黙ってayuを聞け

浜崎あゆみさんの歌 とりわけ歌詞の魅力を語るブログ

14thアルバム『LOVE again』(前編)

デビュー15周年記念の5ヵ月連続リリース第4弾。

ミニアルバム『LOVE』『again』で発表された曲と、新曲で構成されたフルアルバム。『A SUMMER BEST』収録の『You & Me』も再録されている。

LOVE』『again』の多彩な楽曲が、新曲と合わせて収録されたことにより、一つの流れとしてまとまったアルバム。小室哲哉さんや星野靖彦さんからの楽曲提供、ジャケット及び歌詞カードの写真のやわらかなピンクを帯びたナチュラルさなど、全体的な雰囲気は2つ前のアルバム『Love songs』にも通じるものがある。どれにも皆「LOVE」が付いているのは偶然だろうか。『Party Queen』のような尖ったイメージはなく、『Rock’n’Roll Circus』ほどダークなロックの色も強くない。1曲1曲を見れば激しいナンバーもあるが、アルバムとしては穏やかな気持ちで聞けるかもしれない。

Blu-ray付属盤、DVD付属盤、CDのみ盤、PLAYBUTTONの他、Blu-ray付属盤とDVD付属盤には更にフォトブックとayupanフィギュアが付属した盤があり、計6形態となった。ジャケットは眩しい光の中リラックスした様子のあゆで、CDのみ盤は膝を抱える姿、DVD付属盤はあぐらでベッドに座る姿、Blu-ray付属盤は横顔のアップ、PLAYBUTTONはこちらに視線を向けた顔のアップ。

 

 

〔『LOVE again』の記事 【前編】 【中編】 【後編】

 

 

Wake me up

 

4thミニアルバム『again』収録曲。当該記事を参照。

 

 

Song 4 u

 

3rdミニアルバム『LOVE』収録曲。当該記事を参照。

 

 

Missing

 

3rdミニアルバム『LOVE』収録曲。当該記事を参照。

 

 

SAKURA

作曲:多胡邦夫

編曲:中野雄太

 

たゆたう春の夜風のように優しく、しかし切ないバラード。短い言葉から、「生きてく事」の意味を深く問われる。

主人公は「澄んでひんやりした風が頬を刺す」夜に、ひとり「君」からのメールを読み返す。もう何度も読み返しているその内容は、直接は描写されていない。しかし主人公が「涙」し、「生きてく事は どうして切ない」と考えるようなことが書かれているらしいのだ。

「君」は「誰より辛い」はずなのに「誰より強」い様子でいるようで、だからこそますます主人公は他愛ない話にまで「やるせないリアル」を感じてしまう。メールで打ち明けられたのは余程深刻な話だったのだろうか。辛い事があった当人が気丈に振る舞っていると、周りの方がかえって落ち込んでしまうのはままある事だ。

「生きてく事は どうして切ない」「生きてく事は こんなに尊い」というサビの言い回しには、言葉の追いつかないほどの実感が込められている。辛くても強く生きている「君」に何が出来るか、と考え、辿り着いた結論は「僕らで有る事」だった。「僕らで有る」――これもまた、シンプル故に意味の広い言葉である。何をもってして「僕ら」なのか、それは意外にも深い問い掛けを要するだろう。

タイトルは「サクラ」だが、歌詞に花の桜は登場しない。しかし、儚い姿にこそ命の強さを感じさせる桜は歌のイメージとも重なる。陽光の元で仲間と楽しく見る桜よりは、静かな夜に一人見上げる桜といった風情かもしれない。

 

 

歌詞リンク:浜崎あゆみ SAKURA 歌詞 - 歌ネット

 

 

Melody

 

3rdミニアルバム『LOVE』収録曲。楽曲については当該記事を参照。

今作に初収録のPVは真上からの撮影を中心としたもので、鏡で囲まれた空間でパフォーマーが動くことで万華鏡の中のような模様を作り、その中心であゆが歌っている。シンプルながら非常に手間をかけられた内容。

リミックス・アルバム『A Classical』

デビュー15周年記念の5ヵ月連続リリース第3弾。

MY STORY Classical』以来となる、クラシカルアレンジのアルバム。今作は一つのアルバムに限らず、シングル曲もアルバム曲も関係なく、この時点までのリリースから様々な名曲が選抜されている。強いて言えば『You & Me』『Song 4 U』『Missing』がリリース間もないところから選曲されており、ジャケットはミニアルバム『LOVE』のDVD付属盤のジャケット写真を鉛筆描きのイラストにしたものとなっている。

あゆのリミックス作品において元々オーケストラアレンジやクラシカルアレンジは多いが、今作の収録曲はオリジナルのメロディーやコード進行を概ねなぞっていることと、楽器の編成や展開によって壮大さが際立つことが特徴だ。他のオーケストラアレンジや、使う楽器によるイメージの違いを聞き比べるのも楽しい。

 

 

編曲:山下康介

 

高貴なイメージがあり、聖母マリアの生涯を描いた叙事詩を見ているかのよう。楽曲の後半に集中するサビに向けてゆっくりと激情を高めていくのは基本的に原曲に沿っているが、最初のサビで拍数の少ない力強いリズムを刻み、2回目のサビでは一度ストリングス中心に音量を落としてから、最後のサビで最高潮に達する。

 

 

Love song

編曲:山下康介

 

これから戦いに挑むかのような勇壮さに満ち溢れ、歌詞に込められた「ゆずれない想い」を力強く印象付ける。鋭く刺すような金管を中心に重々しく繰り返すリズムが心を駆り立て、鐘の音が厳かに響く。

 

 

SEASONS

編曲:石川洋

 

