黙ってayuを聞け

浜崎あゆみさんの歌 とりわけ歌詞の魅力を語るブログ

9thアルバム『GUILTY』(後編)

〔『GUILTY』の記事 【前編】 【中編】 【後編】

 

The Judgement Day

作曲・編曲:CMJK

 

インストゥルメンタル。オルガンの音と荘厳な鐘の低い音が重々しい空気を醸し出し、あゆの「ラララ……」というヴォーカルが緊張感を伴って現れる。運命の時を前に鼓動が早まるかのようにテンポが上がるが、その後一気に解放されたような曲調となる。審判の日、罪人にどんな裁きが下ったのか想像してみよう。この辺りから、暗鬱だったアルバムに光が差す。

 

 

glitter

41stシングル。当該記事を参照。

 

 

MY ALL

作曲:湯汲哲也

編曲:HΛL

 

ファンの胸を熱くさせる歌がまた一つ誕生した。ライブの終盤を飾る楽曲として定着していく今作は、真っすぐ胸へと入り込む王道ポップスと言うべきメロディーに、あゆの想い溢れる歌詞が載せられている。

主人公の「僕」は、「どれ位の時間」「どれ位の距離」を「あなた」と共に来たのか、と振り返る。楽しいことばかりではなかったし、つらい夜もあった。けれど悔やんではいない。「完璧じゃなくともキラキラした 結晶」とその日々を誇る。「いつでも ひとりじゃなかったから」と。アルバムの中での過去の見つめ方としては、『GUILTY』で逃れられないという恐れを抱き、『Marionette』ではそれでも進んできたと奮い立ち、そしてこの歌で誇りに思う境地に辿り着いたとも言える。

一番のサビでは「あなたに夢を見せたい」「あなたを守って行きたい」と「僕」の抱く想いを、二番では「あなたの笑顔が見える」「あなたの愛を感じる」と「あなた」から受け取ったものを歌い上げている。いずれも「僕」の「あなた」に対する感謝と愛おしさで満ちた表現だ。「あなた」とは、愛する人や、支えてくれる人々かもしれないし、ライブの盛り上がる場面で歌うとあれば、聞き手一人一人の事だと受け取って良いだろう。特に「あなたに夢を見せたい」や「その笑顔が見たくて 今日も僕は生きてます」などの歌詞は、ファンの涙腺を緩ませるに違いない。

MY STORY』収録の、同じくファンに呼びかけていると取れる楽曲『Replace』のように、新たな道へと旅立つ場面もイメージできそうだ。

 

 

歌詞リンク:浜崎あゆみ MY ALL 歌詞 - 歌ネット

 

 

 

reBiRTH

作曲・編曲:HΛL

 

インストゥルメンタル。透明な光が満ちてゆくような、解放感のあるゆったりとした楽曲。審判を経た罪人が、「生まれ変わる」機会を得たのだろうか。

 

 

untiltled ~for her~

作曲:多胡邦夫

編曲:小林信吾

 

歌詞カードの最後には、英語で「このアルバムを大切な人に捧げる」という旨のメッセージが書かれている。この歌はその想いを込めた1曲であろう。

まさに天国から聞こえてくるような、優しく穏やかな楽曲に載せ、「私」は「君」との思い出を語る。「些細な事に泣いたり笑ったり」したこと、「くだらない喧嘩」もしたこと……。そんな「君」は、「あの雲を越えて空へと続く 果てなき道のり」を一人で行ってしまった。叶うならもう一度会いたい。話したい事がたくさんある。主人公の願いは落ち着いた口調ながら、切々と胸の張り裂けそうな心境が伝わってくる。

「君」の死を示す「あの雲を越えて~」という表現からは、悲愴なイメージよりも、遥かな道を行く清らかで悠々とした景色が思い浮かぶ。それは「私」が「君」にそうあってほしいという気持ちの表れだろう。なぜならその道は「いつかは誰もが辿る」のであり、いずれ自分にもその時が来たら「君」と再会したいと願うからだ。自分にもいつか死が訪れるという自覚と、きっとまた逢えるという希望、これは今までの死別がテーマの作品にはなかった視点である。色褪せない日々を抱え、主人公は空の向こうの「君」を想い続ける。

