黙ってayuを聞け

浜崎あゆみさんの歌 とりわけ歌詞の魅力を語るブログ

絶望三部作 14thシングル『vogue』、15thシングル『Far away』、16thシングル『SEASONS』

「絶望三部作」と呼ばれ、ほぼひと月ごとにリリース、ジャケット写真やPVなども一続きということで、3枚のシングルを一気に紹介する。

スターダムにのし上がったにも関わらず、色濃い絶望を描き続けるあゆ。ダークさという意味では共通しているが、その絶望は『A Song for ××』をリリースした時期のものとはまた違うのだろう。人の悩みは尽きないもの、あゆはその一つ一つに向き合っている。

流行の後、新しく生まれ変わり、人生の目的を探す……もちろん三部作としてつなげて解釈出来る。しかし1曲1曲、別々に聞き入ることも可能だし、事実あゆはそういう楽しみ方も想定していると見え、直接的につながるような書き方はしていない。それぞれのカラーをくっきりと持ちながらストーリーを描く三部作を堪能したい。

 

 

vogue

作曲:菊池一仁

編曲:鈴木直人菊池一仁

 

「君を咲き誇ろう」という不思議な言い回しのサビが、強い印象を焼き付ける。中近東風のエキゾチックな曲に乗せて、儚い世の無常が歌われる。舞い散る花びらのようなコーラスが叙情的だ。ジャケットは、鉛筆と水彩だろうか、絵として描かれたあゆの顔が大きく使われている。

「流行」という意味のタイトルからして、「君」があゆ自身なのは明らかだろう。『Fly high』のPVのごとく、あゆは自分をじっと静かに見つめている。「美しく花開いた その後はただ静かに 散って行くから…」という諦観にはただただ敬服してしまう。君のことを歌い、遠い所まで来たことに後悔はない、そう言い切れる潔さにも。

花は散るからこそ美しい、とよく日本人は言いたがるが、あゆが花を用いて書いた多くの作品はまさに、「散る」ということをいつも意識させられる。

 

 

歌詞リンク:浜崎あゆみ vogue 歌詞 - 歌ネット

 

 

Far away

作曲:菊池一仁、D・A・I

編曲:HΛL

 

海が登場する歌詞そのままに、透明な波が打ち寄せるような音を響かせる。ジャケットは、『vogue』のジャケットの絵の元となる写真が水面に浮かんでおり、あゆの隣には誰かがいたと思われるがちぎれていて分からない。

この1曲だけを見れば破局を綴った作品であり、別れてから過ぎた季節を思い返す描写が切ない。通過駅、始発駅、終着駅の比喩も説得力がある。一方、「三部作」としてみた場合、「あなた」は誰なのだろう? やはりそれはあゆ自身であって、もう一人の自分を切り離してみたということだろうか? 「もうすぐで夏が来るよ」ということで、花の咲く『vogue』から時を引き継ぎ、やがて『SEASONS』へと受け渡すのだろう。もっとも、『SEASONS』はそのタイトル通り、夏だけではなくたくさんの季節を歌っている。

歌詞には「生まれ変わる」という、ある意味では前向きにも聞こえる言葉がある。私もあなたも自分らしく生まれ変わるために、どれほど悲しくとも別れは必要だったのだろう。

 

 

歌詞リンク:浜崎あゆみ Far away 歌詞 - 歌ネット

 

 

SEASONS

作曲:D・A・I

編曲:鈴木直人

 

あゆの代表曲となった作品。曲は同じくD・A・Iさんが提供した『TO BE』や『Boys & Girls』のように転調を繰り返し、切なげなマイナーのイントロ、不安そうなメロディーから、澄み渡る空のように爽やかなメジャーのサビへと続く。ジャケットは、青空の下で『Far away』のジャケットのちぎれた写真を持っているあゆを正面から写している。

歌詞は、初めから終わりに向かって、だんだんと晴れ間が広がるような構成だ。「思い出はまた遠くなった」「夢と現実の境界線は濃くなった」というのは、青春時代の終わりだろうか? 楽しい日々が続くと思っていたのは過去の話で、この頃は毎日に物足りなさも感じる。けれど先回りして諦めていた自分に気付き、悲しみの日々があったとしてもいつかは笑えるだろうと希望を抱く。季節は幾度も巡る、しかし人生に限りはある、「僕らは今生きていて そして何を見つけるだろう」という終わり方が清々しい。

三部作で最も抽象的で、余白が多い歌詞でもある。その余白に聞き手は、自らの過ぎてきた時の思い出、悲しいことも楽しいことも自由にはめ込むことが出来る。

 

 

歌詞リンク:浜崎あゆみ SEASONS 歌詞 - 歌ネット

 

 

ever free

作曲:D・A・I

編曲:鈴木直人

 

『vogue』のカップリングなのだが、三部作のエピローグとなる作品と言われるため、最後に記した。『SEASONS』のシングル内で早くもリミックスになるほど、この曲の存在は強調されている。シングルリリースの際には、歌詞は公表されていなかった。

歌われているのは、逝く人への別れの言葉。「白い花」と「黒い列」、「美しいものは時に 悲しいもの」、「会いたくて会えなくて」という対比が美しい。晴れた空の下、葬送の列から敢えてはみ出した主人公の胸中。短く簡潔な歌詞からそっと滲み出る思いを感じたい。

この作品もやはり、1曲としての解釈と、三部作での位置付けと、両方があるはずだ。しかし三部作として考えると、途端に難解になる。他の3曲とつなげなければならない、つまり、「人の死を悼む」に留まらない意味を見出すことになるからである。

三部作の一続きのPVは一貫して暗いトーンで、あゆは喪服で登場する。『vogue』のカップリングとしては、『vogue』と『Far away』の間に位置付けて、「死を迎えた流行を見送り、新しく生まれ変わる」という流れにしても良いのだが、エピローグということになっている。『SEASONS』で爽やかに上向いたところではなく、「死」をもって終わらせるとすれば、あゆは、何を葬ったのか。絶望を覗き込んだ先に、何が見えたのか。静かに散り、新しく生まれ変わり、希望を目指して、あゆはまた歌い始める。

 

 

再考:『絶望三部作』