少し切ないイントロや、しんみりするAメロBメロと、一気に音量を上げるサビとの起伏の大きさから、これまで過ごしてきたいくつもの季節の重みが感じられる。『絶望三部作』の3作目である作品だが、サビで高らかに鳴る金管は過去を抱きしめ、未来を祝福しているのかもしれない。

 

 

You & Me

編曲:萩森英明

 

同じメロディーやコード進行、テンポでも、EDMの原曲とまるで印象が変わることに驚かされる。サビ前の木管の軽やかさ、サビのティンパニの力強さなどが、原曲とはまた違う高揚感を奏でる。破局を描いた歌ではあるが、これからの未来や、もしかすると新しい恋に向かって希望を持てるような明るさだ。

 

 

BLUE BIRD

編曲:森 悠也

 

さながら童話の『青い鳥』のような冒険に出たくなる、ドラマティックさとファンタジックさ。イントロはAメロとサビのメロディーを組み合わせてゆったりと幕開けを演出し、2番後の間奏は冒険の紆余曲折を表すかのようにくるくる表情を変え、最後は飛び立つ青い鳥を見送る朝の空を思わせる穏やかさで締めくくる。

 

 

Days

編曲:萩森英明

 

原曲の持つ優しくほっとするイメージそのままに、木管の温かさとストリングスのやわらかさが全体を包み込んでいる。このアルバムの中では比較的起伏は大きくなく終始穏やかで、歌詞の「君を想う」慎ましさをよく感じられる。

 

 

Voyage

編曲:山本清香

 

原曲がオーケストラサウンドを使っているので、オーケストラアレンジとの相性は言わずもがな。ストリングス中心に奏でるメロディーも引き継がれているが、Aメロ前の間奏には元々のやや劇的なイメージよりもやわらかさがある。コーラスをシンプルにした上で様々な楽器が奏でるメロディーを重厚に重ね、「長い旅路」の遥か先まで思いを馳せる。

 

 

Song 4 U

編曲:亀岡夏海

 

元々壮大でファンタジックな楽曲だが、このアレンジでは原曲の駆り立てる疾走感あるリズムとは違い、景色を俯瞰で見わたすような感覚がある。AメロBメロはストリングスの美しいメロディーに合わせつつ静かに流れ、サビは金管の掛け合うような重厚なハーモニーで解放感をもたらす。大作映画のクライマックスに合わせたくなる一曲。

 

 

Missing

編曲:山下康介

 

物語の悲劇的な場面を思わせる。原曲は畳みかけるようなリズムで哀切と激情とを表す曲調だが、このアレンジではゆったりとしたリズムの上に幾層にも重なるストリングスが、募っていく悲しみを淡々と、しかし確実に刻んでゆく。

 

 

Dearest

編曲:Yuhei Kobayashi

 

Dearest』にはPVも作られ頻繁に披露もされた「Acoustic Piano Version」や、そのアレンジ違いである「Acoustic Orchestra Version」が存在するが、このアレンジでは原曲のメロディーとヴォーカルを採用している。全体は穏やかながら、終わりの転調するサビに向かってゆっくりと盛り上げてゆく展開も原曲に沿っている。

 

 

※『again』の『Ivy』について、少し書き足しました。

また、「5thアルバム『RAINBOW』(中編)」の『Over』の編曲者、「4thアルバム『I am...』(中編)」の『Daybreak』の作曲者の表記を変えました。

それと、「再考:『Trust』」で何故か全て大文字で「TRUST」と表記していた事に今更気付いたので修正しました。

4thミニアルバム『again』

デビュー15周年記念の5ヵ月連続リリース第2弾。

新曲4曲とリミックスで構成されたミニアルバム。アップテンポなポップスに感動的なバラードと、やはり様々な系統の作品が並ぶが、『LOVE』と合わせて新曲7曲でありながら前作『LOVE』とは違う曲調であることに、あゆ作品の多彩さを実感する。

DVD付属盤、CDのみ盤の2形態でリリース。ジャケットは男性と寄り添うあゆで、DVD付属盤は視線をこちらに向け、CDのみ盤は男性と顔を寄せている。光に包まれて色が淡く映っているのが特徴だ。

 

 

Wake me up

作曲:Hiten Bharadia、Philippe-Marc、Anquetil、Bardue Haberg

編曲:tasuku

 

デジタルサウンドがクールに響き、不穏な空気を醸し出すEDM。

「渇ききった喉」「昨日のままでもっとくずれた ヘアとメイク」と、やさぐれた描写で始まる。例えば『Party Queen』の初めの3曲のように飲み明かした次の朝だろうか、あるいは同じく『Party Queen』収録の『reminds me』のように、疲労困憊で帰って来てすぐ寝てしまったのだろうか。いずれにしても、「冴えた冷めた頭でパズルを 完成させちゃったところよ」と、主人公の「アタシ」の自分を客観視したややシニカルな言い方は、突き放した印象だ。夢見る余地のない現実がそこにはある。

冷静な「アタシ」は、「あの子やあいつ」が好き勝手言うことに「いちいち的を 得てるから反論できないわ」と思っている。あゆ作品では「結局指さされるなら あるがままに(『alterna』)」「はさむなら口でも何でもご自由に(『1 LOVE』)」などなど、周りに流されず自分の道を歩もう、というスタンスが多く繰り返されてきた。しかしここでは、「好き勝手」の中身が正論だとは認めていて、「I gotta let you go(あなたを解放しなくちゃ)」「もうそっとしておいてよ」という歌詞からは、自分を貫く強さより、ある種の諦観の方が色濃く見える。それだけに、直に問い掛ける囁きのような「(あなたもよ)」にはゾクりとしてしまう。

