黙ってayuを聞け

浜崎あゆみさんの歌 とりわけ歌詞の魅力を語るブログ

7thデジタル・ダウンロードシングル『We are the QUEENS』

We are the QUEENS

作曲:原一博

編曲:中野雄太

 

 

壮大な幕開けと、冒険への旅立ちを思わせる曲調を経て、勇ましいエレクトロニック・ロックへ。そんなイントロだけでも目まぐるしいが、最後の最後までドラマティックな展開が続く。「剣」「ドラゴン」「城」という単語が登場する歌詞とも合わせ、胸躍るバトルファンジーを思わせる作品。“ジャケット写真”は、銅金の鎧と王冠を身に着け堂々と玉座に腰掛けるあゆ。

「どんな攻撃だって僕を傷付けられない」「勝利への笑み浮かべながら」と、闘気に満ちた言葉が並ぶ。その強さは、決して一人だけのものではない。「戦いはそう君へのメッセージ」「ひとりじゃないと知った」「僕等だけの城を築きあげるんだ」と、連帯するからこその強さが描かれている。「queens」と言うからには、この作品は女性をテーマとした作品にも連なるのかもしれない。

「倒れたなら 強く立ち上がればいい」「ダメだったなら またやり直せばいい」という歌詞から分かるのは、負けたり挫折したりしても、そこで終わりではないという事。「僕等だけの城を築きあげる」のは簡単ではないからこそ、連帯する絆を武器に戦い続ける――サビの出だしの「Yes, we are the queens」を聞くたび、そんな姿を想像して毅然と顔を上げたくなる。

ロックバンドのクイーンは名曲『We are the champions』で、苦難も屈辱も超えた人は皆チャンピオンだと讃えたが、『We are the QUEENS』もまた、何をもってして女王と呼ぶのかという哲学に注目したい。「女王」とはきらびやかな姿をした特別な一人を指すのではない。自ら運命を切り開き戦い続ける誇り高い志がある女性なら、誰もが女王なのだ。

なお、「We are the QUEENS」と歌う主人公の一人称は「僕」である。これまでもあゆ作品は基本的に、一人称が「僕」だからと言って男性目線だと限定する事はなかったが、今回ははっきりと女性目線と分かる中で「僕」と使われている。

 

 

歌詞リンク:浜崎あゆみ We are the QUEENS 歌詞 - 歌ネット

 

 

 

 

もうすぐ新しい年ですね。

私はここ3年、更新頻度がとんでもないことになっていたので、今年は少しだけ頑張ってみました。

といっても、この程度なのですが……。

リリース分にいつ追い着けるか、見守って頂けると幸いです。

では皆さん、よいお年を!

17thアルバム『M(A)DE IN JAPAN』(後編)

〔『M(A)DE IN JAPAN』の記事 【前編】 【中編】 【後編】

 

Mr. Darling

作曲:湯汲哲也

編曲:中野雄太

 

HONEY』や『meaning of Love』のような、素直に可愛らしく「愛しい人」へ想いを伝える楽曲。オルタナティヴ・ロックの曲調で爽やかに響き渡る。

歌われる言葉は実にシンプルだ。「何の取り柄もない私でも あなたのためとなると何故か 不思議な力湧くのよ」と、愛がいかに強い原動力となるかを伝えている。『Shape of love』では傷ついてもなお感じる愛の力を切々と歌っていたが、今作ではあまりシリアスではない形で愛の力が示されていると言えるだろう。ファンとしては、「何の取り柄もない私」というところには意義を唱えたいものだが……。

サビでは「もっと側にいて」「ずっと側にいて」と願いが繰り返される。「私らしい私」「ありのままの私を見て」とさらけ出せるほどの側にいてほしいのだから、全く飾り気なく心から想っている事が伝わってくるだろう。そして相手に対しても、「あなたらしいあなた」「ありのままのあなた」を見せてほしいと願う。

「私いつでも今日を1番キラキラにしていたい」という歌詞に、やはり今日という日を大切にする心境が描かれている。この「キラキラにする」とは、飾り立てるという事ではない。「ありのままの私」「ありのままのあなた」そして「ありのままの2人」でいる事なのである。

 

 

歌詞リンク:浜崎あゆみ Mr.Darling 歌詞 - 歌ネット

 

 

Summer Love

作曲:丸山真由子

編曲:tasuku

 

夏に向けてアップテンポに心を浮き立たせるEDM。ダークでシリアスな楽曲から始まったアルバムのボルテージは、ここで最高潮に達する。

オリジナル楽曲として最後の収録は、あゆが数々生み出してきた夏歌に連なる作品だ。EDM調の夏歌と言えば『You & Me』があるが、高揚感ある曲調と裏腹に失恋が描かれていた。今回は夏に向けて上向いていく心境がそのまま描かれる。

Aメロ、Bメロのメロディーはややシリアスではある。「ワクワクが止まらない」「いつもより大胆になる」と夏に期待しつつも、「言わずにいる言葉たち(壊したくはないから)」と、もどかしい想いも抱えている様子がそのメロディーにマッチする。「誰想ってるの Tell me どうして僕じゃだめなの」という歌詞を見るに、まだ「僕」と「君」は近付き切っていないらしい。だからこそ、転調したサビで繰り返される「So I LOVE YOU」「More I LOVE YOU」の、ぱっと目の前が明るくなるような解放感が清々しい。「太陽めがけて 僕らの夏始めよう」「難しい事は 抜きにして飛び出そう」というエネルギーに満ちた描写が、聞き手にも元気を与えるだろう。

