黙ってayuを聞け

浜崎あゆみさんの歌 とりわけ歌詞の魅力を語るブログ

4thミニアルバム『again』

デビュー15周年記念の5ヵ月連続リリース第2弾。

新曲4曲とリミックスで構成されたミニアルバム。アップテンポなポップスに感動的なバラードと、やはり様々な系統の作品が並ぶが、『LOVE』と合わせて新曲7曲でありながら前作『LOVE』とは違う曲調であることに、あゆ作品の多彩さを実感する。

DVD付属盤、CDのみ盤の2形態でリリース。ジャケットは男性と寄り添うあゆで、DVD付属盤は視線をこちらに向け、CDのみ盤は男性と顔を寄せている。光に包まれて色が淡く映っているのが特徴だ。

 

 

Wake me up

作曲:Hiten Bharadia、Philippe-Marc、Anquetil、Bardue Haberg

編曲:tasuku

 

デジタルサウンドがクールに響き、不穏な空気を醸し出すEDM。

「渇ききった喉」「昨日のままでもっとくずれた ヘアとメイク」と、やさぐれた描写で始まる。例えば『Party Queen』の初めの3曲のように飲み明かした次の朝だろうか、あるいは同じく『Party Queen』収録の『reminds me』のように、疲労困憊で帰って来てすぐ寝てしまったのだろうか。いずれにしても、「冴えた冷めた頭でパズルを 完成させちゃったところよ」と、主人公の「アタシ」の自分を客観視したややシニカルな言い方は、突き放した印象だ。夢見る余地のない現実がそこにはある。

冷静な「アタシ」は、「あの子やあいつ」が好き勝手言うことに「いちいち的を 得てるから反論できないわ」と思っている。あゆ作品では「結局指さされるなら あるがままに(『alterna』)」「はさむなら口でも何でもご自由に(『1 LOVE』)」などなど、周りに流されず自分の道を歩もう、というスタンスが多く繰り返されてきた。しかしここでは、「好き勝手」の中身が正論だとは認めていて、「I gotta let you go(あなたを解放しなくちゃ)」「もうそっとしておいてよ」という歌詞からは、自分を貫く強さより、ある種の諦観の方が色濃く見える。それだけに、直に問い掛ける囁きのような「(あなたもよ)」にはゾクりとしてしまう。

サビの「砂の城」という歌詞に、『(miss)understood』DVD付属盤の初回特典写真集にあった同じ言葉を思い出す人もいるだろう。ただ、写真集では「“浜崎あゆみ”は壊れやすいが、やって来る波に備えているから壊れない」という主旨で語られた。対して今作の歌詞は、「何でもあって何にもない」「誰でも入れて誰も入れない」……立派に見えても所詮は脆い砂、と言いたげだ。ところでサビでは「wake up(目覚めて)」「get up(起きて)」としきりに繰り返すが、タイトルはよく見ると「Wake me up」、「アタシを目覚めさせて」である。相手が砂の城の真実に目覚め、離れて行った時が、自分の目覚めでもあるという事だろうか。「泣いてなんかない」という言葉が切ない。

PVは、あゆが二人の男性と共に旅行に出掛けるストーリー。あゆは片方の男性と付き合っていたようだが、旅行中にもう一人の男性と接近。ラストシーンではあゆの腕に注目してほしい。

 

 

歌詞リンク:浜崎あゆみ Wake me up 歌詞 - 歌ネット

 

 

Sweet scar

作曲:D・A・I

編曲:中野雄太

 

美しく流れるピアノを中心とした物静かで感傷的なサウンドが、優しさを奏でるバラード。音も言葉もシンプルながら、健気で深い愛を示す。

「眩しいあの季節」を通り過ぎ、「冷たい風が距離を近付けるね」と感じる日々を、「僕」と「君」はそっと寄り添うように生きる。「おはようって毎日言える」二人だが、「おやすみはもう悲しくないね」「繋いでた2人の手が 離れて行くのを感じたとき」という歌詞から察するに、共に暮らしてはいないらしい。「たくさんの夜を乗り越えたね」「今だって何とかなんだけどね」と、詳しい事情は分からないものの、「僕」も「君」も何か困難を抱え、その苦痛は消し去れなくても、時間を掛けて少しずつ笑顔を増やしてきたと伝わってくる。

