけたんだろう」と、もう時間も距離も離れてしまった事は分かっている。それでも「名前呼ぶ声」が聞こえたり「君の後ろ姿」を探してしまったり。それほどまでに強い想いがあったのに、「僕」はきちんと伝えないままだったらしい。「大切だったのは 目を合わせる事で 交わす言葉の数じゃなかった」とあるが、散々言葉は重ねたのに、肝心な事だけはっきりと言えなかったのだろうか。「目を合わせる」とは伝える姿勢の事であろう。想いを出し惜しみしてこんな結果を招いた自分に、「どうして」はのしかかる。

「優しさとわがままの違い それさえわからずに」は特に胸の痛むフレーズだ。優しさとは何で、わがままとは何だろう。願いや要求を口にしない事が優しさとは限らず、口にする事がわがままとも限らない。「どの位あと強くなれば 僕らはよかったの」とあるが、いない君には最早聞く事も出来ないので、これも結局は自問自答であろう。「君」が「僕」の想いを待っていたのなら、ただ強く伝えるべきだったのだ。

DVD付属盤には「feat. URATA NAOYA」として浦田直也さんのバージョンもボーナストラックとして収録されている。

PVは児童文学の『不思議の国のアリス』を彷彿とさせつつも、何処かダークな世界観で描かれる。あゆは蝶のモチーフを繋げたドレスを着ており、バラの花を敷き詰めた部屋と、がらんとした色味の少ない部屋を行き来し、それぞれで不思議な人と遭遇する。JUNOさんはさながら、夢の世界に誘い込んだウサギだろうか、あゆの様子を見ている。

 

 

歌詞リンク:浜崎あゆみ Why... feat. JUNO 歌詞 - 歌ネット

 

 

beloved

作曲:星野靖彦

編曲:中野雄太

 

胸がじわりと温かくなるような、優しいトーンのバラード。

主人公の「僕」は、自分の情けない面を赤裸々に語る。「言葉振り回して 誰かを傷つけたよ」「後ろ指を指されて 冷たい視線さける ように俯いてるよ」と。こうしてさらけ出すのは、「あなた」が相手だからこそである。そんな自分がどんな風に見えるのか聞かせてほしい、間違ったときは叱ってほしい、けれど他の誰に否定されても褒められたい、そう思う相手なのだ。「あなた」には「あなたのまま」変わらずにいてほしい、こんな変われない「僕」でも側に居させてほしい、そんな愛しさが静かに溢れ出す。

けれど一方で「僕」は、「あなた」も「そんなに強くない」と知っている。「してあげられる事なんてなにもないけれど」と、やはり情けなさを吐露し、その上で、「その心いつも 抱きしめてます」と精一杯の想いを綴る。「最愛の人」の前では、自分を取り繕う事など出来ない。だからこそ情けない自分は情けない自分として受けとめられる事を願い、自分もまたその人をありのまま受け止めたいのだろう。

PVは白いドレスで海辺を歩くあゆと、黒いドレスを纏いながらゆったりと歌うあゆとが交互に映される。海辺のあゆはやがてたくさんの子供達と出会い、その自由な創造力に触れる。ずっとモノクロだった画面が色付くタイミングに注目してほしい。

CDのみ盤と、後に他の作品と同時発売されたPLAYBUTTONには「Orchestra version」もボーナストラックとして収録されている。

 

 

歌詞リンク:浜崎あゆみ beloved 歌詞 - 歌ネット

 

 

BRILLANTE

作曲:Timothy Wellard

編曲:中野雄太

 

ミステリアスな雰囲気を湛え、重厚で壮麗な広がりを持つバラード。作曲はあゆのコーラスも担当しているティミーさんで、この作品も厚みのあるコーラスが特徴的だ。どこか呪術的にも響く声の重なりは、『Duty』を思い起こさせる。

タイトルは「輝かしく」という意味の形容詞で、音楽用語でもある。しかしこの歌で浮かび上がるのは、輝きそのものより、裏にある絶望の影だ。舞台で一筋のスポットライトを浴びるスターの姿そのままに、色濃い闇の中でごく限られた光を見ているのである。

主人公の「あたし」は、長くいた闇から「そろそろ行くわ」と言う。「何も見えなくなったその後で 全て見えた」とは、闇から抜け出す光が差したという事だろうが、その光は残酷な事実も照らし出した。光の差す方向には、ひとりきりで行くしかないのだと。道は狭く、「あなた」とは共に歩めないのだと。「あたし」は痛みのあまり、泣いたり叫んだりする力すらなく、「ひたすら無に襲われるのね」と淡々と実感を述べる。「ふたつだったものが ひとつになって ふたつになった ただそれだけの事ね」とわざわざ言い聞かせるような歌詞がますます痛々しい。「あなた」への想いはもう綴らず、その理由さえも告げない。それほどの痛みを伴って尚、「あたし」は光へと向かう。

ここまでは側にいる人の大切さと、離れてしまって人への変わらぬ愛とを歌ってきただけに、この歌の「あなたを想って 綴るのはこれで 最後にするに事したわ」と突き放すような出だしには、不意打ちを食らったような気持ちにさせられる。殊に『progress』で歌われた二人の姿とは正反対と言ってもいいくらいではないか。そして5曲という限られた作品群の最後にこれほど辛く厳しい歌を持ってくる、あゆのその精神性にこそ、我々は惹かれてしまう。

PVでは、クレオパトラのような姿のあゆが登場する。妖艶な赤いドレスを身に着け、鍛え上げられた屈強な男性達を統べるあゆは、しかし祭り上げられるほどに苦悩と葛藤を見せる。何かに怯えているような歌唱シーンは印象深い。衝撃的なラストまでを見届けよう。

 

 

歌詞リンク:浜崎あゆみ BRILLANTE 歌詞 - 歌ネット

 

 

 

浜崎あゆみさん、お誕生日おめでとうございます🎂🍰

世界はまだ厳しい状況ですが、そんな中でも大きなステージを作り上げる姿にはただただ感動するばかり。

これからも歌の力を、どうか私達に教えて下さい。

 

 

そしてこのブログを読んでくださっている皆さん、大変長らくお待たせ致しました。

以前書いたPCの不調と、その他諸々の問題を片づけ、何とかあゆの誕生日にこの記事を投稿する事が出来ました。……と言っても、滑り込みセーフでしたね……本来なら日付変わった瞬間に出したいものです。今日こそはと思ってやきもきしていた方がいらっしゃったら、本当に申し訳ありませんでした。

 

ところで、既に知っている方もいるでしょうが、この辺りからあゆのリリースはアルバム中心になっていきます。

そしてアルバムの記事はどうしても書くのに時間が掛かりますし、そもそも投稿する際、なるべく皆さんがじっくり読んでから次を読めるように、意識的に投稿の間隔を開けます。

何が言いたいかと言うと、投稿のペースが劇的に上がる事はしばらくない、という事です……。

もちろん、今回ほど間隔が空いてしまうのは希なので(希にしなければなりません)、皆さんに忘れられてしまわないうちに更新できるよう、努力するつもりです。

 

それでは、こんな私ですが、これからもお付き合い頂けたら幸いです。