自らの内面と深く向き合う『GUILTY』というアルバムは、こうして最後に誰かの想いを湧き起こすようにして幕を閉じるのだ。

 

 

歌詞リンク:浜崎あゆみ untitled~for her~ 歌詞 - 歌ネット

 

 

 

 

『GUILTY』前編の記事に、初回盤付属のフォトブックについて書き加えました。

 

9thアルバム『GUILTY』(中編)

〔『GUILTY』の記事 【前編】 【中編】 【後編】

 

GUILTY

作曲:湯汲哲也

編曲:CMJK

 

アルバムタイトルを冠したのは、不安と焦燥を煽るようなメロディーの、ミディアムテンポのロック。ずんとした重さと、鳴り響く鐘の音が罪悪感を際立たせる。

「いくら逃げても 逃れられない どこまで過去は 追いかけてくる」と、竦み上がるような告白から始まる。主人公の「あたし」は、その過去を「君」にまだ言えない。「君」が何もかも解った上で微笑んでいることを察していながら……。「聞かないで」「言わないで」という懇願、「もう少し あと少し」と縋るかのような必死さ。言葉の一つ一つにのしかかるような苦しさがある。

「過去」とは罪のことだろうか? 犯した罪はその人そのものであるかのように、いつまでもついて回るものである。もちろんこの“罪”なるものが、法律上の罪とは限らない。あるいは、「君」に「過去」を言わないことそれ自体も、「あたし」にとっては罪悪感の元なのかもしれない。

もし「あたし」が「君」に「過去」を打ち明けたとしたら、「君」はどんな反応をするのだろう? もう解ってはいるらしいその「過去」を受け止められるのか、許せるのか。曲調も歌詞も、暗鬱な引っ掛かりを残していく。

 

 

歌詞リンク:浜崎あゆみ GUILTY 歌詞 - 歌ネット

 

 

fated

41stシングル。当該記事を参照。

 

 

Together When...

1stデジタル・ダウンロードシングル。当該記事を参照。

 

 

Marionette -prelude-

作曲・編曲:中野雄太

 

タイトルの通り、次の『Marionette』につながるインストゥルメンタル。オルゴールのような音や、ねじを巻く音、鐘時計の音が入り混じり、可愛らしくも何処か不安を煽る、ちょっと怖い童話のような雰囲気である。

 

 

Marionette

作曲・編曲:原一博

 

先ほどまでのインストゥルメンタルが織り成した空気に、更にドラマ性を加えたような、童話的なメロディーと力強いロックが入り混じる作品。三拍子のリズムを刻む。

美しく見えてしまう想い出、けれど「僕達」は「それだけではない」と本当は知っている。通り過ぎたからこそ振り返られる「過去」というものへの冷静な視点が伺える。「立ち止まってはまた進んだ」主人公達は、実際には美しいばかりではなかった過去を見つめながら、それでも引きずられまいと、どれほどの苦悩を重ねたのだろうか。これはアルバムタイトル曲『GUILTY』において逃れられない過去を恐れ、逡巡している様子とは、全く逆の姿勢と言えるかもしれない。

サビではゆっくりと噛み締めるように、そして力強く、「死んだような 顔を隠して生きる為 生まれて来た訳じゃない」と歌われる。自分を人形のごとく操ろうとする存在を断ち切ろうと、奮い立つかのようだ。生きる目的を自分で模索する、強い決意が表れた作品である。

PVでは、影が落ちた部屋の中であゆがうたた寝をしており、オルゴールの上のマリオネットとしてもうひとりのあゆとダンサーの男性達が踊っている。時折テレビの画面にまた別のあゆの幻影も映る。歌の内容の通り、マリオネットが徐々にその意思を露わにしていくストーリーだ。

 

 

歌詞リンク:浜崎あゆみ Marionette 歌詞 - 歌ネット

9thアルバム『GUILTY』(前編)

