黙ってayuを聞け

浜崎あゆみさんの歌 とりわけ歌詞の魅力を語るブログ

47thシングル『You were.../BALLAD』、『BALLAD/You were...』

両A面シングル。『You were.../BALLAD』『BALLAD/You were...』それぞれのDVD付属盤と、『You were.../BALLAD』のCDのみの3形態。CDは曲順と収録されたリミックスに違いがある。DVDには両曲のPVと、『You were.../BALLAD』には『You were...』、『BALLAD/You were...』には『BALLAD』のメイキング映像を収録。ジャケットは白一面の中に白をまとって仰向けになるあゆで、それぞれ少しずつ角度が違う。初回盤にはやはりそれぞれ違うきせかえジャケットも存在し、そちらは背景が青い。

 

You were...

作曲:原一博

編曲:HΛL

 

『You were.../BALLAD』ではこちらが1曲目の収録。しんしんとした雪のように可愛らしい音が鳴り渡る雰囲気は『Days』に似ているが、歌われている内容は全く違う。『Days』では相手を想うだけで温かくなるという小さな幸福感が描かれたのに対し、こちらは温かいのは想い出ばかりで、実際にはひとりの冷たさが身に染みている。

「すれ違う恋人達」を見れば、「君が居ない」冷たさを実感してしまう。恋をしている間は「季節さえ忘れる位」だったのに、今はひとりの身に冬が際立っているのだ。「君が最後のひとだと思った」という一節には、やはり『M』の「これが最後の恋であるように」を思い出さずにはいられない。残念ながらこれは最後にならなかった。

話していた夢や口癖を思い出してしまい、「今誰の隣で笑顔 見せているのかな」という想像も巡る。想い出の温かさすら「襲ってくる」という感覚で、苦しみの終わりは見えない。しかし、忘れられたら楽だと分かっている主人公は、なおも「だけどひとつも忘れたくない」と締めくくる。例え「襲ってくる」ような苦しみがあったとしても、想い出の温かさの中にいた方がまだ良いということだろうか。“夏歌”である『HANABI~episode Ⅱ~』の「忘れたいのに 忘れたくない」という心境にも通じる。恋をして輝いたのも、その人がいてくれたのも過去の話、今ここにあるのは想い出と、「忘れたくない」という気持ちだけ。未練とはこういうものなのだとひしひしと伝える1曲である。

PVは、樹木の形をした切り抜きのようなオブジェが立ち並ぶ中で、一人歌うあゆを映す。白い舞台に白いドレスで立つあゆは、短い芝居を演じているかのようだ。あゆのドレスも、何度も登場するパフォーマーの衣装も電飾のように輝き、ゴールドの光や炎が夜のような背景の中で幻想的に浮かぶ。最初に出てくる指人形も可愛いので注目してほしい。

 

 

歌詞リンク:浜崎あゆみ You were... 歌詞 - 歌ネット

 

 

BALLAD

作曲:D・A・I

編曲:中野雄太

 

『BALLAD/You were...』ではこちらが1曲目の収録。楽曲は『GREEN』のように和風から中華風までをカバーするような音階とサウンドで出来ているが、こちらは大陸に吹き渡る風のように壮大で悠々としている。

歌詞は『You were...』に比べると抽象的で、場面が限定されていないと言える。「あなた」への想いは必ずしも恋愛感情ではないし、「あなた」は側にはいないようだが、そこに至るまでの出来事も具体的には描かれていない。ただ、今は遠いその人に「行かないで」「側にいて」と呼びかける切なさが募って行く。「ballad(バラッド)」とは元々、語り伝えられる物語を歌ったものを示すが、曲調でも歌詞でも、広く誰かに伝わるような普遍性を持つ作品となった。

「夢の途中で目覚めた 睫毛が濡れていた」と歌詞は始まっている。見ていたのは幸せな夢か、悲しい夢か。想いは変わらないが、思い出は増える事はないという。『お願い側にいて』は「許されぬ言葉」。もう会えないということだろうか。それでも強がりには限界があり、「押さえ込まれるだけでは 愛を失くせやしない」と想いが変わらずそこにあり続けることを打ち明けている。

夕焼け空を「あなたのように優しくて」と感じ、月の明かりは「あなたのくれた道しるべ」と受け止める。こうして「あなた」を美しいものの中に見出せるのに、それでも「行かないで」「側にいて」という言葉が出てきてしまう。その願いは叶わないのに……。

PVは、一人の男性が延々と手紙を出し続ける不思議なストーリー。どうやら男性はあゆの大切な人だったようだが……。この世ならざる神秘的な湖のほとりでは、ピンクの衣装に身を包んだ天女のようなあゆが麗しく映える。

 

 

歌詞リンク:浜崎あゆみ BALLAD 歌詞 - 歌ネット

 

 

RED LINE ~for TA~

作曲:湯汲哲也

編曲:中野雄太

 

カップリングとして収録されたこの時点では歌詞カードに歌詞が載っておらず、後に『Rock’n’Roll Circus』収録時に掲載された。「red line」には「譲れない一線」のような意味があり、「TA」は言うまでもなく「チームあゆ」のこと。

あゆがファンに向けて呼びかける意味のある歌ではいつも、繋がっていこう、結び合っていこうという連帯感が示される。この歌も例に漏れずそうだが、ここでは特に、一日一日を丁寧に生きてゆくことについて考えさせられる。

「幻じゃない」奇跡に出会う瞬間があったとしても、人は日常に流されてゆく。もちろん日常とは、「絶望を感じ」たり、「壁にぶちあたった」りすることがごく当たり前に起こるものであり、滅多に出会えないからこそ奇跡は奇跡なのだろう。けれど、「どこかの誰かが諦めたくなかった明日」が自分の今日だと思えば、例え絶望を抱えていても、「また陽が昇」り今日を迎えられたこと自体、貴重なのではないか。

ここで、とはいえ「どこかの誰か」のことなんて想像できないし、できたところで自分が踏ん張るための力は湧いてこない……と思ったとしても、メッセージの続きを聴いてみよう。「その手を 僕が強く強く握っている」。大丈夫、あゆは側にいてくれるから。

きらびやかなステージを確かに楽しんでいても、終わってしまうとまるで夢だったように感じる。けれどあゆは確かに存在していて、素晴らしい歌を歌い、「どんなに遠くても繋がっている」と示してくれたのだ。『Replace』にも「また逢える時まで 諦めないで歩いていてね」という歌詞があったが、あゆが次のステージに向かって日々を積み重ねてゆく間、我々ファンも一歩ずつ大事に生きてゆきたい。