「夏のせいにして 毎日伝えたいよ」「君の瞳に 恋してたい」というストレートな言い方も、「夏の魔法」の成せる業だろうか。直近の夏歌である『Summer diary』での恋は、後に『Winter diary』によって上手くいかなかった事が分かってしまったが、今度の「僕」と「君」には夏が終わった後も心を通わせていてほしいものだ。

 

 

歌詞リンク:浜崎あゆみ Summer Love 歌詞 - 歌ネット

 

 

Many Classic Moments

作詞・作曲:小室哲哉

編曲:Yohanne Simon for RedOne Productions, LCC

 

小室哲哉さんのユニットglobeの楽曲をカバー。元はglobeのトリビュートアルバム『#globe20th -SPECIAL COVER BEST-』収録曲で、ボーナストラックとして再録。

ラップ部分がない事やアウトロが短い事を除けば、概ね原曲の雰囲気が残っている。淡々と積み重ねながらも突き進むような曲調を、あゆの真っ直ぐなヴォーカルが表現している。

 

 

歌詞リンク:浜崎あゆみ Many Classic Moments 歌詞 - 歌ネット

 

 

Winter diary(PV)

Winter diary ~A7 Classica~』収録曲。歌詞については当該記事を参照。

PVは、穏やかで優しい曲調とは全く異なり、物騒で衝撃的な内容。あゆが男性と組み、カジノで遊興したり、大量の紙幣をばらまいたり、果ては強盗まで……。強盗のシーンで着ているサンタクロースの格好が季節感を表現しているが、何処までが夢で何処からが現実か、あゆと男性がどんな関係なのか、色々と考えてしまう不思議な構成となっている。

17thアルバム『M(A)DE IN JAPAN』(中編)

〔『M(A)DE IN JAPAN』の記事 【前編】 【中編】 【後編】

 

 

Survivor

作曲:ティム・ウィラード

編曲:中野雄太

 

前曲から一転、アップテンポでダンサブル、アグレッシヴな楽曲である。歌詞もシリアスではあるが前向きで、歌詞カードの写真もこの曲から明るいトーンになる。色濃い影から始まったアルバムを、次のフェーズへとつなげる。

目の前の街並みを「コンクリートジャングル」と呼び、「ねぇ此処よりも シュールな街ってある?」と表現する主人公の「僕」。曰く、「カワイイ」の奥には「残酷さ」が潜むと言う。「外の人達」を惹きつけるその華やかさは、決して美しくないものに支えられているのか。表で栄華を極める人と、裏で追い詰められている人との、格差が甚だしいのか。思えば都市部の過剰な消費活動は『Mad World』で描かれたような環境破壊にもつながるし、女性をテーマに描いてきたあゆなら、「カワイイ」が時に女性への抑圧になってしまう事も踏まえているかもしれない。いずれにせよ、物事の複雑さを注意深く見定める視点がそこにはある。2番の「優しい笑顔のあの人」を「もしかしたら あれは泣き顔だったかな?」と気に掛ける歌詞も、根本的には同じ発想だろう。

「夢に焦がれたのはもう いつかの遠い昔 この頃じゃリアルにしか惹かれない」と言い切るハートの強さも頼もしい。現実の厳しさを目の当たりにして尚、その現実にこそ惹かれるというのは、世界は変えられるのだと信じているからだろう。そして、どうやって変えていくのかと言えば、「地球とかそんな大それた 事を言ってるんじゃない 例えば隣のあの子とか」と述べる。これこそ、『Mad World』で途方に暮れていた主人公へのアンサーではないだろうか。あるいは、「目の前の悲劇にさえ対応できずに 遠くの悲劇になど 手が届くはずもなく」という『immature』の歌詞を、より前向きに言い換えたものかも知れない。世界に思いを馳せるのと、個人に思いを寄せる事は決して相反するものではなく、手の届く範囲で行動する事こそ、世界を変える一歩なのだ。

サビは「fly fly fly fly fly away」「try try try try try again」と畳み掛けるように歌われ、「だから君と僕は 生き抜こう」と締め括られる。力強く語って生き抜いていく「僕」の手を、聞き手は取らずにはいられないはずだ。

 

 

歌詞リンク:浜崎あゆみ Survivor 歌詞 - 歌ネット

 

 

You are the only one

作曲:ティム・ウィラード

編曲:中野雄太

 

朝靄が晴れ、空気が澄んでいく中でゆったりと今日を迎えるような雰囲気で始まり、徐々に開放的で分厚くなっていくサウンドが特徴。とりわけ、転調してからの伸びやかな展開のヴォーカルが心地良い。

しかしそんな穏やかな曲調とは裏腹に、短くも重みのある言葉が並んでいる。「君」について「めちゃくちゃだったり 道外したり」と表現していたり、「まるでこの世界の 終わりみたい そんな日も確かにある」という実感を打ち明けたり。けれど、「君」が上手くいっていなくても、世界に裏切りを感じても、主人公は「Only one」の「君」を見守っている。「これ以上 君を好きにはもう なれないくらい 愛してるよ」と惜しみなく歌う。

