「s」から始まるタイトルの楽曲を6曲集めたミニアルバム。明るい楽曲とシリアスな楽曲が3曲ずつある。
6曲中5曲は湯汲哲也さんからの提供であり、曲調に違いはありつつも全体に統一感のある印象を受ける。一方で、唯一DAISHI DANCEさんが提供した楽曲では豪華なコラボレーションも実現し、ミニバルバムとは思えない濃度の作品となった。
Blu-ray付属盤、DVD付属盤、CDのみ盤の3形態で発売。ジャケット写真は、あゆの顔のアップをモノクロで映しており、それぞれ表情が違う。
Step by step
6thデジタル・ダウンロードシングル。歌詞については当該記事を参照。
PVでは、あゆを含めた4人の女性達が、しがらみから解放されていく様子を描いている。ラストに明るく開けた視界が眩しい。
Summer diary
作曲:湯汲哲也
編曲:中野雄太
眩しい陽光が織り込まれたような、“夏歌”として王道とも言うべき明るさと爽やかさ。しかし、そこはかとなく儚さも感じるのは気のせいだろうか。それもまた夏という季節の一面かもしれない。
歌詞に使われている言葉もまた、キラキラと輝いている。「よくある“このまま時が止まれば いいのに”って台詞わかる気がした」「この夏に魔法をかけていたいよずっと」「生まれて初めての感情を知って」などなど、面映ゆいほどの描写に胸がキュンとなる事間違いなしだ。「他のどの季節より やっぱり特別で」というところでは、夏歌を数多く歌ってきたあゆの、夏への思い入れも見える。
共に過ごした夏は、「一緒に見た海眩しかったね」と振り返るような思い出に満ちていて、「君」に対しても「いちいち愛しくて胸が苦しくて」という気持ちが溢れている。「心のダイアリーに綴るよ」という可愛らしい表現から、いかにそれらが大切かが伝わってくるのだが、それでもなお、「君」との関係は確約されたものではないらしい。「君の隣に居させて」「叶うならこのままで変わらないで」「もしも許されるのなら」と、言葉を重ねて強く願う様子が描かれているのだ。夏の魔法は続くのだろうか。この先もダイアリーのページが埋まっていくような二人であってほしい。
PVでは、海辺でバカンスを過ごしに来たといった様子のあゆが、そこで出逢った男性と距離を縮めていく。しかし夏が終わりに近付くにつれ、不穏な気配も。さて一年後の二人はどうなるのか。海に足を浸して夕陽に照らされながら歌うあゆのシルエットも素敵である。
歌詞リンク:浜崎あゆみ Summer diary 歌詞 - 歌ネット
Sayonara feat.SpeXial
作曲・編曲:DAISHI DANCE
台湾のダンス&ボーカルグループであるSpeXialとコラボレーションした1曲。EDMの曲調に合わせて、切なく苦しい想いが歌われる。
歌に描かれた「僕」と「あなた」の関係はとても不安定だ。「僕」は「あなた」の態度に「ずるいよまた守る気のない 約束して期待させて」と悲痛な想いを募らせる。「あなた」が「そんなつもりじゃない」事がかえって罪深く、「僕」は「もう慣れたよ」とまで開き直っているようだ。「いちいち傷付いたり」しないというくらい、もう傷付くのが当たり前になってしまっている。
苦しみばかりが生まれるような状況にもかかわらず、「どうしたら嫌いになれるの」「どうしたら忘れられるの」と、「僕」は「あなた」への想いを断ち切る事が出来ない。そのままならない想いは、「どうしたら どうしたら どうしたら」と繰り返すサビにも表れている。一方で「サヨウナラ サヨウナラ サヨウナラ」とも繰り返されているが、果たしてこれはきっぱりと別れを告げているのだろうか。純粋に「大好きなあなた」を想えた日々に戻れなくなった、という事かも知れないし、これで最後と思いながらも結局はぐずぐずと関係を続けてしまうのかも知れない。「まるで何もなかった様な顔で 明日を始めるんだろう」という歌詞からも、様々な想像が出来そうだ。
そもそも、二人の仲がこれほど拗れている原因は何だろう?不実とも取れる態度の「あなた」について、「僕」は「ほんの少しだけでも 誰かを想って胸を痛めたりするのかな?」と思いを巡らせるが、明確に自分自身ではなく「誰か」とぼかしているところが意味深である。「僕」以外にも目を向けている可能性があるのか。何にせよ、冒頭ではSpeXialのメンバーが、終わりではあゆが囁いている英語のセリフを読み解くと、自分の愚かさを知りつつも未来に期待してしまう、手に負えない心境が見て取れる。
PVでも、あゆとSpeXialが共演している。モノクロの映像で、パフォーマンスをする場面と、あゆがメンバー一人一人と絡む艶っぽい場面、そして壮大な風景とが織り交ぜられ、コラボにふさわしい特別感がある。
歌詞リンク:浜崎あゆみ Sayonara feat.SpeXial 歌詞 - 歌ネット
Sorrows
作曲:湯汲哲也
編曲:tasuku
出だしから一貫してピアノを繊細に響かせつつも、サビで叩きつけるようにドラムが激しく鳴るヘヴィーメタルの様相を呈していく。叫びのような言葉とヴォーカルが心を震わせる一曲である。