ヒョウ柄をあしらっているということで、3rdアルバム『Duty』以来の“ヒョウあゆ”である。ただ、『Duty』が一貫してヒョウそのものに扮したあゆだったのに対し、今回のあゆはジャケットでヒョウ柄のドレスをまとっており、歌詞カードではそれ以外にも多彩な衣装で登場している。CDのみ盤のジャケットは全身、DVD付属盤はバストアップで、長いトゲのついたネイルが目を引く。DVDには、シングル含む5曲分のPV及び『glitter/fated』のショートフィルムとそれぞれのメイキングを収録。CDのみ盤とDVD付属盤のどちらにも、初回限定でフォトブックが付く(内容は同じである)。

全体的な雰囲気は、やはり『Duty』のように色濃い影をまとい、あゆ独特の自省的でダークな作品が並ぶ。「義務」もなかなか厳しい言葉だが、「有罪」は更に重苦しい。一体あゆにどんな罪があったと言うのか? どんな罰が待っていたのか? 許しは与えられるのか? その答えを見届けよう。

 

〔『GUILTY』の記事 【前編】 【中編】 【後編】

 

Mirror

作曲・編曲:中野雄太

 

緊迫したリズムを刻むロック。ワンコーラス分の長さの楽曲だが、目まぐるしい展開の数々が心を掴んで離さない。「始まりなのかって? 終焉なのかって?」といった、相反するものを並べる鋭い問いかけの数々は「君」と「僕」に向けられているが、「鏡」というタイトルから察するに、やはりこれも自問自答だろうか。

後に43rdシングル『Mirrorcle World』としてフルコーラス版へと生まれ変わる。

 

 

歌詞リンク:浜崎あゆみ Mirror 歌詞 - 歌ネット

 

 

(don’t)Leave me alone

作曲:湯汲哲也

編曲:HΛL

 

LOVEppears』であったり『(miss)understood』であったりと、二律背反から微細な心情をすくい取るあゆの感性が、この作品でも光っている。「ひとりでいさせて」もしくは「ひとりにしないで」。攻撃的なロックナンバーでありながら、奥底の心情を丁寧に読み取りたくなる。

「いい人ぶりたいんなら 他でやったら?」「哀れんだ眼差しに 吐き気がするわ」と、主人公は「あなた」を手厳しくなじっている。あゆ作品の歌詞で、ここまでキツい言い方で相手を批判しているのも珍しい。だが、ただ責め立てるだけの歌かと思いきや、「受け止めたりしないで だってその手は冷たい」「優しくなんてしないで」というサビ、2番の「笑ってない笑顔が 一番こたえるの」という部分に、主人公の弱みが見え隠れする。表面的には、「あなた」は優しく笑みを湛えているような人物であり、こんなふうに責められるべきではないように見える。「いい人ぶる」どころか、ある意味では本当にいい人なのかもしれない。しかし主人公にとっては、そんな「あなた」の態度こそがつらいものなのである。

最後の一行は、これまでの全てを覆すかのような強烈な印象だが、その実主人公の言いたいことは一貫しているのだ。本当は「あなた」に、自分をひとりにさせない存在であってほしい。だからこそ、ただ優しさを与えられるくらいなら「いっそ罵ってよ」「いっそ突き放して」、そして「ひとりでいさせて」と願ってしまう。散々並べたキツい言葉が、かえって主人公の繊細な本音を浮き彫りにする、その構造が鮮やかだ。

PVでは、迷路のような道をあゆが歩いていくうちに、女性ダンサー達と出会っていく。あゆが締めているネクタイの色に注目してほしい。

 

 

歌詞リンク:浜崎あゆみ (don't)Leave me alone 歌詞 - 歌ネット

 

 

talkin’ 2 myself

42ndシングル。当該記事を参照。

 

 

decision

42ndシングルのカップリング。当該記事を参照。

1stデジタル・ダウンロードシングル『Together When...』

Together When...