きっと、「君」さえいればどんな世界でもやっていけるというような単純な話ではないし、「君」も主人公に見守られたからといって「めちゃくちゃ」なのは変わらないだろう。それでも主人公は全てをひっくるめるように、「君」が「Only one」であるという、永遠に変わらない事実を讃えている。それどころか、「もし君が哀しい時は 世界一のピエロになるから」とまで言う。「ほら未来が叫んだ 今が答えじゃないと」とあるように、今起きた挫折なり失敗なりで先々まで決めつけたりはしない。唯一の存在であることを、「You are the only one」というとてもシンプルな繰り返しで肯定するフレーズを聞いているうちに、ゆっくりとでも歩いていけそうな気分になる。

 

 

歌詞リンク:浜崎あゆみ You are the only one 歌詞 - 歌ネット

 

 

TODAY

作曲:上野シュン

編曲:佐藤あつし清水武仁

 

Greatful days』『how beautiful you are』『Hello new me』など、「特別ではない今日一日」を生きる事の大切さをあゆ作品は繰り返し伝えてきた。その精神性が満を持してと言うべきか、ずばり『TODAY』というタイトルの楽曲として描かれている。ライブの終盤にぴったりの、胸に沁みるバラードだ。

「特別な日じゃないけど 記念日とかでもないけど 君の誕生日でもないけど」という歌詞の先に真っ当にやってくる、「なんでもない今日が宝物」。結局のところ、「なんでもない今日」に「一緒に笑い転げていられる」幸せを積み重ねていく事が大切なのだ。ところで「君の右側」という言い方は、『count down』の「あなたのその左側」とは逆である。歌の内容もまるで違うが、何か意味があるのだろうか。

「他人を傷つけてダメに する事で自分の傷を 癒せる気がしてるのかな」という歌詞の通り、残念ながら傷つけようとしてくる人はいる。ことこの現代は、匿名で簡単に人を攻撃出来てしまう時代だ。しかし主人公は「誰かの理想のために生きないで」と願う。大切な一日を、他人の言葉で乱されてしまってはもったいない。

サビの「例えばそう僕らは永遠(とわ)に 生きて行けるわけじゃないから 限りある時間のなかで どれだけ愛せるかなんだよ」というメッセージは飾り気なくストレートだが、「特別ではない一日」には忘れてしまいがちでもある。特別でなくても、限りある時間には変わりない。限りある人生は、誰かの理想ではなく自分のために、傷つけるのではなく愛するために使いたいと、想いを新たにしてくれる作品である。

 

 

歌詞リンク:浜崎あゆみ TODAY 歌詞 - 歌ネット

 

 

 

 

浜崎あゆみさん、お誕生日おめでとうございます🎊

昨年は47都道府県ツアーを駆け抜けましたが、休むことなくまたも大きな計画があるのですね!

まだまだ残暑がある中ですので、どうか体調にだけはお気を付けて過ごして下さい💖

 

さて、お読みになっている皆さん。

今年このブログは、去年に比べればまあまあ更新しております。本当に去年は少なかったのでさすがに反省しました💦

そしてその事により、リリース分に追い着くのもだんだん夢ではなくなってきています。

もちろん、追い着いた後はリリースごとに記事を挙げていきますし、他にも色々考えてはいますよ🎶

まずは最低限、この更新頻度を落とさないよう頑張ります。

 

17thアルバム『M(A)DE IN JAPAN』(前編)

カバー曲を除き先行楽曲が一切なかった、挑戦的なオリジナルアルバム。アルバムタイトルの「(A)」はロゴ表記。

A ONE』、『sixxxxxx』と、ダークさや繊細さが滲み出る路線が続き、今回もまた、特に前半ではかなりシリアスな世界が描かれる。しかし何より注目すべきは、「made in Japan」というタイトルだ。例えば『Rock’n’Roll Circus』や『Party Queen』のように、海外でレコーディングをした際にも、様々な刺激があっただろう。しかしタイトルから「日本」を強調するというのは、その時とは全く違う何かがあったと想像出来る。

ジャケットは、縄で拘束された両手首を目の前に構えるあゆの顔のアップで、形態によって目線が違う。その縄は何を意味するのだろう?知らないうちに絡みついていたしがらみか、あるいは自らが課してしまった制約か……。いずれにしても、生まれ、生きてきた日本の地で、解き放たれていく事を願いたい。

Blu-ray付属盤、DVD付属盤、CDのみ盤の3形態で発売。Blu-ray及びDVDには、3曲分のPVとメイキングを収録。また、Blu-ray付属盤とDVD付属盤には「ayumi hamasaki LIMITED TA LIVE TOUR at Zepp Tokyo」の映像を更に付属したファンクラブ限定盤もある。

 

 

〔『M(A)DE IN JAPAN』の記事 【前編】 【中編】 【後編】

 

 

tasky

作曲・編曲:tasuku

 

アルバムの幕開けを飾るのは、tasukuさん恒例のインストゥルメンタル。EDMのリズムに、アルバムタイトルにふさわしい和風のサウンドとメロディーが絡み、神秘的なイメージを保ちながら『FLOWER』へと繋がっていく。

 

 

