黙ってayuを聞け

浜崎あゆみさんの歌 とりわけ歌詞の魅力を語るブログ

16thアルバム『A ONE』(前編)

アルバムタイトルは「エー・ワン」と読む。『A Song for ××』以来で「A」がロゴ表記でないが、これはロゴが登場してからでは初めて。

Colours』のノリのいいEDM路線から一転、噛み締めるような歌詞を載せたバラードを中心にまとめられたアルバムである。前述のロゴの件や、歌詞カードに部屋の中で静かに過ごしているあゆが映されている点など、『A Song for ××』を彷彿とさせる部分が見受けられる。もちろん作曲家陣も違うし、歌詞の内容を見ても年月を経てこそのものであるのだが、それにしても全体からそこはかとなく感じる、よく似た雰囲気は一体何であろうか。こと歌詞の言葉選びにおいては、胸の奥をさらけ出すようなヒリヒリ感、孤独感が『A Song for ××』のように突出している。新しいものを取り入れても、描く題材が増えても、あゆのたった一つの感性は歌詞を描き始めた頃と変わらないのだと実感する。

Blu-ray付属盤、DVD付属盤、CDのみ盤の3形態で発売。Blu-ray及びDVDには、4曲分のPVとメイキングを収録。また、Blu-ray付属盤とDVD付属盤にはファンクラブ限定盤もあり、『Tell All(2015 mix)』を収録、「ayumi hamasaki COUNTDOWN LIVE 2014-2015 A Cirque de Minuit」のBlu-rayまたはDVDとグッズなどをセットにしたものとなっている。ジャケットはBlu-ray付属盤とCDのみ盤がそれぞれ違うあゆの顔のアップ、DVD付属盤が寝そべるあゆのバストアップで、歌詞カードと共通で白いシンプルな肌着を身に着けている。

 

 

〔『A ONE』の記事 【前編】 【中編】 【後編】

 

 

a bell

作曲・編曲:中野雄太

 

インストゥルメンタル。静かなピアノから始まり、やがて一気に視界が開けるような広がりを持って美しく響き、アルバムの始まりを告げる。

 

 

WARNING

作曲:原一博

編曲:tasuku

 

インストゥルメンタルの次には、叩きつけるような激しさで奏でられるエレクトロニックロックに乗せ、切れ味鋭く警告を突き付けるこの作品でボルテージを上げる。

「これやりゃあれがよかった あれやりゃこれがよかった」と、その時々で勝手な要求をしてくる「あなた」に、「アタシ」はうんざりしている。しかもその相手は、「“出会った頃の君を たまには思い出して”」などと、こちらをコントロールしようとするのだ。「アタシ」はその言動を、「はけ口係は ごめんだわ」と唾棄する。「当たり前が増えてって 求めすぎるようになって」しまった「あなた」には、「近付きすぎたわ さよならね」ときっぱり別れを告げるだけだ。

どんなに距離の近い関係であっても、「アタシはアタシだけのものなの」という歌詞の通り、個人には守るべき領域がある。「本当のアタシをあなたは知らない」とあるが、「本当のアタシ」を大切にする気がないから、自分に都合のいい理想像を押し付けるのだろう。「黙ってなんかない お人形さんじゃない」と、「アタシ」はその身勝手さをはねのける。自分らしく生きる故の「変化」を恐れず、変化を許さない者の方こそ切り捨てる。あゆ作品には、この人にだけは分かってほしいとか、理解者は一人でもいればいいというスタンスがよく見えるが、この歌では「分け合う気なんてない 伝えるつもりもない」と、求めない相手には徹底して求めない表裏一体さが強烈に表れている。

あるいは、アーティストとしてのあゆが経験した事も反映されているのだろうか。知らぬ間に出来上がったイメージがまとわりつき、何かすれば「昔の方が良かった」などと言われがちなのがスターである。これは元々意地悪な人達よりも寧ろ、我々のようにファンを自覚する者こそが気を付けるべきかも知れない。熱心になるあまり全てを知った気になり、こっちの理想に合わせろと口出しする事を、あたかも善意かのように錯覚していないだろうか?

