黙ってayuを聞け

浜崎あゆみさんの歌 とりわけ歌詞の魅力を語るブログ

5thアルバム『RAINBOW』(前編)

タイトルの「A」の文字はロゴ表記。ジャケットと歌詞カードは空のような青を基調に、虹の色を髪や衣装にあしらったあゆが登場する。曲目に「00:RAINBOW」と記載されているが、このアルバムには収録されていない。初回盤の購入者がサイトにアクセスして新曲『RAINBOW』を聞き、その感想をヒントにあゆが歌詞を付けることになっていた。これは後に『A BALLADS』へ収録される。

このアルバムの最大の特徴は、歌詞に英文を用いた作品があることだろう。これまで英語(それでなくてもアルファベット表記)のタイトルを付け、歌詞は日本語に統一するという手法を貫いてきたあゆが、新境地を見せてくれた。曲調はハードロック寄りだった4thアルバム『I am...』とはまた違い、これまでに発表してきたシンセポップ、ロック、シンフォニックサウンドなど、たくさんの要素を織り交ぜながら、多様な方向性に挑戦している。今までになくコーラスワークが凝っている曲も多い。『RAINBOW』という名にふさわしく、様々な色彩を見せるアルバムとなった。

 

〔『RAINBOW』の記事 【前編】 【中編】 【後編】

 

everlasting dream

作曲・編曲:CMJK

 

短い曲だが歌詞が付けられ、ささやくように歌われる。浮遊感のある、いかにも夢の世界に誘うかのようなファンタジックな雰囲気だ。あゆが「消えない夢」をくれると言うのだから、ありがたく頂戴しよう。

 

 

歌詞リンク:浜崎あゆみ everlasting dream 歌詞 - 歌ネット

 

 

WE WISH

作曲:D・A・I

編曲:HΛL

 

「私」を超えて「私たち」の願いを込めた作品。ソリッドで鋭い音がアグレッシヴに鳴り響くシンセロックである。

願っているだけでは叶わないが、願わなければそもそも始まらない。主人公は「期待かける事と 願いかける事は 似てるようでまるで 違うもの」と断りながらも、「信じる事それが 願いそのものさ」と強く高らかに呼びかける。

「私たちは私たち自身 でいなければ意味がない」。自分以外の何かになろうとしても、結局は表面を繕うだけ。誰にどう見られるかなんて気にするより、大事な人に心を隠さずにいたい。そのためには何よりも、自分が自分でいなくては。

ここで「私」一人に留まらず「私たち」となっているのは、あゆだけでなく、あゆのファンも含めた共同体としての呼びかけなのかもしれない。新しいことを取り入れたこのアルバムは、決してあゆが「別の何か」になろうとした作品集ではない。どんな挑戦をしても、心の内から言葉を紡いで歌うあゆはそこにいる。『RAINBOW』というアルバムのあり方を紹介しながら、そして聞き手の一人ひとりにも揺るぎない自己を持っていてほしいと、願っているように聞こえるのだ。

 

 

歌詞リンク:浜崎あゆみ WE WISH 歌詞 - 歌ネット

 

 

Real me

作曲:D・A・I

編曲:CMJK

 

実際の制作過程はどうであれ、順当にあゆ作品を聴いていくと、英文を歌詞に使った作品としては最初に出会うことになる。曲調は現代的なR&Bで、このところ取り入れていたヘヴィーなロックサウンドとは違う、軽快で洒落たダンサブルなサウンド。「wow...」という妖しげなヴォーカルも魅力的だ。サイボーグが登場するSFのような世界観のPVでも、あゆがダンスを披露している。振り付けはTRFのCHIHARUさんとETSUさんが担当、PVにも参加した。

歌詞は「戦いもせずに 癒し求めるもんじゃない」「そんなにいつでも いいコばかりでいられない」など、かなり尖った表現が目立つ。サビの英文は「a woman never runs away(女は決して逃げない)」や「a woman could be dangerous(女は危険にもなりうる)」など、“女性”に焦点を当てたものとなっており、単に英語を使ったというだけではない新しさがある。どことなく中性的に「僕」と歌い、繊細な描写が多かったあゆが、ここでは強い意志を持つ女性像を描き出しているのだ。

手にしているのは幻想に過ぎないものかもしれない。思いは言葉にしなければ伝わらない。欲望が満たされないうちはいいけれど、失くして初めて気づくこともよくある。『WE WISH』は「私たち自身」と複数形だったが、この『Real me』では「ホントの私」を探っている。「あなたが見ててくれる」と確信する「ホントの私」。その中で“女性”という側面を強調しているのが、この作品におけるあゆの意識だ。

 

 

歌詞リンク:浜崎あゆみ Real me 歌詞 - 歌ネット

 

 

Free & Easy

26thシングル。当該記事を参照。

 

Heartplace

作曲:CREA

編曲:tasuku

 

ヘヴィーにのしかかるロックバラード。ドラマティックなストリングスとサビの分厚いコーラスも迫りくる。この作品でも英文では「We」と複数形を使い、「愛すべき同志達よ」と呼びかけている。タイトルは造語と思われ、「Heart」と「place」の組み合わせだろう。

思春期からいよいよ大人の世界へと足を踏み入れつつある人の心には特に、「歳をとっただけの子供」という歌詞は深く刺さるのではないか。「楽しいワケでもないのに笑える」という自分の変化に、主人公は「僕は変わってしまったのかな」と戸惑う。『WE WISH』や『Real me』で「自分自身」を強く歌っていたのとは対照的だ。人はどんな環境でも何かしら悩むもので、何かから解放されれば、また別の何かと戦うことになる。キズつきながら求めた自由を手にしたら、今度は自由が闘う相手になってしまう。

主人公は最後、すれ違う人の温もりに涙を流し、「君やアイツやあのコ」を思い起こす。この涙の中にないまぜになっている思いを、想像しながら聞き終えたい。

 

 

歌詞リンク:浜崎あゆみ Heartplace 歌詞 - 歌ネット