FLOWER

作曲:湯汲哲也

編曲:tasuku

 

part of Me』や『GREEN』などで和の音階の美しさを生み出してきた湯汲哲也さんの楽曲。編曲は前曲に引き続きtasukuさんが手掛けているが、こちらは雅やかな和楽器の音色と、激しく暴れるヘヴィーメタルが組み合わせられている。

主人公が思い出しているのは故郷での記憶……子供時代だろうか?「花咲く頃」を懐かしみ、「手を引いてくれた君の 温もりが残ってる」と語る。美しい思い出を振り返る和風の楽曲と言えば、『theme of a-nation '03』があるが、そちらは懐かしさを抱きつつ未来を見つめる内容だったのに対し、今作は思い出の優しさと直面する現実の厳しさの落差が激しい。「あの頃は楽しみだった」「今思えば幸せだと 思う日も過ごしました」という過去は過去でしかなく、「優しく笑ってた君」はもういないのだ。

サビは激情を湛え、あゆの叫ぶようなヴォーカルが炸裂する。「花になって棘をもって枯れて散って朽ち果てたい」と、歌詞も凄まじい。あゆが「花」を題材にする時、「散る」事に重きを置いているのは既に何度も述べてきた通りだが、この歌では「棘をもって」という攻撃性や、「枯れて散って」の先まで踏み込んだ「朽ち果てたい」という破滅的な発想が目に付く。例えば『vogue』なら、自らの栄華を「咲き誇ろう」「美しく花開いた」「ただ静かに散ってゆく」と儚い優美さで表現していたところを、「拾わないで離れてって 忘れてって」とまで言う。わざわざ忘れられる事を願う心情は、一体何処から生まれてくるものなのか。

更には、「トドメ刺して終わらせて」と自然に任せて散る以上の願望を持ち、「鳥になって」目指したいのは「痛みもない愛もない 向こう側」であると、最早死の影までちらつかせる。「痛み」はともかく「愛」さえも必要とせず、全くの無になりたいという悲痛さ。湯汲さんの楽曲で「花」や「鳥」が出てきた『Moments』のような、他人に向けられた愛情があるわけでもない。幸せな日々を過ごした故郷を去り、温もりをくれた「君」も失い、主人公は辿り着いた世界で何を見たのか。引き返す事すら出来ず、ただ終わりがもたらされる事を願うだけなのだ。

PVでは、あゆが淡い光の部屋でソファーに腰掛けているところから始まる。蝶をあしらったドレスをまとい、さながら自身が花そのものになったかのようだ。優雅で淑やかなイメージはやはりサビに入ると一転、感情が爆発したかのように歌い、2番以降あゆはドレスを引き裂き、髪を滅茶苦茶に切り落とし、半狂乱になる。これだけの取り返しのつかない内容が、ワンカットで撮られている事にも注目したい。

 

 

歌詞リンク:浜崎あゆみ FLOWER 歌詞 - 歌ネット

 

 

Mad World

作曲・編曲:tasuku

 

ロックサウンドの中で、物悲しく心細いピアノが鳴っている。それがかえって、警鐘のようにも聞こえるバラードである。

主人公の「私」は、樹々や風がもし話せたら「何を訴えるだろう」と考える。「無残に切り倒され」た樹々、「原型なく汚染され」た風の描写に、「私」がいかに胸を痛めているかが伝わってくる。環境破壊も議論が巻き起こって久しいが、現在の行動が未来の破滅につながるという事を人類が自覚出来たとは未だ言えない。問題を先送りにする現状を表現した「ツケの神が笑ってる」という歌詞が、この上なく鋭利で秀逸だ。「私」は、「本当を誰に吐けばいい」「本音はどこにやればいい」と、「狂った世界」を憂う気持ちを抱えたまま立ち竦んでいる。

環境破壊を歌う内容は初めてだが、「社会の問題」と広い括りで考えると、決して珍しい題材ではないと気付く。文明が持つ負の側面を見つめた『everywhere nowhere』、「この青い地球」の「全ての悲しみ」について考える『Last Links』、『my name’s WOMEN』などの女性を描いた楽曲から感じられるフェミニズムを振り返れば、社会全体を見渡す目線もまた、あゆ作品の中には存在すると言えるだろう。

また、それは個人的な出来事を掘り下げる事と正反対とは限らない。あゆ作品は個人的な想いや体験から「人は皆~」「誰もが~」と視野が広がっていく事がよくあるし、そもそも社会全体の問題こそ、一人一人が自分事だと思わなければ解決しないものである。この作品でも、「自分ひとり」の行動を軽んじる向きに「知らぬ誰かが 先に立つのを待つの?」と問い掛けている。それは聞き手の「あなた」にも、そして自分自身にも訊いているのだろう。主人公は途方に暮れながらも、このままではいけないという意識は何処かにあり、「あなた」にも当事者である事を突き付けてくる。その姿勢にハッとさせられる。

PVはモノクロで撮られており、ラフな格好で泣きながら歌うあゆが何人もの手で衣装を替えられ、メイクを施される。あゆの足元には黒い液体が迫る。後ろの大きな画面には、そんな悲しげなあゆとは対照的に過去のあゆの華やかな映像が様々に映されていくが、それも最後には……。

 

 

歌詞リンク:浜崎あゆみ Mad World 歌詞 - 歌ネット

 

 

Breakdown

作曲:湯汲哲也

編曲:中野雄太

 

同じ湯汲哲也さん作曲で、発表時期も近い『Sorrows』や『Shape of love』とよく似た曲調のバラードだが、歌われている内容は全く違う。ひたすらに孤独で、空虚な悲しみに満ちている。

「優しく笑っているあなたの目」から「この世には愛など存在しないと聴こえた」という、その出だしからして衝撃的だ。やはり「愛」の実在と尊さを信じようとする『Shape of love』とは正反対である。「優しく笑っている」のにそんなメッセージを受け取っているのも何とも悲しい。見るからに冷淡な表情ではなく、一見愛を感じてもおかしくなさそうな様子から感じ取っている、その背景は一体何だろう?