サビの「砂の城」という歌詞に、『(miss)understood』DVD付属盤の初回特典写真集にあった同じ言葉を思い出す人もいるだろう。ただ、写真集では「“浜崎あゆみ”は壊れやすいが、やって来る波に備えているから壊れない」という主旨で語られた。対して今作の歌詞は、「何でもあって何にもない」「誰でも入れて誰も入れない」……立派に見えても所詮は脆い砂、と言いたげだ。ところでサビでは「wake up(目覚めて)」「get up(起きて)」としきりに繰り返すが、タイトルはよく見ると「Wake me up」、「アタシを目覚めさせて」である。相手が砂の城の真実に目覚め、離れて行った時が、自分の目覚めでもあるという事だろうか。「泣いてなんかない」という言葉が切ない。

PVは、あゆが二人の男性と共に旅行に出掛けるストーリー。あゆは片方の男性と付き合っていたようだが、旅行中にもう一人の男性と接近。ラストシーンではあゆの腕に注目してほしい。

 

 

歌詞リンク:浜崎あゆみ Wake me up 歌詞 - 歌ネット

 

 

Sweet scar

作曲:D・A・I

編曲:中野雄太

 

美しく流れるピアノを中心とした物静かで感傷的なサウンドが、優しさを奏でるバラード。音も言葉もシンプルながら、健気で深い愛を示す。

「眩しいあの季節」を通り過ぎ、「冷たい風が距離を近付けるね」と感じる日々を、「僕」と「君」はそっと寄り添うように生きる。「おはようって毎日言える」二人だが、「おやすみはもう悲しくないね」「繋いでた2人の手が 離れて行くのを感じたとき」という歌詞から察するに、共に暮らしてはいないらしい。「たくさんの夜を乗り越えたね」「今だって何とかなんだけどね」と、詳しい事情は分からないものの、「僕」も「君」も何か困難を抱え、その苦痛は消し去れなくても、時間を掛けて少しずつ笑顔を増やしてきたと伝わってくる。

あゆ作品における「傷」は、「きのう癒された傷が 今日開きだしたとしても(『Trauma』)」「誰も皆言えぬ傷を連れた 旅人なんだろう(『Voyage』)」「癒されぬ傷口は 時々開きながらも やがてまた閉じる(『Beautiful Fighters』)」のように、多くは「癒えないもの」として出てくる。そして、傷が癒えなくても前を向いて生きていくことは出来るし、大切な人となら痛みも分け合える、と描かれることも多い。この作品の主人公は冒頭から、「柔らかく力強く 君を包める僕になりたい」と決意を繰り返し、「君」が微笑むまで「大丈夫」と伝えたい、と語る。「~ね」という口調を重ね、「君」に対する愛情のまさに「柔らかさと力強さ」を、この上なく優しい形で表現している。互いの他には頼るもののなさそうな二人が、傷さえも共有している姿が、「Sweet scar」というタイトルに表れているのだろう。

PVでは、あゆがベッドに腰かけているところから、優しい光に満ちた部屋で時を過ごし、やがて庭に出て行くまでが全てワンカットで撮られている。歌詞を口ずさみながら、時折こちらに目を合わせるように投げかける表情にドキリとさせられる。海の描かれた大きな絵の前に来るシーンが特に印象的。

 

 

歌詞リンク:浜崎あゆみ Sweet scar 歌詞 - 歌ネット

 

 

snowy kiss

作曲:小室哲哉

編曲:tasuku

 

緊迫感あるリズムを刻むデジタルサウンドの楽曲で、どうにもならない混沌を描くようにストリングスが鳴り響く。湛えた激しさは、夏のごとき情熱ではなく、冬の凍てつく嵐を表す。

太陽が沈んで行くのを、「どうか今はまだ夜の闇に 置き去りにしないでいて欲しいと 祈るほどに加速度を増した」と表現し、冬の日の短さを見事に心情に重ねている。後にある「月明りが綺麗すぎるから 2人の傷が透けちゃって怖い」「太陽がまた2人を照らすよ まるで何もなかったようだね」という描写を見ると、昼だろうと夜だろうと、最早2人の愛を刻む時はないらしい。「次の迷える誰か」や「あの子」に思いやりが見えるのは、自分達の関係に期待が出来なくなったからこそだろうか。

「背中が泣いていた」はずのあなたが、振り向くときには「笑顔という仮面」をつけている。大切な人とは良い事も悪い事も分かち合いたい、とあゆ作品で何度も歌われてきたことを思えば、「私」が「あなた」の態度をいかに辛く感じるかが分かるだろう。「優しい嘘だなんていらないから せめて嘘なら本当の嘘ついてみせて」という懇願が切実で苦しい。

「気持ち伝え続けていく事」を「苦手だって出来ないままにした」という描写は、『Why...』の「『逢いたいよ』とか『淋しいよ』とか どうしてももっと伝えなかったんだろう」という歌詞にも通じるものがある。通じ合うためには、伝えるべきことを伝えるしかないのだ。結局「私」は、別れの言葉すらも伝えずに「眠っているうちに頬にキス」をして、雪が足跡を消す中一人去っていく。

PVでは、あゆと恋人の男性がケンカを続けている。お互いに手が出ている様子は相当深刻だ。『Wake me up』『You & Me』とは一連の物語であるらしく、『Wake me up』の舞台となった部屋や、『You & Me』の二人で海に飛び込むシーンなどが登場する。特に海に飛び込むシーンの対比は二人の関係の変化を明確に表現している。せっかく始まった新しい恋も、夏から冬にかけて短い間に終わってしまったようだ。

 

 

歌詞リンク:浜崎あゆみ snowy kiss 歌詞 - 歌ネット

 

 

Ivy

作曲:小室哲哉

編曲:中野雄太

 