PVでは、レザーファッションやボンデージファッションの集団に囲まれながら、あゆが激しく歌いまくる。もみくちゃになりながらのパフォーマンスはかなり強烈で、『Lady Dynamite』のPVのようなギラギラ感を味わえる。

 

 

歌詞リンク:浜崎あゆみ WARNING 歌詞 - 歌ネット

 

 

NO FUTURE

作曲:小室哲哉

編曲:中野雄太

 

最初から最後まで切迫した空気を保ち続ける1曲。泣き叫ぶようなサビが耳に残る。

あゆ作品で道ならぬ恋の歌と言えば、『A Song for ××』の『As if...』がまず思い浮かぶ。深読みすれば『Missing』などもそうかも知れないが、そもそもあゆ作品には「共には生きられない相手を想い続けている」という複雑な状況を、あれこれ具体的にし過ぎず描写しているものが多く、聞き手の想像に委ねられる傾向にある。そんな中で、ぼかしながらも道ならぬ恋だと感じるような生々しい歌詞が、最初のアルバムにあるのは振り返れば衝撃的であった。

それでも『As if...』には「いつの日か きっと 一緒にいられるよね…」と一縷の望みに懸ける純真さがあったが、『NO FUTURE』はいっそ終わらせてくれと懇願する、悲痛な歌である。出だしから「出会うのが遅すぎた だなんて言わないで」「いつだったら出会ってよかったのか」という苦しみを吐き出す。会える日までを数えたり、携帯の音に期待したり、そんな楽しみは結局刹那的なものでしかなく、会えた後には「また明日じゃないまたねって 言葉冷たくて」という現実が待っている。

二人の関係の先に、思い描ける未来などない。分かっているのに、「横顔に落ちていった」自分をどうする事も出来ない。だから「私」は、「あなたから せめて言って欲しい 愛なんて存在しないよと」と望む。終盤の大サビの繰り返しはいよいよ追い詰められていくかのようで、ダメ押しで転調し、答えのない問いを残す。引き裂かれていく心情が痛々しいまでに伝わる言葉選びが、あまりにも巧みなのだ。

 

 

歌詞リンク:浜崎あゆみ NO FUTURE 歌詞 - 歌ネット

 

 

Anything for You

作曲:小室哲哉

編曲:中野雄太

 

優しさと壮大さを併せ持つバラード。歌詞も温かみを持って始まるが、サビではやや悲壮なメロディーに乗せて、意外なほど重みのある決意が述べられている。

「僕」はこれまで「君」と歩んできた道程を思い返している。「涙も隠せないほど」傷付いた事や、「ごめんねの悔しい笑顔」があった事。それでも、「おんなじ場所に今誰かが立っていて おんなじ戸惑いを抱えているんだろう」「痛みはいつでも 時間だけが和らげてくれる」と思える程度には、それらは過去になっている。不安がないわけではなく、「君」がまっすぐすぎて「上手くは立ち回れない」事は予想がつくが、「僕」の眼差しは「その君のままでいい」「無邪気なその笑顔 永遠に失わないでいて」と優しい。

「分け合い支え合う」関係の二人ではあるが、「僕」が「君」に「その手をもう少し伸ばして」と言っているのを見ると、僅かな距離も感じる。「僕」はもう一歩近付いて、手と手を取り合う、より深い絆を求めているのだろうか。「ねぇ僕の持っているものなら全部君にあげる」「大丈夫僕がその君の手を必ず掴むから」と、力強い愛を向ける。「晴れの日は僕が君の風になろう花が香るように」「こわいものなんてないよ 僕が全て先に見ておくから」という歌詞からは、『Moments』にも似た自己犠牲の精神すら見え隠れする。

この歌はあゆ作品としては演奏時間が長く、ゆったりと流れるように続き、最後のサビの連続では二度も転調して音が高くなる。全てを差し出すほどの「僕」の愛が、やわらかい口調のまま徐々に積み重なり、困難があっても「君」と少しずつ前に進んでいく様子が伝わってくるようだ。

 

 

歌詞リンク:浜崎あゆみ Anything for You 歌詞 - 歌ネット

 

 

 

 

今日は浜崎あゆみさんのデビュー日です。

26周年、おめでとうございます🎊🎉

25周年の1年間は、47都道府県ツアーという初の試みの元、最高潮で駆け抜けていきましたね。

26周年も、あゆが満足のゆく1年になるよう、祈っています。

 

さて……以前『A ONE』の記事を楽しみにしているとコメントして下さった「えり」さん、遂に辿り着きました。読んで頂けているでしょうか。

あれから随分時が経ってしまいました。ものすごく長く休んでしまった事もありました。読んでもらえなくてもそれは私の自業自得ですが、もし届いていたなら嬉しいです。