今作の歌詞にはいくつか過去作品を彷彿とさせる表現がある。「相変わらず小さくて頼りない 背中」は『teddy bear』を、「夢に見た場所に辿り着いた気がした時」に目の当たりにした現実は『count down』の「桃源郷」のくだりを想起させる。しかし何よりも、「あとどの位強がったなら 強いねって言葉聞き流せるの」から感じる『A Song for ××』の気配が強烈だ。あゆ作品を貫く孤独はずっと変わらぬ感性で描かれていると実感すると共に、『A Song for ××』から年月を経ても尚、まだ「強いね」という言葉に傷付いているのかと胸を締め付けられてしまう。

「このまま僕は歩いて行くよ」と主人公は言うが、これも誰かを強く想いながら強く踏み出した『Sorrows』とは違う。愛が存在しない世の中を、過ちが繰り返される道程を、ただ引き返せないが故に進んでいるという悲痛さ。「こわいものなど今はもうないよ ただその事がとてもこわいよ」という結び方が重苦しい。最早こわいとさえ思わないほど、感覚が壊れてしまったのだろうか。終盤はヴォーカルにエフェクトがかかり、アウトロも混沌として、まさに「崩壊」してゆく様子が描かれる。「このまま……」という言葉で途切れる終わり方もインパクトが強い。

 

 

歌詞リンク:浜崎あゆみ Breakdown 歌詞 - 歌ネット

 

 

※『Breakdown』を一か所だけ書き直しています。

リミックス・アルバム『Winter diary ~A7 Classical~』

冬をイメージしたクラシカルアレンジのアルバム。『A ONE』と『sixxxxxx』の収録曲から選曲されている。

今回のクラシカルアレンジは、荘厳なサウンドが特徴だ。いわゆる「Acoustic Version」のような優しく物静かな雰囲気とも、一つ前のクラシカルアルバム『LOVE CLASSICS』のような親しみやすさとも違う。壮大さは『A Classical』のアレンジにもあったが、今作は過去一番ではないかというほど音が重厚である。冬という季節の厳しさを感じたり、はたまた、クリスマスを始めとしたイベントを豪華に彩ったりと、様々な想像が出来そうだ。

ジャケットは、黒をバックにやや上を見つめるあゆの顔のアップ。

 

 

WARNING

編曲:大間々昂

 

「警告」どころか、最早逃れようのない断罪をされているかのような、厳しさと緊迫感。時折響く鐘の音や、駆け下りてくるストリングスなどが特徴で、1曲目から猛吹雪のごとき勢いである。

 

 

Step by step

編曲:門脇大輔

 

音は分厚く重なってはいるが、ストリングスが軽やかに跳ねてリズムを刻んでいる。わくわくと心を浮き立たせながら、「あと一歩」が少しずつ積み重なっていく様子が伝わってくるようだ。

 

 

Sorrows

編曲:石坂慶彦

 

出だしが静かだった原曲と違い、初めから劇的な音とメロディーが展開される。「多くの悲しみ」が折り重なるかのように全体が終始激しい。原曲ではか細く繊細に鳴っていたピアノがこちらでは力強い音で鬼気迫るメロディーを奏でており、ラフマニノフのピアノ協奏曲のような雰囲気がある。

 

 

Last minute

編曲:田渕夏海

 

こちらは元々持っている感情の起伏を生かし、原曲と同じく2番から曲調が激しくなる。砕け散った主人公の心が嵐に巻き上げられて消えてゆくかのよう。1番の後の間奏は原曲のメロディーが拍を長くして用いられている。

 

 

Summer diary

編曲:中村巴奈重

 

夏の一時を彩る歌がオーケストラサウンドにより、リゾートでの優雅なバカンスといった風情を醸し出している。ヴィヴァルディやヘンデルを思わせる上品さも感じられ、分厚い音は荘厳さと言うより、ラグジュアリーな気分を演出する。寒い季節にこそ焦がれる、暑い季節の想い出だろうか。

 

 

Sky high

編曲:やまだ豊

 

空高く、虹の向こう側に未知なる世界を見つけられそうな、壮大さと明るさを併せ持つアレンジ。ティンパニやシンバルなどの音が力強く響くが重々しさはなく、冒険ファンタジーを体感したような気分になる。

 

 

NO FUTURE

編曲:羽深由理

 

ハープシコードやオルガンがバロック音楽のような雰囲気を醸し出して始まり、スリリングなストリングスと不穏なまでに重たいティンパニが鳴り響く。容赦なく責め立てるような曲調が、主人公の余裕のなさと、行き詰まった二人の関係を強く印象付ける。

 

 

Out of control

編曲:田渕夏海

 