Dearest』を彷彿とさせるようなロックバラードに乗せて歌われるのは、この上ない人生賛歌。タイトルはキヅタの事で、「不滅」「誠実」などの花言葉を持つ。新曲の中では唯一PVがないので、これまでのあゆの歩みを思い出し、胸の内の葛藤を想像しながら聞こう。

「色んな事がありました」で始まり、「色んな~ました」という形で淡々と、しかし噛み締めるような畳み掛けが、聞き手の心にじわりと浸透する。美しい出来事ばかりではない。「色んな罪を犯しました」「色んな人を傷つけました」と、過ちを赤裸々に告白する。「そうして今ここにいる」主人公の「僕」は、過去に頷き手を振った後、「君のいる未来だけを真っ直ぐ見つめてる」と言い切る。消えない過ちを抱えた上で未来へ向かう覚悟がそこにあるのだ。

「まだまだ嫌われていますか」「まだまだ誤解されていますか」という質問には、スターの孤独も漂う。これは『Wake me up』の諦念とも違うだろう。逐一説明する代わりに「私の事を全員が分かってくれなくても構わない」と歌ういつものあゆの態度ではなく、嫌われたり誤解されたりする悲しみが垣間見える事に、はっと虚を衝かれる。故に「君だけは解っていて」が、他の作品の同様の歌詞とは違って聞こえるかもしれない。「懐かしいあの子」とは、過去の自分自身か、自分と似た立場の人か。あるいは、自分を嫌ったり誤解したりして離れて行った人だろうか。いずれにせよ、主人公は「精一杯のエール」を送っている。

「あぁ自分自身さえ幸せに出来ずに 一体誰を幸せに出来ると言うのか」という歌詞には、過ちを犯した自分でも幸せになろうとして良いのだという、深い肯定が現れている。過ちから目を逸らすわけではない。過ちがあっても尚、人生は続くのだ。人を傷つけた事を悔やみ、これからは人を幸せにしたいと思えばこそ、自分をまず幸せにするのである。『Dearest』の「いつか永遠の 眠りにつく日まで どうかその笑顔が 絶え間なくある様に」は純粋な願いだが、今作の「長いとは言えない人生の中で どれだけ心の底から笑えたかどうかだよ」は、決して笑顔ばかりではない現実の中で、それでも笑っていようとする意志だろう。「最後は君の笑顔が見たいから」、主人公はこれからもこの道を行く。

 

 

歌詞リンク:浜崎あゆみ Ivy 歌詞 - 歌ネット

 

 

 

 

浜崎あゆみさん、お誕生日おめでとうございます!!

これからもどうか元気で、無理はせず、素敵な歌を歌って下さい♪

 

 

そしてお読み下さっている皆さん、『LOVE』の記事を上げるまでとんでもなく間が空いてしまい、申し訳ありませんでした。

「投稿頻度を上げなければ」と言いながら、寧ろ下がっている気がしますね……。

今回に関しては、常日頃の忙しさに加え、実を言うとある種のスランプに陥っていた事も原因です。

書きたい事はたくさんあったはずなのに、何を書いたらいいのか分からなくなってしまい、少し書いては休み、消したり書いたりを繰り返したりしているうちに、いつの間にか時間が経ってしまっていたのでした。

ただでさえ投稿の頻度が低い中、「今スランプです」という記事を上げたところで、新着記事だと思って訪れてくれた方をがっかりさせるだけですし、何より作家を生業としている訳でもないのに「スランプ」などと口にするのも恥ずかしく……投稿できなかったお詫びは投稿でしか返せないと、『LOVE』を上げるまでは沈黙したままでいました。

私が何も書けない間にも、あゆは新曲を発表し続けていましたね。やはりプロはすごいです。

恐らくスランプは脱したと思うので、皆さんの期待に応えられるように頑張ります。

3rdミニアルバム『LOVE』

デビュー15周年記念の5ヵ月連続リリース第1弾。

新曲3曲とリミックスで構成されたミニアルバム。時にドラマティックに、時にセンチメンタルに、時に優しくやわらかく、と、様々な系統の楽曲が並ぶ。

DVD付属盤、CDのみ盤、タイアップ盤の3形態でリリース。DVD付属盤及びCDのみ盤のジャケットはあゆの顔を正面からアップで撮ったもので、DVD付属盤はこちらを見つめ、CDのみ盤は目を伏せている。ナチュラルでどこか儚げなイメージだ。タイアップ盤はゲームのイラストである。

 

 

Song 4 U

作曲:HINATAspring、中野雄太

編曲:中野雄太

 

悠々とした出だしから大サビで幕を閉じる構成で、壮大なファンタジーを思わせるサウンドの楽曲。

「また明日ね」という、よく考えていなくても口をつく当たり前の挨拶。けれどその当たり前は「君が居てくれる」事で成り立っているのを「僕」は実感している。当たり前の貴重さを大切な人との関係で再確認する描写がここにも表れている。「光の向こうに 願ってる未来」がある「僕」の、「泣いたままで 君のままで」伝える声を「哀しみごと 抱きしめるよ」という覚悟は、並大抵のものではないだろう。

何の不安もない、という訳ではない。「今だってそんなに 自信はないよ 踏み出せない時もあるよ」と素直に口にする。単に強気一辺倒ではなく、弱い部分も見せるからこそ、その弱さを乗り越える想いの強さが分かる表現だ。それは「月も太陽も輝けないね」「空だって 飛べる気がする」という広々として大きなイメージにまでつながっていく。だからこそ、その広大さから最後の「ただひとり 君のためなら」とミニマムに焦点を絞った時に、途方もない覚悟が胸に迫るのだ。「2 U」「4 U」という表記に何となくプライベートな印象を受けるが、「君のための歌」を、あゆは誰を想って歌うのか。たった一人に伝えたい想いを強く持つ事が、逆説的に多くの人を惹きつけるのかも知れない。