作曲:多胡邦夫

編曲:CMJK

 

初めてデジタルダウンロードのみでリリースした楽曲。愛する人との離別を歌った哀しく美しいバラードは、ピアノがしんしんと鳴り響き、冬を切ない色で染める。“ジャケット写真”は白い衣装のあゆ。9thアルバム『GUILTY』の歌詞カードにも同じ衣装で登場しており、倒れ込んでいるのはいるのはドレス部分と思われる。

「背を向けたまま振り返らずに」歩き出したふたり。「変わらないひとつのものを 見つけたと信じていた」はずだったのに……。「僕」はそうしてひとり、新しい道を選ぶ。吹き抜ける風に「君」のような優しさを感じたとき、「僕」は何を思ったのだろうか? その優しさに背を押されたかもしれないし、優しい「君」がいなくとも進むしかない悲しみを噛み締めたかもしれない。

サビの歌詞には、「僕」が言いたくても言えなかった言葉が二つ登場する。「ありがとう」と「愛してる」。「ありがとう」は、「永遠のサヨナラ」のようで言えなかった。一方「愛してる」を言えなかったことは、「最大の嘘であり真実だった様な気がする」と振り返る。愛しているはずなのに離れてしまう、そのどうしようもない哀切が、一見相反するこの表現に溢れているのだ。

「僕」は、いずれまた「僕」に生まれ変わって「君」を探す、と言う。この未練の残し方が印象的だ。つまりは、現世で再び結び合うことは諦めているのである。しかも、「君を探」したとして、そのときこそ愛を貫けるのか、そもそも現世と同じく「君」に出会い、想いが通じ合うのか、そこまでは断言できない。歌の最後には「もしも別の誰かに生まれ変わっても」とまで言っているが、その強い想いとは裏腹に、「君を探す旅」の行く末は不確かだ。『fated』では「運命の出会い」の先にすら待ち構える悲劇を描いていたが、この作品にも似たような前提があるのだろうか。来世での確証はなくても、その時こそは共に歩みたいとささやかに願い、「君」を探すだろう……そんな「僕」の姿は、ひどく健気で痛ましいと言う外ない。

PVでは、街角で行われる人形劇をあゆが眺めており、やがて劇中のマリオネットとあゆの記憶がシンクロしていく。雨のシーンでのマリオネットは本当に可哀想で、胸が締め付けられる。

 

 

歌詞リンク: 浜崎あゆみ Together When... 歌詞 - 歌ネット

 

 

10月2日、あゆの誕生日です。おめでとうございます🎂💐

そして当ブログは昨日、1周年を迎えました🎊

あっと言う間の1年でした。投稿のペースが早いのか遅いのか分かりませんが、こうしてあゆ作品について考えていると、改めてあゆの綴った言葉が持つ魅力に気付かされます。

これからの1年もまた、あゆにとって幸せで、クリエイティヴな年でありますように🎶!

42ndシングル『talkin’ 2 myself』

talkin’ 2 myself

作曲:中野雄太

編曲:HΛL

 

低く重量感のある響きを持ったハードロック。ソリッドなギターと、危機感を煽るかのようなストリングスが特徴。ジャケットは赤を背景に黒い衣装をまとったあゆで、CDのみ盤はほぼ上半身、DVD付属盤はバストアップの、いずれも強烈な印象だ。

「何を求めて 彷徨うのか」「旅路の果てに 何が見たい?」と、人生の大きな目的を問う歌詞が冒頭から登場する。そして怯えている「君」に「心の声を聞くんだ」と力強い言葉を掛ける。「僕達」を振り回す現実の中にも、「君だけの答えがそう隠れてる」のだと。

情報や誘惑が溢れている時代に、自分の選択をしていく大切さを説く姿勢は、『everywhere nowhere』で「自由過ぎて何処へも行けない」という心情を描いていたことを思い出させる。膨大な選択肢は身を竦ませ、正解は誰も教えてくれない。だからこそ、現実に振り回されるのではなく、自分の答えを現実に見出す、自分の選択を現実にしていくのだ。

タイトルから分かるように、主人公が「君」と呼ぶのは内なる自分自身。「to」ではなく「2」としたのは、進もうとする自分と躊躇する自分の二面性をも表しているのかも知れない。もちろん聞き手は、あゆが励ましてくれていると受け取ってもいいだろう。「破壊する事により 創造は生まれる」という歌詞に、アーティストの創作にかけるエネルギー、あゆがひとところに立ち止まらずに前進してきたことを実感する。