原曲にあるどうにもならない感情の激しさが強調されているが、金管の高らかな響きやウィンドチャイムのキラキラした音が、何処か解放感をもたらしている印象もある。いずれ主人公の孤独が報われる事を願う気持ちが湧いてくる。

 

 

The GIFT

編曲:中村巴奈重

 

ピアノが印象的なオリジナルに対し、チェロの低音が心地良い弦楽合奏とハープの音の優しさが手を取り合う、アルバムの中では穏やかで落ち着いたアレンジ。幸せに満ちたウェディングソングに、暖炉のような温もりが加わっている。

 

 

The Show Must Go On

編曲:兼松衆

 

理想のステージを目指して駆け上がっていくような疾走感あるオリジナルと比べ、今まさに威風堂々とステージに踏み出していく趣だ。サビは繰り返すごとに少しずつ印象を変え、強い意志を畳みかける。凜としたヴァイオリンソロが「wow wow yeah yeah」というコーラスと絡み合う場面も耳に残る。

 

 

Winter diary

作曲:小室哲哉

編曲:中野雄太

 

収録曲で唯一、既存作のアレンジではない新曲。とはいえ、クラシカルアレンジのアルバムによく似合う曲調で出来ている。

讃美歌のようなコーラスと、「Silent night, holy night」というクリスマスを讃える言葉。街の喧騒と、クリスマスに心を躍らせる人々が浮かんできそうな、温もりときらめきに満ちた曲調。しかし主人公の「私」は、そんな幸福感の真ん中にいる訳ではない。会える見込みのない相手を待っているのだ。

「私」の想いはひたすらに健気だ。「心のダイアリー」は「今も続いてる ずっと続いてる」と歌っている。現実は「逢えない夜が増えてく」「友達のままで ずっとこのままで いようねって離れたあの日」と、「君」は遠ざかっているのに。本当は「私」も、「もうきっと君は現れない 約束の場所には私ひとりで いるんだろう」と気付いている。今はただ、「これまでの愛しい 2人はダイアリーの中で 永遠になるよ」と、大切な思い出を見つめるしかない。やはり「永遠」は過去にあるもののようだ。「永遠になるよ」という歌詞には、どんな想いが、どのくらい含まれているのか。会えない現実に対する強がり、かつては確かにあった幸せを記憶の中で守り続ける純情……様々な想像が出来る。

何より悲しいのは、この楽曲が『Summer diary』の続編として位置付けられていることである。あんなに一途に可愛らしく願っていた日々は、結局叶わなかったという事なのか。唯一、「言えなかった言葉を今こそ 伝えに行こうか」と、待つだけではない歌詞があるところには、わずかな希望も感じられるのだが……。曲調があくまでも優しく温かいのは、ダイアリーの中の永遠を抱きしめているのか、まだ望みはあると思っているからなのか。

PVは『M(A)DE IN JAPAN』に収録。

 

 

歌詞リンク:浜崎あゆみ Winter diary 歌詞 - 歌ネット

5thミニアルバム『sixxxxxx』

「s」から始まるタイトルの楽曲を6曲集めたミニアルバム。明るい楽曲とシリアスな楽曲が3曲ずつある。

6曲中5曲は湯汲哲也さんからの提供であり、曲調に違いはありつつも全体に統一感のある印象を受ける。一方で、唯一DAISHI DANCEさんが提供した楽曲では豪華なコラボレーションも実現し、ミニバルバムとは思えない濃度の作品となった。

Blu-ray付属盤、DVD付属盤、CDのみ盤の3形態で発売。ジャケット写真は、あゆの顔のアップをモノクロで映しており、それぞれ表情が違う。

 

 

Step by step

6thデジタル・ダウンロードシングル。歌詞については当該記事を参照。

PVでは、あゆを含めた4人の女性達が、しがらみから解放されていく様子を描いている。ラストに明るく開けた視界が眩しい。

 

 

Summer diary

作曲:湯汲哲也

編曲:中野雄太

 

眩しい陽光が織り込まれたような、“夏歌”として王道とも言うべき明るさと爽やかさ。しかし、そこはかとなく儚さも感じるのは気のせいだろうか。それもまた夏という季節の一面かもしれない。

歌詞に使われている言葉もまた、キラキラと輝いている。「よくある“このまま時が止まれば いいのに”って台詞わかる気がした」「この夏に魔法をかけていたいよずっと」「生まれて初めての感情を知って」などなど、面映ゆいほどの描写に胸がキュンとなる事間違いなしだ。「他のどの季節より やっぱり特別で」というところでは、夏歌を数多く歌ってきたあゆの、夏への思い入れも見える。

共に過ごした夏は、「一緒に見た海眩しかったね」と振り返るような思い出に満ちていて、「君」に対しても「いちいち愛しくて胸が苦しくて」という気持ちが溢れている。「心のダイアリーに綴るよ」という可愛らしい表現から、いかにそれらが大切かが伝わってくるのだが、それでもなお、「君」との関係は確約されたものではないらしい。「君の隣に居させて」「叶うならこのままで変わらないで」「もしも許されるのなら」と、言葉を重ねて強く願う様子が描かれているのだ。夏の魔法は続くのだろうか。この先もダイアリーのページが埋まっていくような二人であってほしい。