PVは、黒い衣装と白い衣装を何種類かずつ来たあゆが同時に登場し、チェスのごとくゲームを進めていく。最後に黒と白が一つずつ残り、向かい合う場面は爽快だ。メイキング映像では、盤上で緻密に組まれたそれぞれの駒の動きをごく僅かなミスでこなすあゆの姿が見られる。

 

 

歌詞リンク:浜崎あゆみ Song 4 u 歌詞 - 歌ネット

 

 

Missing

作曲:原一博

編曲:中野雄太

 

「逢いたい時に 逢いたいって」「寂しい時に 寂しいって」素直に言えたのはかつての話。その切なさを、繊細にセンチメンタルに響くピアノの高音が煽る。

この歌も「私」から「あなた」への強い想いが感じられるが、その表現は張り詰めた悲愴感に満ち、裏に一筋縄ではいかない事情を伺わせる。例えば、互いに信じあっている事を綴ってもいいものなのに、「私があなたの事を 信じられなくなる時 あなたも私の事を信じられなくなってる」と、わざわざ「信じられなくなる時」にフォーカスを当てているのだ。「あなたの強がりの中に 隠されている痛み」を見つけたことについても「抱きしめたくなっている」と感じるが、何故「あなた」は痛みを隠そうとしたのだろうか。

他方、「でも真っ直ぐに進んで行く」「この両手が 塞がっても 諦めない」という強い意志も見せる。しかしそれもまた「もう戻れない」という悲しい決意から来るものらしい。「逢いたい」「寂しい」という気持ちを素直に表そうにも、「自分の都合以外」「誰かの願い」があるためになかなか出来ないという。二人の関係は周囲から歓迎されないものなのだろうか。しがらみに苦しみながら、もがくように共に歩もうとする姿が見て取れ、胸が痛む。

PVは、ススキの茂る野原で、悲しみを堪え切れない様子のあゆが歌う。後ろで人が次々にゆっくりと浮かび上がっていく不思議な演出が、現実と幻の境を曖昧にさせている。

 

 

歌詞リンク:浜崎あゆみ Missing 歌詞 - 歌ネット

 

 

Melody

作曲:星野靖彦

編曲:中野雄太

 

この上なく優しい空気に包まれたバラード。ギターとストリングスの柔らかい音が耳に心地よい。あゆはどんなメロディーを届けたいと思っているのか。この作品では激情を叫ぶのではなく、そっと寄り添うように語られる。

「陽が暮れる瞬間の 空が苦手だった あまりに綺麗すぎて まるで全ての終わりみたいで」という心情がまず語られる。「綺麗すぎる」事が苦手な理由になる独特な繊細さが、「その時間」を共に過ごした「君」が「ただ黙って」「涙拭ってくれてた」事の愛おしさに説得力を持たせるのだ。そうして「僕」は、「ありのままでいられる」心地よさを知り、自分もまた「悲しいメロディーしか聴こえない」日の「君」でも「変わらずに愛おしいよ」と受け止める。「君の左側から見える景色が指定席で」あることが「空気のように 風が流れるように」と表現されているのを見るに、心安らぐ関係性なのだろう。「君」が大切な人となり、共に過ごすことがごく自然になっていく実感が、飾らない優しい言葉の連なりにも表れている。

「君に送る僕からのメロディー いつの日か2人で奏でられたらと」。優しく語り掛けるようにあゆは歌う。「僕らだけのペースで」「2人で育てて」と、丁寧に慈しむ様子が描写される。メロディーとはもしかしたら、2人の間にある愛そのもののことかもしれない。「最後のメロディー」は「どうか穏やかで優しい音でありますように」という「僕」の願いが叶うように、聞き手もまた2人を見守っていたくなる。

PVは『LOVE again』に収録。当該記事を参照。

 

 

歌詞リンク:浜崎あゆみ Melody 歌詞 - 歌ネット

ベストアルバム『A SUMMER BEST』

あゆの“夏歌”を集めたベストアルバム。「エー・サマー・ベスト」と読む。タイトルの「A」はロゴ表記。

心躍らせる楽しい歌、しんみりと切ない歌。始まる恋、終わる恋。シングル、アルバムを問わず、それぞれの夏を描いてきたあゆの歌が集められ、その色彩の豊かさに改めて驚嘆する。これからも夏をあゆと共に過ごすなら必携のベスト。シングル『&』のカップリング『theme of a-nation ‘03』、デジタル・ダウンロードシングルの『Happening Here』、新曲『You & Me』はアルバム初収録。

CDは盛り上がる曲を集めた「DISC-N」と切ない楽曲を集めた「DISC-A」の2枚組で、DVD付属盤、CDのみ盤の2形態でリリース。ジャケットは、DVD付属盤は砂浜に座るあゆ、CDのみ盤は青空をバックにしたバストアップ。DVDには収録楽曲のライブ映像もしくはPVが収録されており、初収録のものを含む。

 

 

DISC-N

 

BLUE BIRD

July 1st

Greatful days

glitter

Sunrise ~LOVE is ALL~

AUDIENCE

independent

evolution

Boys & Girls

UNITE!