「手を伸ばしてももう遅くて 取り戻せないことに気付いた」「見上げた空はもう誰とも 繋がってなどいない気がした」と、一番では絶望的な孤独感が描かれる。けれどふと、「強く風吹いた時 雨が打ちつけた時」に「僕を諦めずにいた」という、「君」の存在に思い当たる。
「君を想えば負けてなどいられなくて」踏ん張ってきた自分を思い出した主人公に、再起の兆しが見えるのが2番だ。「まだ間に合うなら遅くないなら もう一度愛を信じれるかな」と、諦めないでいてくれた「君」に今からでも想いを届けようとする。1番で「誰とも繋がっていない」と感じたはずの空に「震える手」をかざす場面からは、その切なる胸の内がひしひしと伝わってくるようだ。そして、「君のその綺麗さが僕を生かしてる」と力強く歌われる。「狂った世界」の中でも強く生きて行こうと思えるその動機のありかを、主人公は今や、目を逸らす事なく見つめているのだ。
サビは同じ言葉や言い回しを何度も使う事で、切々とした心情を強調する表現となっている。タイトルは多くの哀しみを示しているけれど、最後に「哀しいほど好き」という言い方をしているのも見事である。
あゆは一体、何を想ってこの歌詞を書いたのだろう?「まだ指さされてるかな まだ許されてないかな そんな僕を見て君は泣いてるかな」というところから、誰かに悪く言われること自体より、そのせいで「君」を哀しませる事に心を痛めているのが分かる。「君」の中に、例えば私達ファンが含まれるとしたら、「ここで夢を紡いでくよ君のために」という歌詞には強く心を打たれるほかはない。
歌詞リンク:浜崎あゆみ Sorrows 歌詞 - 歌ネット
Shape of love
作曲:湯汲哲也
編曲:中野雄太
前曲に比べると幾分激しさは収まるものの、切なくしんみりとしたメロディーが奏でられる、三拍子のロックバラード。しかしその物悲しい曲調に載せて、「愛」についてが語られる。その意外性がかえって、愛の尊さを際立たせる。
歌詞はかなりシンプルで、しかし「愛」という抽象的なものを語っているが故に、じっくりと追いたくなる内容だ。ヴォーカルもまた、噛み締めるように歌い上げている。「愛ってどんな形でどんな色しているかな」とは、一度は誰もが考えた事があるのではないだろうか。愛を伝えたい時、物や行動で表そうとはするが、愛そのものは誰も見たり触ったりする事は出来ない。それが「複雑」さにつながっている。「見えたり触れたりできるものなら」「もっと楽なのにね」という歌詞にも頷いてしまうだろう。そう、この作品はまず、愛の持つ厳しい側面から描かれているのだ。
しかし、ただ愛ゆえの苦しみを示して終わるわけでもない。「それでもねまた人を愛して 傷ついてって繰り返すよ」とは、言い換えれば、傷ついた後もまた人を愛するという事である。流した涙が「意味を持たせてくれる」事を、主人公は信じているからだ。傷を傷として受け止めながら、それにもまた意味があるとするのは、あゆ作品に何度も登場してきた価値観である。
そして更に踏み込んで、「形や色がないから良いのかな」「きっとだから尊いのかな」とまで歌う。複雑だからこそ、傷つく事もあるからこそ、「愛しているのひと言」が持つ「魔法の力」は計り知れない。例え苦しみがなくならなくても、「何もかもが大丈夫」と思わせてくれるものが愛なのだ。
歌詞リンク:浜崎あゆみ Shape of love 歌詞 - 歌ネット
Sky high
作曲:湯汲哲也
編曲:中野雄太
アルバムの最後は、『Step by step』に負けず劣らずの明るい楽曲で締める。歌詞の通りどこまでも飛んでいけそうな爽快感と解放感は、『BLUE BIRD』も彷彿とさせる。
旅立ちを前に、「僕」は「君」を励ましている。幸せな夢の後は現実が不安になり、信じる事は失う怖さと隣り合わせだ。けれども「伝えた言葉は全ていつまでも真実のままだよ」と、「僕」は優しく語り掛ける。踏み出す事にいかに勇気がいるかを知っている「僕」もまた、恐れるもののない超人などではない。だからこそ「君」に心から寄り添い、「強さを2人分持って行くから例えば 優しさ2人分持っていてくれたら大丈夫だね」と伝えてくれる。
夏歌の『independent』 には、「僕には君が必要みたいで 君にも僕が必要なら」という歌詞があったが、一人で不安ならば、一人のまま乗り越えようとするのではなく、二人で共に進めばいいのだ。あゆ作品ではよく孤独が歌われるが、それと対になるものなのだろうか、誰かと共にある意味もまた繰り返し歌われている。二人が共にあるのは、一人では乗り越えられないからこそなのではないか?「風より早く空よりも高く 今の僕らに不可能はなくて」と言い切れるのは、一人ではないからだろう。
「目の前を飛ぶ鳥のように 君を連れて羽ばたいて行くから」という歌詞はやはり『BLUE BIRD』を連想させる。「君を連れて羽ばたいて行くんだ」と言ってくれる「僕」の愛情は、必ずや「君」に「虹の向こう側」を見せてくれるはずだ。
歌詞リンク:浜崎あゆみ Sky high 歌詞 - 歌ネット