PVでは、ダンサーと共に集団で踊るあゆが見られる。泥まみれになりながら強い視線を投げかけてくるのが印象的だ。時折出てくる子供たちの様子も興味深い。

 

 

歌詞リンク:浜崎あゆみ talkin' 2 myself 歌詞 - 歌ネット

 

 

decision

作曲・編曲:中野雄太

 

カップリングもシングルタイトルに負けず劣らず、激しいロックナンバーとなった。不穏に響くピアノの音や、動と静の起伏の激しさは『Because of You』に曲調が似ている。PVはバンドと共に演奏するあゆが映され、激しく頭を振りながら歌う姿が目に焼き付く。

「僕」が呼びかける「君」とは、大切な人、周りの人、ファンや聞き手……様々な人が当てはまるかもしれない。とはいえ、「言葉は時にとても無力」との歌詞の通り、実は多くは語っていない。「そう僕は行く この先がたとえ どんなにも 理不尽な 場所だったとしても」という強い「決意」を示すのみで、「君」に対しては「いつか 解ってくれるだろう」と淡い期待はあるものの、積極的にあれこれ説明はしないのだ。他人に語ることで、自分に言い聞かせ奮い立たせている面もあるのだろうか。

かつて「二度とは引き返せない道」を「最初で最後の覚悟」をもって選んだ「僕」。「僕はもう僕で あり続けるしかない」と悲壮さを滲ませる。あゆは様々な挑戦を選び乗り越えてきたが、良くも悪くも自分の考えとは違う結果を生むこともあっただろう。「強い向かい風」「冷たさ」が表すように、決して温かく安定した道ではない。それでもアーティストとしての道を「僕は行く」と言い切るのである。アルバム『Secret』では『until that Day...』で「まだまだ終われない 止まってられない」と前向きな意志を見せる一方、『Secret』で「飛ぶ事に疲れても 羽下ろす勇気もない」と自分の道から逃れられない悲哀も描いていたが、この曲は言わばその両方だ。この道を進みたいと思う勇敢さも、この道を行くほかになくなってしまった悲しみも、「僕であり続ける」ために引き受けていくのである。

 

 

歌詞リンク:浜崎あゆみ decision 歌詞 - 歌ネット

41stシングル『glitter/fated』

両A面シングル。カップリングとして、8thアルバム『Secret』収録の『Secret』を再録。

ジャケットは、夜の都市を背景に水に足を浸して立つあゆで、DVD付属盤ではバストアップで映っている。DVDには、『glitter』と『fated』の両方を使用したショートフィルム『距愛 ~Distance Love~』を収録。撮影は香港で行われ、あゆと香港の俳優の余文楽さんが共演した。

 

glitter

作曲:原一博

編曲:HΛL

 

「この夏 僕達は より強く輝きを増す」……ワクワクするサビから始まる今回の“夏歌”は、スパークリングのようにキラキラと弾ける、華やかさに満ちたパーティーチューン。

「去年の今頃」、そして「遠い昔の 今頃」を振り返る主人公の「僕」は、「結局 欲しいものは 変わってない」と思い当たる。「涙してた夜」があっても「後悔」せずに進んできた「僕」には、信じる愛があるのだ。「君の笑顔」が大切で、大人になるごとに例え変わったものがあったとしても、側にいたいと願う。「僕達の未来が どこへ向かってるとしても 今をただ 大事にして」という歌詞に、見えない先を怖がらず、今を積み重ねて夢見た未来にしていこうという意志が見える。

過ぎてきた夏を思い返す歌詞から、これまでの夏歌も思い出してみよう。「輝きを増す」様子は、「輝きだした 僕達(ぼくら)」と歌っていた『Boys & Girls』から進化している。「大人になった?」という問いかけには、「大人になって行く事の意味」を考えていた『fariyland』が思い浮かぶ。「泣けなくなった事」と「泣かなくなった事」の対比は、『HANABI』の「泣けない弱い心も 泣かない強さも」という歌詞に似ている。「君の笑顔」が大事で、「そのためには空も 飛べるはず」と言う主人公に、「去年の今頃」歌っていた『BLUE BIRD』の「青い空を共に行こうよ」「君が笑ってくれればいい」という歌詞が重なる。サビから入る構成の夏歌は『UNITE!』以来で、皆で集まるのにぴったりな雰囲気は『Greatful days』のようだ。直近のアルバム『Secret』でこれからも歩み続けるという姿勢が示されたように、過去を踏まえてより前へ、加速をつけて進んでいく意気込みが感じられ、その意味でもファンは高揚せずにいられない。