INSPIRE

NEXT LEVEL

Happening Here

 

 

DISC-A

 

HANABI

HANABI ~episode Ⅱ~

Far away

monochrome

theme of a-nation ‘03

Sunset ~LOVE is ALL~

SEASONS

ANother song feat. URATA NAOYA

fated

MOON

blossom

fairyland

You & Me

作曲:小室哲哉

編曲:tasuku

 

収録曲のうち唯一の新曲。軽快で陽気なEDM調の“夏歌”だが、その歌詞には感傷も漂う。

「friday nite」から次の「friday nite」まで、「morning」から「midnite」まで、その短い時の巡りの中で、「夢中になって恋して そのうちに愛して」と急速に距離を縮めた2人。「nite」という砕けた表記からも、勢い良く前だけに突き進む2人の関係が見えるが、そこには確かに、「叫んだり泣いたりしても それでも 伝えたかった」と言うほどの想いがあった。けれど、「あの夏の想い出は 今もまだ鮮やかなまま」「それが運命なんだって信じていたかった」という歌詞が示すのは、もうこの恋が終わってしまっている事である。一夏の熱で燃え上がった恋は、波が引くように呆気なく終わってしまうものなのか。

転調した終盤には、「この夏は少しずつ 何かを忘れてみよう」と歌われる。「想い出は 今もまだ鮮やか」なのに忘れる事を目指しているのは、「いつだって思い出すなら あなたと2人がいい」と思っているからだろう。最後に「伝えたかった」想いをひっそりと残して歌は終わる。

PVは夏の景色の中、あゆが男性と恋を楽しむ様子が映されるが、最後は不穏な影を残す、歌の内容に沿ったストーリー。冒頭の寂し気なあゆの背中がその結末を物語る。

 

 

歌詞リンク:浜崎あゆみ You & Me 歌詞 - 歌ネット

 

 

 

 

浜崎あゆみさん、デビュー24周年おめでとうございます💖

最近また嬉しいニュースが続々聞こえてくるので、今年もご活躍楽しみです!

 

そしてお読みくださっている皆さん、またもギリギリの更新になった事をお許し下さい……。

13thアルバム『Party Queen』(後編)

〔『Party Queen』の記事 【前編】 【中編】 【後編】

 

a cup of tea

作曲・編曲:CMJK

 

インストゥルメンタル。軽やかに弾む音が楽しく、どこかコミカル。もうお酒はやめにして、お茶を飲む事にしたらしい。あゆにお茶を勧められたら、是非とも頂きたいものである。

 

 

the next LOVE

作曲:Timothy Wellard

編曲:中野雄太

 

ここからは今までのあゆ作品にはないタイプの曲が続く。パーティーが終わり、現実に戻った後で、新しいアイディアが生まれたのだろうか。この作品はムーディーで気怠げなブルースで、途中に一度テンポの速いジャズを挟み、まるでミュージカルの一場面を観たような気分にさせられる。

歌は幼少期の「アタシ」の「ママ」との思い出と、現在の「アタシ」からの問い掛けで構成される。かつて「アタシ」は、「ママ」の鏡の前の「とびっきり魅力的」な「何か」に夢中になった。そして「ママ」は「アタシ」を、「あなたは美しい」と褒めていた。レディー・ガガの『Born This Way』にも似たような描写があるが、ここだけ見ればとても微笑ましい。しかしそんな「ママ」の元で育った現在の「アタシ」は、目に見えるものしか信じず、自分の事を恨んでいるという。『Born This Way』の主人公が自分の生き方を誇らしく歌うのとは全く逆の結果となったのだ。

「ママ」は「アタシ」を「美しい」と褒める際、その美しさのお陰で「王子様が眠りから覚ませる キスをしに来る」と帰結させていた。裏を返せば、王子様とやらが来るまではただ美しい姿で眠っていれば良い、という事であり、顔を上げて自分の道を歩むように、とは教えていないのである。「ママ」の言う「美しい」とは、例えば『Beautiful Fighters』の「乙女達」や、ここから3曲先に収録された『how beautiful you are』の「あなた」の生き方とは違う、表面的なものに過ぎなかったのだろうか。

「アタシ」が憧れるからには、「ママ」も「美しい」人なのだろう。それこそ待っているだけで「王子様」が寄って来たのかもしれない。そんな「ママ」に「アタシ」は、「愛」について「いくらで売っているの?」「ねぇ貴女はどこで買ったの?」と問う。愛を売り物だと認識している事からして暗澹たる気持ちになるが、ここで改めて楽曲タイトルを見てほしい。「次の愛」を主人公が探しているのなら、最初の愛は何だろう? 自分をいたずらに褒めそやした「ママ」に対するものなのか。あるいは一度、「王子様」らしき人に出会ったが、上手く愛を見つけられなかったのかもしれない。

 

 

歌詞リンク:浜崎あゆみ the next LOVE 歌詞 - 歌ネット

 

 

Eyes, Smoke, Magic

作曲:Timothy Wellard

編曲:中野雄太

 

ブラスの音とコーラスが華やかなジャズテイストの楽曲で、やはりミュージカルのような雰囲気を漂わせている。電話のけたたましいコール音や笑い声が入り交じり、テンポを速めたり遅くしたり極端に揺らす様は何処かコミカルだ。

そんな曲調に載せて歌われる歌詞もまたおかしみを誘う……と思いきや、おどけた言い回しに騙されずによくよく読み解くと、なかなか辛辣な内容である。『the next LOVE』に続いてこの曲にも「ママ」が登場し、更に新しく「パパ」もいるのだが、二人の関係があまりよろしくないらしい。

テレビを見るばかりで他に関心を向けない「パパ」、そのせいで不機嫌になるものの直接不満をぶつける訳でもない「ママ」。主人公の「あたし」はそんな家庭の様子を「見て見ない」ふりをしてやり過ごしている。「そうあたしのベストフレンドは ダイヤモンドとローズ達」という歌詞を見るに、そういうゴージャスなものを持てるような家なのかもしれないが、「ママ」に「それ以上に価値があるモノ」を教わっていない「あたし」は、満ち足りていると言えるだろうか。この辺りの表面的な価値判断は『the next LOVE』にも共通する。