あゆ作品における「傷」は、「きのう癒された傷が 今日開きだしたとしても(『Trauma』)」「誰も皆言えぬ傷を連れた 旅人なんだろう(『Voyage』)」「癒されぬ傷口は 時々開きながらも やがてまた閉じる(『Beautiful Fighters』)」のように、多くは「癒えないもの」として出てくる。そして、傷が癒えなくても前を向いて生きていくことは出来るし、大切な人となら痛みも分け合える、と描かれることも多い。この作品の主人公は冒頭から、「柔らかく力強く 君を包める僕になりたい」と決意を繰り返し、「君」が微笑むまで「大丈夫」と伝えたい、と語る。「~ね」という口調を重ね、「君」に対する愛情のまさに「柔らかさと力強さ」を、この上なく優しい形で表現している。互いの他には頼るもののなさそうな二人が、傷さえも共有している姿が、「Sweet scar」というタイトルに表れているのだろう。

PVでは、あゆがベッドに腰かけているところから、優しい光に満ちた部屋で時を過ごし、やがて庭に出て行くまでが全てワンカットで撮られている。歌詞を口ずさみながら、時折こちらに目を合わせるように投げかける表情にドキリとさせられる。海の描かれた大きな絵の前に来るシーンが特に印象的。

 

 

歌詞リンク:浜崎あゆみ Sweet scar 歌詞 - 歌ネット

 

 

snowy kiss

作曲:小室哲哉

編曲:tasuku

 

緊迫感あるリズムを刻むデジタルサウンドの楽曲で、どうにもならない混沌を描くようにストリングスが鳴り響く。湛えた激しさは、夏のごとき情熱ではなく、冬の凍てつく嵐を表す。

太陽が沈んで行くのを、「どうか今はまだ夜の闇に 置き去りにしないでいて欲しいと 祈るほどに加速度を増した」と表現し、冬の日の短さを見事に心情に重ねている。後にある「月明りが綺麗すぎるから 2人の傷が透けちゃって怖い」「太陽がまた2人を照らすよ まるで何もなかったようだね」という描写を見ると、昼だろうと夜だろうと、最早2人の愛を刻む時はないらしい。「次の迷える誰か」や「あの子」に思いやりが見えるのは、自分達の関係に期待が出来なくなったからこそだろうか。

「背中が泣いていた」はずのあなたが、振り向くときには「笑顔という仮面」をつけている。大切な人とは良い事も悪い事も分かち合いたい、とあゆ作品で何度も歌われてきたことを思えば、「私」が「あなた」の態度をいかに辛く感じるかが分かるだろう。「優しい嘘だなんていらないから せめて嘘なら本当の嘘ついてみせて」という懇願が切実で苦しい。

「気持ち伝え続けていく事」を「苦手だって出来ないままにした」という描写は、『Why...』の「『逢いたいよ』とか『淋しいよ』とか どうしてももっと伝えなかったんだろう」という歌詞にも通じるものがある。通じ合うためには、伝えるべきことを伝えるしかないのだ。結局「私」は、別れの言葉すらも伝えずに「眠っているうちに頬にキス」をして、雪が足跡を消す中一人去っていく。

PVでは、あゆと恋人の男性がケンカを続けている。お互いに手が出ている様子は相当深刻だ。『Wake me up』『You & Me』とは一連の物語であるらしく、『Wake me up』の舞台となった部屋や、『You & Me』の二人で海に飛び込むシーンなどが登場する。特に海に飛び込むシーンの対比は二人の関係の変化を明確に表現している。せっかく始まった新しい恋も、夏から冬にかけて短い間に終わってしまったようだ。

 

 