ショートフィルムの前半は、この曲と共に、歌姫あゆとボディーガードが次第に惹かれ合う様子が描かれる。

 

 

歌詞リンク:浜崎あゆみ glitter 歌詞 - 歌ネット

 

 

fated

作曲:萩原慎太郎松浦晃久

編曲:CMJK

 

あゆ作品の「運命の恋」の描き方は独特だ。タイトルに「運命」を冠した『LOVE ~Destiny~』は破局の歌だし、「どんな結末が待っていても 運命と呼ぶ以外他にはない」と歌う『HEAVEN』は死別を描いている。「運命の恋」と聞くとロマンティックなハッピーエンドを想像しがちだが、あゆは厳しい現実も含めて「運命」と呼ぶのだ。

もっとも、これら2曲はその悲しい最後より、二人が確かに想い合っていたことを讃える視点で書かれたものだった。比較して今作は、中盤まで上手くいっているかのような描写だったのが、最後に悲しい終わりを迎えたと分かる構成で、未練を引き立たせている。元より「fate」は「不幸な運命」を表す言葉であり、「fated」は避けようのない不幸を「運命づけられた」という意味である。静かな夜のようにひんやりとした、ひずんだロックバラードは、『HANABI ~episode Ⅱ~』を思わせる曲調だ。

主人公の「僕」は、「それまでの何もかも全て 変えていってしまう様な 一瞬の出会い」を「運命」と呼ぶ。そして目の前の「君」に、確かにそれを感じた。だが「足がすく」み、どこに続くか分からない道を前に、「強くありたいと思う程に心は 反比例する様に弱くなっていく 気がして」……。「今をただ 大事にして」未来に向かっていく『glitter』とは逆の心境だ。最終的に「僕」は、二人の愛を諦めてしまう。

「頬を打つ風」で「リアルさ」を感じる場面が、前半と終盤の2回登場する。運命を感じたこと、そして幻であってほしい悲劇が起きたこと、どちらも現実だ。「君」との出会いは運命だった。けれど「僕」はその運命を信じ切ることができなかった。「僕」は運命を逃したのか? それともこの結末こそ、強くはなれない自身に運命づけられたものだったのか?「ねぇ僕の目の前にいたのは 本当の君だったのに」という終わりが、拭えない悲しみを余韻に残す。

ショートフィルムでは後半をこの曲が彩る。想いを深める二人に待っていた運命は……。

 

 

歌詞リンク:浜崎あゆみ fated 歌詞 - 歌ネット

再考:『絶望三部作』

参照:絶望三部作 14thシングル『vogue』、15thシングル『Far away』、16thシングル『SEASONS』

 

vogue

 

自らを敢えて「君」と呼び、いずれ散る事を思いながらも「君」を美しく咲き誇らせようとする心境は、やはり並大抵のものではない。そして、まぎれもないトップの地位にある時に「絶望」と正面から向き合い、こうして散って行く事を考えていたあゆが、その後もキャリアを重ね歌い続けたことは誰もが知る通りだ。

先日記事にした『Secret』収録の『1 LOVE』では、いかにして「花」を咲かせ続けてきたかが描かれ、『until that Day...』では「この場所を飛び出してった時」に「満足そうな顔をしている」だろうということが示唆されつつ、「その日」までは「まだまだ終われない」と言い切ってみせた。もしもこの『絶望三部作』の時点で早々に「散る」事を選んでいたら、当然その後の数々の作品は生まれるはずもなく、去りゆくあゆは「満足そうな顔」などしなかったかもしれない。あゆが歌い続ける道を進んだ事を我々聞き手は感謝すべきだろう。「絶望」と呼ばれた三部作ではあるが、絶望に立ち止まらずその先へと歩んでいく「決意」や「覚悟」を示した三部作とも言えるのではないか。