タイトルでもある「Eyes, Smoke, Magic」とはどういう意味だろうか。スラング的な意味があるとすればどなたか私に教えてほしいのだが、何にせよ、主人公の「あたし」が家庭の様子から目を背け、「ひっそりいくわ」という時の合言葉である。なるべく家の中の事に触れない術を身に着けてしまった「あたし」。この環境が気掛かりだ。

 

 

歌詞リンク:浜崎あゆみ Eyes, Smoke, Magic 歌詞 - 歌ネット

 

 

Serenade in A minor

作曲・編曲:中野雄太

 

 

ストリングスのみで構成されたインストゥルメンタル。感傷的で、時に堪え切れない感情を吐露するかのようなメロディーを、タイトル通りAマイナーで奏でる。このシンプルなインスト曲の後、アルバムは『how beautiful you are』で感動的にパーティーの幕を下ろす。

 

 

how beautiful you are

 

3rdデジタル・ダウンロードシングル。当該記事を参照。

 

 

 

 

※「13thアルバム『Party Queen』(中編)」の『Letter』について、加筆修正しました。ニュアンスは少し変わっています。以前の書き方だと、解釈がかなり狭まってしまうからです。

13thアルバム『Party Queen』(中編)

〔『Party Queen』の記事 【前編】 【中編】 【後編】

 

call

作曲:大西克巳

編曲:tasuku

 

インスト曲を挟んで、ここからはあゆ独特の自省的な路線となる。会場から出て冷たい夜風に当たり、パーティーの酔いを徐々に醒ますかのようだ。浮かれた空気は消え去り、ここまで僅かに見え隠れしていた影の部分が、一気に前面に出てきた感もある。まずは乾いたギターの音が何処かうら寂しい、オルタナティヴ・ロックのこのナンバーから。

「僕」はかつて「君」と共に見た朝陽を思い出す。「始まりのような終わりだった」その光景。「君は覚えてなんかいないんだろう」という推量や、過去形で語られる「君」についての実感、「全て幻だったんだよ」と誰かに言い聞かせられたいという願望は、今や「君」がどんなに遠い存在になってしまったのかを間接的ながらもありありと表現する。「始まりのような終わり」で「精一杯 笑っていた」と言うのは、互いのためにこそ“前向きに”別れたという事だろうか。何にせよ二人の関係は変わり、「ひとりにはしないよ」と言った「君」はもう側にはいない。そして「僕」は結局、未だに「君」の事を思い出している。

「ひとりにはしないよ」と言われた時、「ずっと探し続けてた 何かを見つけた」気がした事。「君」の温もりに触れた時、ある感情を「生まれて初めて感じていた」事。「僕」は「ねぇ一体 あれを何と呼ぶの?」と誰にともなく問い続ける。何故今はもう無いのか、せっかく「探し続けて」きて「生まれて初めて感じ」たものを何故自分は無くす事になったのか、もう無いという事は自分のあの時の実感は間違っていたのか――どうしようもない喪失が込められたシンプルな問い掛けこそ、「あれ」が温かく愛おしい名前で呼ばれるものだった事を示しているのだろう。「wow」「yeah」という男声のコーラスが印象的で、それに呼応するあゆのヴォーカルは、言葉にならない声そのものだ。物悲しさをそのままに、次の『Letter』に続く。

 

 

歌詞リンク:浜崎あゆみ call 歌詞 - 歌ネット

 

 

Letter

作曲:大西克巳

編曲:tasuku

 

『call』とは作曲者と編曲者が同じ事もあって雰囲気が似ているが、よりウェットで感情的なイメージがある。こちらも「僕」と「君」は距離があるらしく、あるいは『call』と同じ二人の物語なのかも知れない。

「僕」は遠くの「君」へ、「そっちはどうだい?」「友は居てくれるかな?」と、手紙を綴るかのように問い掛ける。何か過去の思い出があるらしい「あの場所」は、あるいは『call』で朝陽を見た場所だろうか?主人公は「まっすぐでまっすぐで 誤解ばかりで なかなか理解はされなくて」という「君」を「好き」でいる。それほど相手を理解し受けとめる心がありながら、「君」が決して近くにいる存在ではないのが何とも切ない。

2番では、ひと握りしかない「シアワセ」のために、「鼻水とか垂らしてさ 這いつくばってるんだよ」という歌詞が出てくる。あゆ作品ではたびたび人の弱さや影が赤裸々に語られてきたが、「鼻水」というあからさまに汚い単語が出てきたのは初めてで、この上なく泥臭くみっともない描写を際立たせている。シアワセを掴むために時には必要な、「かっこ悪い」生き方。仮に『call』と同じ二人の物語であるとすれば、二人が離れたのもその「かっこ悪い」経験の一つだろうか。それとも「かっこ悪い」生き方をした結果離れてしまったのか。何にせよ、「僕」は「君」を好きだと言う。互いの場所で、これからも「かっこ悪」く必死に生きてゆくのだろう。

「君」は飲み過ぎるのと反省するのを繰り返してしまう一面もあるらしい。一応ここでもまた、「飲む」という行為がある。アルバム序盤にいたパーティークイーンも傍から見るとそういう人もかも知れない。そして、あゆにとっての「君」がいるであろう事は承知の上で、あゆファンとしては、「まっすぐでなかなか理解されない」のはあゆ自身のようにも思えてしまう。

 

 

歌詞リンク:浜崎あゆみ Letter 歌詞 - 歌ネット

 

 

reminds me

作曲:中野雄太

編曲:tasuku

 

