黙ってayuを聞け

浜崎あゆみさんの歌 とりわけ歌詞の魅力を語るブログ

48thシングル『MOON/blossom』、『blossom/MOON』

両A面シングル。50thシングルに向かう第1弾。デビュー曲の『poker face』、『A Song for ××』など、初期のあゆ作品を多く手掛けた星野靖彦さんが、久しぶりに楽曲を提供した。

『MOON/blossom』『blossom/MOON』それぞれのCDのみ盤と、『MOON/blossom』のDVD付属盤の3形態。DVDには『MOON』のPVとメイキングが収録される。CDは曲順と収録されたリミックスに違いがある。ジャケットはコーラルピンクを帯びた優しい色合いの画面に映るあゆで、DVD付属盤はバストアップ、『MOON/blossom』のCDのみ盤は顔のアップ、『blossom/MOON』は片膝を抱えて座る全身。

 

MOON

作曲:星野靖彦

編曲:中野雄太

 

『MOON/blossom』では1曲目に収録。霞む空から次第に月が現れるかのような、幻想的なサウンドのロックバラードに載せて歌われるのは、繊細な愛のやり取りだ。輪郭をはっきりさせすぎず想像の余地を残した言葉たちが、静かな光を湛える優しい月と、満ち欠けで姿を変える不安定な月、どちらも思い起こさせる。

「僕」と「君」の思い出には月がある。月の遠い夜に出会い、届きそうな月は泣き出しそうになりながら見上げ……。そうしてどんな経過を辿ったのか、今の二人の関係はどこか儚げで、ぐらついているようにも思える。「僕」は「君」の心を傷つけたばかりか、その涙を拭う勇気もない。「君」は悲しい瞳をして、震える声で「愛してる?」と聞く。二人とも、つないでいるはずの愛に自信がなさそうだ。

「僕」は「ねぇ優しい歌を君にあげるよ」と言う。その歌の優しさは、一時の慰めにしかならない形のぼやけたものなのか、本当の意味で「君」を安心させ救ってくれるものなのか。「永遠を永遠に信じられるように」という一節については、これまでのあゆ作品で「永遠」という言葉がどう用いられてきたかを考えれば、その頼りなさと切実さが分かるだろう。「誓った祈り」は叶うのか。「君」が笑って「幸せだよ」とまた言えるようになる日はくるのか。月が夜空を照らすように、二人の関係にも希望が差すと良いのだが。

PVは、薄暗い部屋の中であゆが一人歌う姿を映す。豪奢な調度品に囲まれているが、満ち足りた様子はなく、寂しげに見える。小犬とたわむれる場面も時折、思い出のフィルムのように差し挟まれる。途中、真っ白なドレスのあゆが真っ黒に染められていくシーンが衝撃的だ。

 

 

歌詞リンク:浜崎あゆみ MOON 歌詞 - 歌ネット

 

 

blossom

作曲:星野靖彦

編曲:中野雄太

 

blossom/MOON』では1曲目に収録。陽光の下で綻ぶ花が思い浮かぶ作品。ミディアムテンポのロックは何処か切なさを含み、2番の後には荒っぽい起伏も見せるが、全体としては明るさに満ちている。キラリと光るようなピアノの音がアクセント。

「泣いていたよねホントはずっと 心のなかではね」「わかっているよ痛いくらい 変わらず伝わってるよ」と、呼びかけるように、確かめるように綴る言葉はあゆ作品ではおなじみのはずだが、ここまで繰り返し出てくるのは久しぶりのような気もする。こういうところもまた、初期の頃の味わいに近付いたかのようだ。

この歌に登場する二人は、「まだぎこちない手と手を繋いで」いる状態ながらも、同じ方向に向かって歩き始めている。相手が「心のなか」で泣いていたことも、笑っていたことが「精一杯の強がり」だったことも「僕」は分かっている。痛いくらい伝わるその想いを「分け合って行こうって誓った」のだ。「大人になって行く事の意味なんて」という一節は、『fairyland』の「大人になって行く事の意味 なんて分からないままだよ」という歌詞を思い出させるが、この歌では「知らなくたっていい」と結ばれる。『fairyland』で描かれた「大人」とは平たく言えば、未来を憂慮しない無邪気さを失っていくことだった。しかしこの歌の「ただ大丈夫 もう大丈夫 それだけは確かに解ったから」という、具体性に欠けながらも力強い確信は、無邪気さと呼ぶに相応しいのではないだろうか。大人になっても尚忘れない心を表現しているのは『fairyland』も同じだ。

二人が見守ってきた「花びら」とは何を象徴するものだろうか?「blossom」は「花」という意味だが、特に果実の生る木の花を指し、その点で他の単語「bloom」や「flower」とはニュアンスが違う。つまり花が咲いた先には更に果実という次の段階があるのだ。だから「bloom」や「flower」が「今が盛りである」を含意するのに対し、「blossom」は「これから発展してゆく」という方向性を示す。「最後のひとひらまで」見届けようとする「僕ら」が、未来を変える一歩で「歩き始めた」ところなのは、まだ目指す先があるということなのだろう。「花」と言えば儚く散っていたあゆ作品の中としては新しい描写である。

PVは次の49thシングル『crossroad』のDVDに収録されている。

 

 

歌詞リンク:浜崎あゆみ blossom 歌詞 - 歌ネット