黙ってayuを聞け

浜崎あゆみさんの歌 とりわけ歌詞の魅力を語るブログ

6thアルバム『MY STORY』(後編)

〔『MY STORY』の記事 【前編】 【中編】 【後編】

 

Kaleidoscope

作曲・編曲:HΛL

 

サラサラと小さなカケラたちが流れるような音と、鏡のようにキラキラした音が重なり合うインストゥルメンタルHΛLさんの透明感ある演出で、次々と表情を変える幻想的な世界が現れる。

ゆっくりめの楽曲が続き、絶望から希望が見えてきたところで、このインストゥルメンタルを挟み、次からはアップテンポの曲が続く。

 

 

INSPIRE

33rd シングル。当該記事を参照。

 

 

HONEY

作曲:湯汲哲也

編曲:HΛL

 

「愛しい人」への気持ちを素直に可愛らしく表現した、明るいポップス。歌い上げるあゆの声も「ハチミツ」のように甘い。

うまく行かないときに、傷つけてしまっているかもしれない人。うまく行っているときには、その人が「一緒に泣いてくれた」ことを思い出す。日常の中で、当たり前のように側にいる人の大切さを、改めて「私」は感じているようだ。「私よりもずっと私の事知ってる」と言えるのは、「誰よりも側にいる」その人が「私」を受け止め、前向きに導いているからだろう。そんな私もまた、「君の事なら君よりずっと知ってる」と言う。二人の親密さが伝わる表現だ。サビの「my HONEY」という呼びかけにも、真っすぐな愛しさが溢れている。

思わず微笑んでしまうような、素敵な「私」と「君」の関係。その甘い甘い日々が続いていくことを願おう。

 

 

歌詞リンク:浜崎あゆみ HONEY 歌詞 - 歌ネット

 

 

Replace

作曲:菊池一仁

編曲:HΛL

 

明るくも切なく、そして清々しい感動に溢れた、ミディアムテンポのポップス。ライブの終盤に相応しいのは言うまでもないが、歌詞の内容と曲調は、卒業などの旅立ちを彩る歌としてもピッタリだ。

「君に届くようにと こうして歌い続けているよ」と、爽やかなサビから始まる。それぞれの道に進もうとする「僕達」。それはずっと想いを馳せていた未来で、いざ目の前にすると「シュール」な感じがしてしまうほど。旅立ちに際して「僕」は、「君」に「諦めないで歩いていてね」と呼びかける。「君が笑っているといい」と願う。

この作品に希望が満ちているのは、「また逢える時」を見通しているからだろう。別々の道を歩んだその先で、笑顔の再会が待っている。決して悲しいだけの別れではない。ライブで歌われる際には、次のライブも楽しみにしていてほしいというあゆの真心が感じられるはずだ。「これからもこの道は続いて行く」と、歩みを止めないことも宣言している。

そして、会えない時間があっても「ひとりじゃない」というメッセージを、「僕」は「君」に伝えるだけでなく、「君」から「誰か」へと伝わっていくことを願っている。自分の道を進む上で、別れもあれば、新たな出会いもあるだろう。再会する頃、見える世界は今よりももっと広がっているはずだ。

 

 

歌詞リンク:浜崎あゆみ Replace 歌詞 - 歌ネット

 

 

winding road

作曲:CREA

編曲:HIKARI

 

ゆったりと静かな感動を揺り起こすバラード。マラソンの終わり、やっとゴールが見えてきたような達成感がある。もっとも歌詞においては、どこかに留まるわけではなく、「これからも胸を張ってこの道を行くさ」という決意表明までつながる内容となった。

過ぎてきた道のりを振り返る「僕」。ずっと走り続けてきたのは「歩き方を忘れた」からで、それを「飛び方忘れた鳥」に例えている。足跡は「いびつで泥だらけ」、しかしそれを悔やむことはなく、「心から誇りに思ってる」と言う。

あゆが置かれた目まぐるしい状況や、その心境が伺える楽曲はこれまでにもあった。しかしこの『winding road』に描かれているのは、『too late』の戸惑いでも、『vogue』の無常観でも、『I am...』や『Naturally』の悲壮感でもない。「誇りに思う」という、この上のない肯定の言葉である。そして「これからもこの道を行く」とまで言い切る。「ねぇ」の呼びかけや、「足跡はさ」「悔やんでなんかないよ」「思ってるんだ」という言葉はやわらかく、親しみやすい。印象としては、はっきり誰かに向かって歌っている『Replace』に比べると、自分自身に語っているとも取れる余地がある。

最後、歩き出せた「僕」は、「飛び方忘れた鳥」のことをもう一度歌う。冒頭で自分を鳥に例え、終わりにその構図を逆転させる表現が見事で、晴れやかな印象を残すだろう。

 

 

歌詞リンク:浜崎あゆみ winding road 歌詞 - 歌ネット

 

 

Humming 7/4

作曲:CREA

編曲:久保田光太郎

 

タイトルの「7/4」は、4分の7拍子になる部分があることを表している。意表をつくリズムに、アルバム一と言ってもいいほどヘヴィーなサウンドを合わせたロックナンバーだが、サビは快活に「everybody GO! everybody JUMP!」と聴衆を煽る。PVでも、ジャングルジムのように入り組んだ舞台の上で、思い切りパフォーマンスをするあゆが見られる。

ポジティヴな空気に包まれた歌ではあるが、一見さっぱりとした歌詞はなかなか意味深だ。「そこから見える景色はどんなか」と尋ねられた主人公の「僕」は、多くを語らない。「説明するだけムダさ」とある種、達観している。「期待された答え」を察しても、それを口にするわけでもない。デビュー間もないときも、スターダムに駆け上がってからも、あゆの歌詞にはその時その時の苦悩や孤独が描かれてきた。あゆはどんな景色を見てきたのか? 「誰にわかってもらえなくたって」「否定しないでよ」にはうっすらと悲哀も漂う。

とは言え、「泣いても笑っても 同じなら笑っとこう」「もっと高く飛べる だって翼がある」と、突き抜けていくようなサビにためらいはない。「鼻歌」のような軽やかささえ感じられる。

アルバムとして、『Replace』で清々しく終わるのも、『winding road』でゆったり終わるのもおかしくないが、実際はこの曲で思い切り弾けて終わる。クールな出だしから、ダークな楽曲を経て希望を見出し、興奮を最高潮にしての終幕。描かれてきた「物語」の完結である。……もちろん、あゆの歌がこれっきり、というわけではない。一つの物語が終われば、また新しい物語が始まるのだ。

 

 

歌詞リンク:浜崎あゆみ Humming 7/4 歌詞 - 歌ネット