まず冒頭の一節に漂う、疲労感が凄まじい。「疲れた身体と一緒に 暗い部屋に辿り着き 灯りをつけなくちゃって あの瞬間が大キライ」。スターの多忙さは言わずもがなだが、灯りをつけるのさえ億劫になる経験は、誰しもにあるのではないか。「疲れた身体と一緒に」という、疲れを自らと切り離す表現から、それだけくたくたである事や、共にあるのが自分自身の疲労のみであるという孤独感が伝わってくる。あゆは光の裏にある影を様々描いてきたが、擦り切れた生活感をここまで表現するのも珍しい気がする。前曲『Letter』の「鼻水」のくだりもそうだが、アルバム序盤のパーティーの浮かれた雰囲気からの落差はいよいよ激しい。

疲労のピークに達している「僕」は、忘れてしまいたい、けれど「忘れちゃいけない」過去の痛みと向き合う事になる。そして、その過去に関わっているらしい「あなた」の事を、「許してあげられるといいな」と思う。許せないだけの理由があるはずなのに、いずれ許した方がいいとも思っているのは何故なのか。あゆ作品には、良い事であれ悪い事であれ全ての過去が現在を形作っている、という価値観が見える事がある。感情的には受け入れられなくても、「道」が続く上では必要な過程だったという事かもしれない。

楽曲は単純な1番2番というような構成ではなく、中盤はずっとサビが続いている。疲れ切って部屋に着いたところから虚無感を伴って始まり、徐々にストリングスが劇的に響くロックへ。最後はまた疲れ切ったくだりを繰り返して終わる。

 

 

歌詞リンク:浜崎あゆみ reminds me 歌詞 - 歌ネット

 

 

Return Road

作曲:D・A・I

編曲:中野雄太

 

あゆ作品の根幹を支えてきた自省的でダークな空気は、アルバム冒頭の一見明るい3曲にも潜み、逆にこの陰のあるパートの楽曲も、よく見れば細かい部分で珍しい要素に思い当たる。その中で、この曲はなじみの深い路線が一番現れた作品かもしれない。オルガンやストリングスが悲しくも壮大なシンフォニックサウンドを作り出すロックバラードに載せて、訪れた別れが描かれる。2番の後の間奏ではピアノが狂気を奏で、コーラスが悲劇性を強調するように響く。

互いの瞳に互いを映し、呼吸を忘れる程の出会いをした2人。目を閉じれば、その場面は道を引き返したようにはっきりと思い返せる。しかし今、「私達の瞳に2人はもう居な」い。「だからって 別の何かが 映ってるとかではなくて」という一節の何と切ない事か。他の誰かや何かの方が大切になったわけでもないのに、ただその人が瞳に映らなくなってしまう。想いの行き場がなく、やり切れない。

「他人は面白く可笑しく言うでしょう こんな私達を」「2人の事は2人にしか解らない」というところには、あれこれ憶測で言われがちなスターの立場も垣間見えるが、実際、当人達にしか分からない真実は存在するものである。「2人はもう居ない」というのは、単に想いが冷める事とも違うのかもしれない。想いが変わらなくても見え方は変わりうるのだ。「あの日 確かに見えた もの」が嘘ではないからこそ、その落差は大きい。『appears』では一見幸せそうな2人でも全てが上手くいっているとは限らない、と歌われたが、この作品は、別れもまた外から見えるほど単純ではない事を伝えている。

PVでは、何かの研究施設のようなところに、あゆがバンドと侵入し、激しいパフォーマンスを見せる。喪服のごとき黒一色のドレスで物々しい戦車に乗るあゆは一体何を思うのか。ロボットのように歩く集団が不気味である。

 

 

歌詞リンク:浜崎あゆみ Return Road 歌詞 - 歌ネット

 

 

Tell me why

作曲:Hanif Sabzevari, Lene Dissing, Marcus Winther-Jhon, Dimitri Stassos

編曲:CMJK

 

寂寥感や虚無感を漂わせるR&B。 主人公の自称ではないが、「俺」という一人称が初めて登場する。

ダークなパートに入ってからは離れてしまった2人が登場する歌が続き、その最後であるこの歌にしてようやく離れていない2人が描かれた。ただし、近くにいるのに遠く感じる、という、結局は距離を感じさせる関係ではある。

「私」は「あなた」に「今なにを想っているの?」「その声で聴かせて欲しい」と切実な気持ちを向けている。「あなた」の瞳に「優しいものとか温かいもの」だけが映っている事を願っているが、現実がそうではない事も分かっているらしい。一方「あなた」はどのような様子かと言えば、「いつも全てひとりで 背負ってひとりで苦し」み、「悲しい目で無理矢理 楽しいよって顔してみせ」ている。それはもしかしたら「私」への思いやりなのかもしれないが、「私」はそんな「あなた」の無理に笑ってまで自分だけで抱える姿に無力さを覚え、「少しも支えてあげることも出来ない?」と嘆く。

SURREAL』に「ひとりぼっちで感じる孤独より ふたりでいても感じる孤独のほうが 辛い」という歌詞があったが、この歌に描かれているのも、近くにいるはずなのに心に寄り添えない寂しさや辛さだろう。また、あゆ作品でよく歌われるのは、大切な人とは良い事も悪い事も分かち合いたいとか、大切な人には自分の闇や影も見せていたいという事への、並々ならぬ覚悟だ。それだけに、相手の「痛みや迷いや過去」を感じながらも触れられずにいる悔しさは、計り知れない。

曲全体には溜め息のようなヴォーカルが散りばめられ、終盤は「oh oh Tell me why(訳を教えて)」と懇願するかのように繰り返す。相手を巻き込まないように黙っているのと、相手を孤独にさせないように打ち明けるのと、どちらがその人のためになるのだろうか。少なくともこの歌の「私」は後者を望んでいるようだが。

 

 

歌詞リンク:浜崎あゆみ Tell me why 歌詞 - 歌ネット