黙ってayuを聞け

浜崎あゆみさんの歌 とりわけ歌詞の魅力を語るブログ

再考:『LOVEppears』(後編)

参照:2ndアルバム『LOVEppears』(後編)、及び各シングル(リンクは各タイトルから)

 

 

WHATEVER

全体としてノリの良い曲調で、特にVersion Mの方は早いテンポと突き刺すようなサウンドが特徴的だが、描かれる主人公の姿は心が痛むほど健気だ。「長かったよ もう少しで 凍えそうで目を閉じてた」と、長く耐えてきた日々を振り返る。気持ちを届けられる保障がなくても「揺るぎなく信じる力がここにはある」と言い切り、「平気になったら 笑えばいい」と自らを奮い立たせる。「凍えそう」な状態から「温かい日陽し浴びれる」という期待は、厳しい冬の中で春を待ち侘びるかのよう。「日陽し」を浴びながら、二人の絆が温かく結ばれることを祈りたい。

 

 

appears

「appear」という単語には、「現れる」「姿を見せる」という意味と、「……のように見える」という意味がある。後者で使う場合、「実際のところ、見えている通りであるとは限らない」というニュアンスが含まれる。日本語を母語とするあゆが多くの作品で英語のタイトルを付けていることで、聞き手には含みを類推する余地が生まれるが、『appears』というタイトルには唸るしかない。幸せそうな恋人達はうまくいっている「ように見える」。しかしよく目を凝らせば、決して綺麗事ではないふたりの真実が「現れる」。鋭く現実を突き付けてくる歌詞をこの上なく表した一言なのだ。

PVでは、様々に姿を変えながら街を歩くあゆが登場する。どんな姿をしてもあゆはあゆだ、と言いたいところだが、果たしてあゆは「真実(ホントウ)」をどれほど見せているのか?

 

 

LOVE ~Destiny ~

LOVE ~refrain~

~Destiny~』では、「ただ出会えたこと」「ただ愛したこと」を「忘れない」と心に決め、『~refrain~』では「ありがとう」とまで言う。破局は悲しいことだが、「あなた」を誇りに思う気持ちが自然と生まれる状況で別れを受け入れたのだろう。

そして『~Destiny~』で新たな自分に気付いた更にその先、『~refrain~』では誰もが「悲しく美しい孤独」を描いたり、「何かを犠牲にしては 新しい何かを手に入れてきた」りしたのではないか、と普遍的に考える。永遠なんてなくても、上手くはいかなくても、恋はこうして何かを残していく。

~Destiny~』のPVでは、スターとしての生活の合間に、独りで思いに耽るあゆを映す。世間から見えないところでどんな想いを抱き、どんな経験をして、それを作品へと昇華するのだろうか。シングルで初めてチャート1位を獲得したことを考えると、これまでのPVが断片的に映っているのは素晴らしい演出である。

 

 

Who...

特に印象深いのは、「ふたり離れて過ごした夜」や「ひとりつぶやいていたよ」という歌詞ではないだろうか。辛い時にそばにいたり、本当の強さを教えてくれたりと、たくさんの場面での「誰か」を思い出しているのに、「ひとり」という対比がある。もしかしたら「ふたり」は離れたきりで、もう一緒ではないのかもしれない。それでも、様々な瞬間のその人を思い出しながら、「あなたに届く様にと」歌う。そして「あなた」への想いがそのまま、アーティストとして聞き手に歌を届ける姿勢に重なる。だからファンは、この歌を愛さずにいられないのだ。