PVでは、海辺でバカンスを過ごしに来たといった様子のあゆが、そこで出逢った男性と距離を縮めていく。しかし夏が終わりに近付くにつれ、不穏な気配も。さて一年後の二人はどうなるのか。海に足を浸して夕陽に照らされながら歌うあゆのシルエットも素敵である。

 

 

歌詞リンク:浜崎あゆみ Summer diary 歌詞 - 歌ネット

 

 

Sayonara feat.SpeXial

作曲・編曲:DAISHI DANCE

 

台湾のダンス&ボーカルグループであるSpeXialとコラボレーションした1曲。EDMの曲調に合わせて、切なく苦しい想いが歌われる。

歌に描かれた「僕」と「あなた」の関係はとても不安定だ。「僕」は「あなた」の態度に「ずるいよまた守る気のない 約束して期待させて」と悲痛な想いを募らせる。「あなた」が「そんなつもりじゃない」事がかえって罪深く、「僕」は「もう慣れたよ」とまで開き直っているようだ。「いちいち傷付いたり」しないというくらい、もう傷付くのが当たり前になってしまっている。

苦しみばかりが生まれるような状況にもかかわらず、「どうしたら嫌いになれるの」「どうしたら忘れられるの」と、「僕」は「あなた」への想いを断ち切る事が出来ない。そのままならない想いは、「どうしたら どうしたら どうしたら」と繰り返すサビにも表れている。一方で「サヨウナラ サヨウナラ サヨウナラ」とも繰り返されているが、果たしてこれはきっぱりと別れを告げているのだろうか。純粋に「大好きなあなた」を想えた日々に戻れなくなった、という事かも知れないし、これで最後と思いながらも結局はぐずぐずと関係を続けてしまうのかも知れない。「まるで何もなかった様な顔で 明日を始めるんだろう」という歌詞からも、様々な想像が出来そうだ。

そもそも、二人の仲がこれほど拗れている原因は何だろう?不実とも取れる態度の「あなた」について、「僕」は「ほんの少しだけでも 誰かを想って胸を痛めたりするのかな?」と思いを巡らせるが、明確に自分自身ではなく「誰か」とぼかしているところが意味深である。「僕」以外にも目を向けている可能性があるのか。何にせよ、冒頭ではSpeXialのメンバーが、終わりではあゆが囁いている英語のセリフを読み解くと、自分の愚かさを知りつつも未来に期待してしまう、手に負えない心境が見て取れる。

PVでも、あゆとSpeXialが共演している。モノクロの映像で、パフォーマンスをする場面と、あゆがメンバー一人一人と絡む艶っぽい場面、そして壮大な風景とが織り交ぜられ、コラボにふさわしい特別感がある。

 

 

歌詞リンク:浜崎あゆみ Sayonara feat.SpeXial 歌詞 - 歌ネット

 

 

Sorrows

作曲:湯汲哲也

編曲:tasuku

 

出だしから一貫してピアノを繊細に響かせつつも、サビで叩きつけるようにドラムが激しく鳴るヘヴィーメタルの様相を呈していく。叫びのような言葉とヴォーカルが心を震わせる一曲である。

「手を伸ばしてももう遅くて 取り戻せないことに気付いた」「見上げた空はもう誰とも 繋がってなどいない気がした」と、一番では絶望的な孤独感が描かれる。けれどふと、「強く風吹いた時 雨が打ちつけた時」に「僕を諦めずにいた」という、「君」の存在に思い当たる。

「君を想えば負けてなどいられなくて」踏ん張ってきた自分を思い出した主人公に、再起の兆しが見えるのが2番だ。「まだ間に合うなら遅くないなら もう一度愛を信じれるかな」と、諦めないでいてくれた「君」に今からでも想いを届けようとする。1番で「誰とも繋がっていない」と感じたはずの空に「震える手」をかざす場面からは、その切なる胸の内がひしひしと伝わってくるようだ。そして、「君のその綺麗さが僕を生かしてる」と力強く歌われる。「狂った世界」の中でも強く生きて行こうと思えるその動機のありかを、主人公は今や、目を逸らす事なく見つめているのだ。

サビは同じ言葉や言い回しを何度も使う事で、切々とした心情を強調する表現となっている。タイトルは多くの哀しみを示しているけれど、最後に「哀しいほど好き」という言い方をしているのも見事である。

あゆは一体、何を想ってこの歌詞を書いたのだろう?「まだ指さされてるかな まだ許されてないかな そんな僕を見て君は泣いてるかな」というところから、誰かに悪く言われること自体より、そのせいで「君」を哀しませる事に心を痛めているのが分かる。「君」の中に、例えば私達ファンが含まれるとしたら、「ここで夢を紡いでくよ君のために」という歌詞には強く心を打たれるほかはない。

 

 

歌詞リンク:浜崎あゆみ Sorrows 歌詞 - 歌ネット

 

 

Shape of love

作曲:湯汲哲也

編曲:中野雄太

 

前曲に比べると幾分激しさは収まるものの、切なくしんみりとしたメロディーが奏でられる、三拍子のロックバラード。しかしその物悲しい曲調に載せて、「愛」についてが語られる。その意外性がかえって、愛の尊さを際立たせる。