歌詞リンク:浜崎あゆみ snowy kiss 歌詞 - 歌ネット

 

 

Ivy

作曲:小室哲哉

編曲:中野雄太

 

Dearest』を彷彿とさせるようなロックバラードに乗せて歌われるのは、この上ない人生賛歌。タイトルはキヅタの事で、「不滅」「誠実」などの花言葉を持つ。新曲の中では唯一PVがないので、これまでのあゆの歩みを思い出し、胸の内の葛藤を想像しながら聞こう。

「色んな事がありました」で始まり、「色んな~ました」という形で淡々と、しかし噛み締めるような畳み掛けが、聞き手の心にじわりと浸透する。美しい出来事ばかりではない。「色んな罪を犯しました」「色んな人を傷つけました」と、過ちを赤裸々に告白する。「そうして今ここにいる」主人公の「僕」は、過去に頷き手を振った後、「君のいる未来だけを真っ直ぐ見つめてる」と言い切る。消えない過ちを抱えた上で未来へ向かう覚悟がそこにあるのだ。

「まだまだ嫌われていますか」「まだまだ誤解されていますか」という質問には、スターの孤独も漂う。これは『Wake me up』の諦念とも違うだろう。逐一説明する代わりに「私の事を全員が分かってくれなくても構わない」と歌ういつものあゆの態度ではなく、嫌われたり誤解されたりする悲しみが垣間見える事に、はっと虚を衝かれる。故に「君だけは解っていて」が、他の作品の同様の歌詞とは違って聞こえるかもしれない。「懐かしいあの子」とは、過去の自分自身か、自分と似た立場の人か。あるいは、自分を嫌ったり誤解したりして離れて行った人だろうか。いずれにせよ、主人公は「精一杯のエール」を送っている。

「あぁ自分自身さえ幸せに出来ずに 一体誰を幸せに出来ると言うのか」という歌詞には、過ちを犯した自分でも幸せになろうとして良いのだという、深い肯定が現れている。過ちから目を逸らすわけではない。過ちがあっても尚、人生は続くのだ。人を傷つけた事を悔やみ、これからは人を幸せにしたいと思えばこそ、自分をまず幸せにするのである。『Dearest』の「いつか永遠の 眠りにつく日まで どうかその笑顔が 絶え間なくある様に」は純粋な願いだが、今作の「長いとは言えない人生の中で どれだけ心の底から笑えたかどうかだよ」は、決して笑顔ばかりではない現実の中で、それでも笑っていようとする意志だろう。「最後は君の笑顔が見たいから」、主人公はこれからもこの道を行く。

 

 

歌詞リンク:浜崎あゆみ Ivy 歌詞 - 歌ネット

 

 

 

 

浜崎あゆみさん、お誕生日おめでとうございます!!

これからもどうか元気で、無理はせず、素敵な歌を歌って下さい♪

 

 

そしてお読み下さっている皆さん、『LOVE』の記事を上げるまでとんでもなく間が空いてしまい、申し訳ありませんでした。

「投稿頻度を上げなければ」と言いながら、寧ろ下がっている気がしますね……。

今回に関しては、常日頃の忙しさに加え、実を言うとある種のスランプに陥っていた事も原因です。

書きたい事はたくさんあったはずなのに、何を書いたらいいのか分からなくなってしまい、少し書いては休み、消したり書いたりを繰り返したりしているうちに、いつの間にか時間が経ってしまっていたのでした。

ただでさえ投稿の頻度が低い中、「今スランプです」という記事を上げたところで、新着記事だと思って訪れてくれた方をがっかりさせるだけですし、何より作家を生業としている訳でもないのに「スランプ」などと口にするのも恥ずかしく……投稿できなかったお詫びは投稿でしか返せないと、『LOVE』を上げるまでは沈黙したままでいました。

私が何も書けない間にも、あゆは新曲を発表し続けていましたね。やはりプロはすごいです。

恐らくスランプは脱したと思うので、皆さんの期待に応えられるように頑張ります。