 

 

Far away

 

人は「通過駅」と呼ぶが、「ふたりには始発駅で 終着駅でもあった」というのは、恐らくこの恋だけではない、どんな恋もそうだろう。その時の相手とは、その時限りの恋をしている。ただ通り過ぎただけだと割り切るのは、そう簡単ではない。

かつて「あなた」と訪れた海を今は一人見つめながら、遠い「あなた」の元にも海はつながっているだろう、「同じ景色」を見ているだろうと思う描写は感傷的ではあるが、「新しく」「生まれ変わる」ための準備でもあるだろう。完全に吹っ切れたわけではないが、いつかの海をそれぞれの場所で眺めながら、お互いに前へと進んでいこうとしている。「駅」を使ったメタファーからは、海を求めて遠出をするイメージも感じられ、その旅は未練を辿るだけのものに留まらないはずだ。「もうすぐで夏が来るよ あなたなしの…」という終わりは、「あなた」のいない切なさと、それでも新しい季節を感じている複雑な感情を表した、絶妙な表現である。

 

 

SEASONS

 

楽曲のモチーフを、『vogue』が「花」、『Far away』が「海」とすれば、『SEASONS』はやはり「季節」がだろうか。ジャケットのイメージで言えば「空」でも良いかもしれない。季節や天候を人々は空で見ている。

ところで36thシングル『fairyland』のAメロは、『SEASONS』のAメロと少しだけ似ている。どちらの曲も無邪気な頃を過ぎて年月を重ねていく心情を描いているし、『SEASONS』は『Far away』で夏の訪れを示した後の作品で、『fairyland』も夏歌だ。夏という季節が持つ高揚感は、刹那的な衝動と紙一重であり、だから秋にはしんみりとした音楽がよく似合うのだが、あゆ作品には夏の時点で既にその感傷まで描いているものも多い。『vogue』のように「花」を描く時にも、咲き誇る様子を見ながら散るところまで見据えているので、この無常観が作品を形作る要素の一つと言える。

fairyland』が『SEASONS』と少し違うのは、思い出の中に出てくる人の数が『SEASONS』よりも多いこと、「そして何を見つけるだろう」と終わった『SEASONS』からより踏み込んで、「最も永遠に近い場所にいる」と一つの答えが出ていることだ。季節が巡れば思い出は遠くなるが、時を経る中で得てきたものが、世界を更に豊かにしていくのである。

 

 

ever free

 

「三部作」と言うからには3曲で終わって良いはずだし、『vogue』『Far away』『SEASONS』のつながりに不足はないのだが、それでも尚存在するこの楽曲が、「絶望」に含みを持たせている。『vogue』のカップリング、歌詞の非公開という形が意味深だ。流行が過ぎる『vogue』、恋人と別れた『Far away』、思い出が遠ざかる『SEASONS』と、思えばどの作品でも何かを失ってきたが、『ever free』における「死」という喪失はやはり大きい。『絶望三部作』の「絶望」の部分は、この歌こそが強調している部分なのかもしれないとさえ感じられる。

この時あゆが葬ったのが何であれ、それが後のあゆの道に必要な過程だったのなら、『ever free』が三部作に与えた重苦しい深淵さえ、聞き手にとっては幸運だった。「歌手・浜崎あゆみ」そのものは葬らずに済んだのだから。

 

 

 

 

いずれ載せるつもりだった、初期作品の再考記事を書いてみました。

今のところ考えている書き方はアルバム単位であり、当初は順当に『A Song for ××』から再考していくつもりだったのですが、敢えて『絶望三部作』を最初に持ってきました。

と言うのも、アクセス解析で見ると、今に至るまで『絶望三部作』へのアクセスが圧倒的に多いのです。

様々な理由が考えられますが、あゆがスターダムへ駆け上がった頃の衝撃的な作品である事、『絶望三部作』という呼び名がある事などが大きなところだと思います。

 

久しぶりの投稿になったので、全くの新しい記事を期待していた方がいらっしゃったら、申し訳ありません。

次の記事を楽しみにしていて下さい。