歌詞はかなりシンプルで、しかし「愛」という抽象的なものを語っているが故に、じっくりと追いたくなる内容だ。ヴォーカルもまた、噛み締めるように歌い上げている。「愛ってどんな形でどんな色しているかな」とは、一度は誰もが考えた事があるのではないだろうか。愛を伝えたい時、物や行動で表そうとはするが、愛そのものは誰も見たり触ったりする事は出来ない。それが「複雑」さにつながっている。「見えたり触れたりできるものなら」「もっと楽なのにね」という歌詞にも頷いてしまうだろう。そう、この作品はまず、愛の持つ厳しい側面から描かれているのだ。

しかし、ただ愛ゆえの苦しみを示して終わるわけでもない。「それでもねまた人を愛して 傷ついてって繰り返すよ」とは、言い換えれば、傷ついた後もまた人を愛するという事である。流した涙が「意味を持たせてくれる」事を、主人公は信じているからだ。傷を傷として受け止めながら、それにもまた意味があるとするのは、あゆ作品に何度も登場してきた価値観である。

そして更に踏み込んで、「形や色がないから良いのかな」「きっとだから尊いのかな」とまで歌う。複雑だからこそ、傷つく事もあるからこそ、「愛しているのひと言」が持つ「魔法の力」は計り知れない。例え苦しみがなくならなくても、「何もかもが大丈夫」と思わせてくれるものが愛なのだ。

 

 

歌詞リンク:浜崎あゆみ Shape of love 歌詞 - 歌ネット

 

 

Sky high

作曲:湯汲哲也

編曲:中野雄太

 

アルバムの最後は、『Step by step』に負けず劣らずの明るい楽曲で締める。歌詞の通りどこまでも飛んでいけそうな爽快感と解放感は、『BLUE BIRD』も彷彿とさせる。

旅立ちを前に、「僕」は「君」を励ましている。幸せな夢の後は現実が不安になり、信じる事は失う怖さと隣り合わせだ。けれども「伝えた言葉は全ていつまでも真実のままだよ」と、「僕」は優しく語り掛ける。踏み出す事にいかに勇気がいるかを知っている「僕」もまた、恐れるもののない超人などではない。だからこそ「君」に心から寄り添い、「強さを2人分持って行くから例えば 優しさ2人分持っていてくれたら大丈夫だね」と伝えてくれる。

夏歌の『independent』 には、「僕には君が必要みたいで 君にも僕が必要なら」という歌詞があったが、一人で不安ならば、一人のまま乗り越えようとするのではなく、二人で共に進めばいいのだ。あゆ作品ではよく孤独が歌われるが、それと対になるものなのだろうか、誰かと共にある意味もまた繰り返し歌われている。二人が共にあるのは、一人では乗り越えられないからこそなのではないか?「風より早く空よりも高く 今の僕らに不可能はなくて」と言い切れるのは、一人ではないからだろう。

「目の前を飛ぶ鳥のように 君を連れて羽ばたいて行くから」という歌詞はやはり『BLUE BIRD』を連想させる。「君を連れて羽ばたいて行くんだ」と言ってくれる「僕」の愛情は、必ずや「君」に「虹の向こう側」を見せてくれるはずだ。

 

 

歌詞リンク:浜崎あゆみ Sky high 歌詞 - 歌ネット

6thデジタル・ダウンロードシングル『Step by step』

デジタル・ダウンロードシングル。ハイレゾ配信盤では『July 1st』をカップリングとして収録。“ジャケット写真”は光の中で微笑むあゆのバストアップ。

 

 

Step by step

作曲:湯汲哲也

編曲:中野雄太

 

明るくポップな曲調は、シングルとしては久しぶりかもしれない。行く先を照らす光のようなサウンドにのせた言葉のエールに、背中を押される事間違いなしだ。

「足りないモノならとっくにあるから」という、一見相反しているように見える表現は何度もあゆ作品に登場してきた。『Far away』の「始発駅で 終着駅でもあった」、『I am...』の「本当の嘘最後までつき通して」、『everywhere nowhere』の「何処へだって行け過ぎて 何処へも行けずに」などなど、よく考えれば相反しているのではなくその通りである、と感じる哲学や奥深さがそこにある。今回は2番で同じメロディーに当たっている「無いものいつまで数えてるより 有るものいくつ気付けるかだよ」がその真意ではないだろうか。

そして主人公は「小さな夢ならば叶わないだろう」と、「大きな夢」に向かっている。やはりこれも、小さな夢の方が叶いそうに見えるから不思議な歌詞である。注目すべきは、主人公はひとりで頑張っている訳ではないという事だ。「一緒にいることでほら無限の可能性に」と、多くの力が合わさってこそ成し遂げられる何かを目指している。支え合い、ひとりで足りない部分は補ってくれる誰かがいる、それが「足りないモノならとっくにある」ということのかもしれない。

だから「もう一歩」「あと一歩」と強調するサビは、「たかが一歩」という頼りないものには決して聞こえないのである。『Fly high』では、進めずにいる一歩が長い道になるほど積み重なってしまった、という後悔が歌われたが、今作では道程を作る全ての一歩の重みがポジティヴに描かれたと言えるだろう。「僕ら」が「100歩分以上の意味を持つから」「世界を動かすチカラになる」と信じて踏み出す一歩の先に、大きな夢へと辿り着く道が続いているはずだ。

 

歌詞リンク:浜崎あゆみ Step by step 歌詞 - 歌ネット